コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の一 ( No.1 )
日時: 2012/06/11 13:48
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/1/

 ——市内某所。
 人々が賑わいを見せる繁華街……。

 仕事帰りのサラリーマンなどが居酒屋に立ち寄り。
 酒を飲みながら談笑を交わす騒がしい場所から少し離れた路地裏には一見さんには憚られる一軒のバーがあった。

 ——Broken Angel Wings(翼が折れた天使)

 と、怪しく光るネオン看板が軒先に下げられ。
 クリスマスでもあるまいし、色鮮やかに光の装飾が施された外装である。
 そんなバーにぞろぞろと入って行く不審な人物たちがいた。

 その者たちは服装こそパーカーやらスーツ、ドレスと言った統一性がないものの、一つだけ共通点があった。
 それは彼らの服装のどこかには必ず白い翼のブローチが付いている事である。
 彼らはバーに入るすんでの所で、持参した仮面を付けて店内に入って行く。
 傍から見れば仮装パーティーの参加者たちに見えなくもないメンツだ。

 ——中に入ると。

 店内は薄暗く。
 カウンター席とテーブル席の二種類の座席があり。
 パーティーをするには少々狭いフロアながらも、先着順から空いている席に通され。
 残った者は案の定……立ち飲みとなった。
 そんな人でひしめきあう店内だったが一席だけ……。

 ——テーブル席が空いているにも関わらず、誰もそこには座ろうとはしなかった。
 誰かのために残しているような風にも見受けられる。

 そのテーブル席の傍には演壇があり。
 各々好きな飲み物を手に取った者が、次々と演壇に熱い視線を送り始める。
 特に何かがある訳でもない、そこに果たして視線を向ける必要があるのだろうか?

 ——すると、突然店内が真っ暗になり、来場者たちが少しざわめき始めた。

 それを見計らって演壇に向けてスポットライトが照らされ、何かに気付いた来場者たちは一斉に歓喜して、店内が少し揺れ動く。

 そのスポットライトの先には白と黒の対極的な色ながらも左右対称で目元には水滴模様が描かれた仮面を付け、白いワイシャツに白い翼のブローチを身に付ける、その下にはジーンズという、ラフな格好をした人物が立っていた。

 仮面の人物は歓喜に沸いた来場者たちをなだめようと両手を小さく上下に動かし、キザな対応をとる。
 しばらくして、店内は静寂に包まれ。
 仮面の人物は自分の姿を後方にいる者たちにも見せつけようと演壇の縁まで足を運んで丁寧にお辞儀をし、徐に口を開いた。

 「——皆さんお久しぶりです。無事、この地に舞い降りる事が出来てこれも皆さんのおかげだと思います。……ありがとう」

 静かにそう語る。
 と、来場者たちのボルテージが再び上がって店内がまた揺れ動いた。
 そして、仮面の人物は再び来場者たちをなだめて、制止させる。

 「——ゴホン。……えっと、まどろっこしい挨拶はナシにして、皆でパーっとやりましょう! かんぱ〜い!」

 右手に持っていた空のグラスを掲げて乾杯の音頭を取る。
 と、来場者たちも仮面の人物に釣られて一斉に、

 『乾杯!』

 と、嬉しそうに告げた後に、飲み物を一気に飲み干し、各々談笑に入った。
 仮面の人物はゆっくりとした足取りで演壇を後にして、演壇の傍にある。

 ——彼のために空けられていた、先ほどテーブル席に腰を掛けると小さく息を吐いた。

 今回の集会は彼にとって久しぶりで。
 そのため、緊張していただけにボロを出さず、無事に終えて「ホッ」としたようだ。

 「——お帰りなさい、ミカエル」

 テーブル席に腰掛ける仮面の人物の事を「ミカエル」と呼び。
 何の躊躇いも無く、隣に腰を掛けたボブカットの少女。
 そんな彼女の身なりは、蝶をモチーフにした仮面を付け、服装もどこかの制服なのだろうか、セーラー 服の上にエプロンと言った姿である。

