コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 七色きゃんでぃー ( No.13 )
- 日時: 2012/06/10 02:58
- 名前: 生卵。 ◆l5afVy7QjU (ID: DIefjyru)
「「もう知らん!」」
あのあと五分ほど繰り返された公論。
二人の声が重なるとそれまでの勢いがうそのように部屋は静まり返る。
汐梨もあまりの気まずさに耐え切れず何か言おうとするが言葉が浮かばない。
「ちょっと汐梨もう夜よ?!何大声で叫んでる—…って巧ちゃんじゃない」
その気まずい沈黙を破ったのは汐梨の母だった。
どうやら勢いでかなり大きな声になっていたらしく、耐え切れず部屋まで上がってきたというわけだ。
巧が居るのに気が付き急に笑顔になる。巧にやさしいのはいつもの事だった。
「巧ちゃん何時から来てたの?ベランダからじゃなくて玄関から来てくれてよかったのに」
まずベランダから入ってくることを不思議に思わないのはもうこれが習慣になってきているからだろう。
例え幼馴染だとしても年頃の娘の部屋に無断で男が入ってくることに違和感を持ってほしい、汐梨は己の母を見ながらそう思った。
「それよりさっきの怒鳴り声は何だったの?」
当然の質問だ。
普段はあまり喧嘩をしない二人が珍しく怒鳴り合っていたのだ、不思議にも思うだろう。
「じ、実は…」
先程までのいきさつを話すと母は二人の頭を軽くたたいた。
叩いたと言うより手を載せたに近いかもしれない。
「巧ちゃんの性格だから仕事を投げ捨てちゃうのは分かるけど、それで追った責任を汐梨に擦り付けるのはよくないわ」
母の行ったことは筋が通っていて巧もシュン、と項垂れた。
「汐梨も、今までの鬱憤が溜まってるのは分かるけど巧ちゃんだって情けないって思ったり色々考えた上で頼んでるのよ?それなのにあのにあんな言葉をかけることもないでしょう」
確かに、冷静になって考えればこうも一応申し訳ないと思い今まで黙っていたのだ。
二人で落ち込んでいると母は喧嘩両成敗よ、それと静かにしてね、と言って部屋を後にした
「えっと、ですね」
再び少し気まずい空気になった、しかし訪れたのは沈黙ではなかった。
「俺も言い過ぎたことは謝るよ」
「わ、私も」
(何だこの青春ドラマみたいな展開)
そう一瞬思ってしまったが二人とも謝り事なきを得た。
結局私は巧の課題を手伝っている。
「じゃあまた明日な、東条」
「はいはい、今度こそ本当におやすみなさい」
ベランダでそう別れを告げる。
隣に移っていく巧の背中を見て思い出したように汐梨が言う。
「東条じゃなくて汐梨って呼んでよ」
「は?」
片足が隣のベランダの手すりに着いた状態で顔だけをこちらに向けた巧の顔は驚いたように目が少しだけ見開かれていた。
「中学入ってからずっとそうだったけどやっぱり慣れないよ」
「いや、やっぱなんていうか恥ずかしいじゃねーか」
「何でよ」
「ばっ、何でってそれはあればよお前だって変な誤解されたくないだろ」
「いや、それは分かるけど私たちが幼馴染だなんてみんな知ってることじゃん」
焦ったように少しだけ顔を紅潮させる校に対して汐梨はいたって冷静だった。
そう、二人が幼馴染であることは学年ではたいていの人が知っている。
「はあ…分かったよ、下の名前で呼べばいいんだろ」
「そうそう」
しぶしぶ了解する巧とは裏腹に満足げにうんうんと汐梨はうなずいていた。
「じゃあおやすみ…汐梨」
「おやすみー」
汐梨は部屋に戻って自分が風呂に入ってないことを思い出した。
巧は自分の家のベランダでうずくまり赤くなり熱い火照った方を冷やしていた。
しかしそんなこと汐梨は知らないのでしたとさ。