 少女はさり気なく「ミカエル」と呼んだ人物の前に飲み物が入ったグラスを置き。
 それにミカエルは手を伸ばし、飲み物を口に含んだ。
 すると、ミカエルが突然、飲み物を勢い良く噴き零し。苦しそうにむせ返った。

 「……コレ、何?」
 「健康ドリンク?」
 「何故に疑問形?」
 「いや、お——マスターが『祝いだ、持ってけ』って……」

 少し申し訳なさそうに語りながら少女は自分たちが座るテーブル席の向かい側にあるバーカウンターに視線を向け。
 ミカエルも少女に釣られるようにそちらに視線を向けた。

 視線の先にあるバーカウンターには雑貨屋によくある定番の髭メガネを付け、親指を立てて口元を緩め、白い歯を光らせる中年男性がいた。
 そんな中年男性の姿に二人は額を押え、大きく嘆息をした。

 「——で、コレの中身は何?」
 「……知りたいの?」
 「いや、やっぱやめとくわ。世の中には知らなくても良い事があるもんな……」
 「うん、私もそれには同感……」

 意見が合った二人は徐に謎の液体が入ったグラスに視線を向け、凝視した。
 グラスに入った液体は無色透明で一見普通の飲料水に見えなくもない代物なのだが、先ほどの事があるので、普通の飲料水ではないのは明らかだった……。

 「でもさ、飲む前に気付かない?」
 「え? 何が?」
 「コレ、結構臭いよ……」

 顔を引きずりながら徐に鼻を摘む少女にミカエルは首を傾げる。

 「……生憎、鼻が詰まっていて良く分からん」
 「そう。それは不運と言うべきか幸運と言うべきか悩む所ね」
 「そんなにヤバい匂いなのか?」
 「うん。ミカエルが話す度に匂いが来るよ」
 「マジか。それは……うん、ごめんなさい」
 「いやいや、こちらこそ何か……ごめんなさい」

 これを期にお辞儀の応酬が続き、おかしな空気が辺りに漂い出した。
 談笑していた来場者たちもそのおかしな光景に気付き。
 怪しげな笑みを浮かべながら二人のやりとりを見つめる。
 「ニヤニヤ」と、自分たちを見つめる視線に気付いた二人は頭を掻き、照れながら苦笑した……。
 すると、仕様もない所をメンバーに見られてしまったミカエルが名誉挽回と言わんばかりに。

 ——突然、グラスを手に取って立ち上がった。

 その行動に来場者たちは湧いたが少女だけは違った。
 ミカエルが手に取ったグラスは未だに原材料が分からない代物を使用して作られたあの謎の液体が入ったグラスだった。
 そして、ミカエルがこれから何をしようとしているのかは流れ的に理解している少女は少し顔を引きずりながらも、不安そうな眼差しを彼に送る。

 『一気! 一気! 一気!』

 手拍子を交えながら一気コールが店内に響き渡る。
 その勢いに身を委ねてミカエルは謎の液体が入ったグラスを口元に近づけると、躊躇う事無く口に含み、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。
 飲み干し、空になったグラスを掲げると店内は歓声に包まれ。
 ミカエルは徐に口元を緩める……。
 その会場の反応に安心したのか。

 ——突然、ミカエルはグラスを掲げたまま前方のテーブルに倒れ伏せ。

 その卓上にあった物は全てこの衝撃で転げ落ち、床一面に飲料水が飛散した。
 唐突の事で呆気に取られた面々ではあった。
 が、良く良く見てみると、ミカエルの身体が小刻みに震えており。
 その様相から「痙攣している」と判断したメンバーたちは一斉に、

 『ミカエルーっ!!!!』

 と、店内に悲鳴が響き渡り、飲み会どころじゃなくなってしまい。

 ——久しぶりの集会は、早々に打ち切られたのであった……。