コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 ( No.3 )
日時: 2012/06/11 15:00
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/3/

 身体がダルイ。
 いや、身体が重いと言った方が合っているのだろうか?
 寝返りを打とうにも身体が思うように動かない。

 ——金縛りに遭っている……?

 いやいや……そんな非科学的なモノは信じないぞ。
 それに「金縛り」って、要は脳が起きているにも関わらず、身体がまだ眠った状態の指すんだろ?
 でも、俺の場合、手だけはしっかりと動くからこれは金縛りじゃない。

 だったら、何が原因なんだろうか?
 目を開ければ、その原因が分かるのだろうか?

 ふむ、このまま眠り続ける訳にもいかない、か……。

 俺は原因を突き止めるべく、ゆっくりと閉じていた目を開ける。
 徐々に明らかになって行く、視界の中。
 馬乗りになってこちらを凝視しているセーラー服姿の人物が現れた。

 「にぃに〜、私を学校に連れてって」

 と、上目遣いで媚びるように開口一番にアホな発言をしたそいつは、ボサ髪童顔の八重歯が特徴的な小 悪魔少女で。
 俺は開けた瞳をゆっくり閉じて、もう一度寝る事にした。

 ——うん、疲れているんだな、きっと……。

 だから、この部屋に居やしない少女の姿が見えるんだ。

 ——ナンマイダブツナンマイダブツ……。

 これで少女の霊は報われた事だろう……。
 さて、もう一眠り——グホッ!

 「にぃに〜起きてよ〜。起きないと遅刻するよ〜」

 俺の身体の上で馬乗りになっていた少女が、なかなか起きない俺に「制裁」と言わんばかりに跳ねていた。
 その反動で少女の全体重が俺の腹部を圧迫する。

 「分かった。分かったから腹の上で跳ねんな。——吐くぞ、このヤロー」

 観念して俺は目を開け、少女に苦言を呈した。
 ようやく起きた俺の事を彼女は……。

 ——新堂杏(しんどうあん)は何故か分からないが徐に鼻を手で摘んだ。

 「……にぃに、臭い」
 「これが年頃の少年の匂いだ。臭けりゃ〜部屋に入って来るな」
 「ぶぅ〜」

 フグみたいに頬を膨らませて拗ねた杏の膨らんだ頬を鷲掴みにし。
 俺は杏が言う「悪臭」の元であろう口臭を吹きつけてやった。
 あまりの臭さに彼女の目が充血し、涙を浮かべながら苦悶な表情を浮かべる。
 だが、その悪臭から逃げようにも俺に頬を鷲掴みにされ、逃げ場を失ってしまった杏はそのまま白目を向き、気絶した。

 ——凄い効力だ……。

 昨日、あれほど噛むタイプのブレスケアを口にしたにも関わらず、これほどの威力を発揮するなんて、俺の身体に一体何があったんだよ……。
 俺は小さく息を吐いて肩を落とした。

 昨晩、気が付いたら行きつけの店のソファーの上だった。
 そして、何故だか俺の口に三重にしてマスクが付けられていた。
 首を傾げながら、マスクを外そうとしたら俺の事を看病していたであろう桜乃美嘉(さくのみか)に腕を掴み取られ、

 「外しちゃダメ!」

 と、叱られてしまう。
 「何故、外しちゃならんのか」その理由が分からずにいた俺に桜乃は優しく微笑み掛けながら、俺の手に一箱の噛むタイプのブレスケア(グレープ味)を握らせ。
 手中に収めるそれを眺めていると、自ずと俺の目頭が熱くなって来ていた。

 ——それだけである程度の状況を察したからである。

 ……はぁ〜。

 俺は未だに腹の上で白目を向き、気絶をしている杏の襟元を掴み、引きずりながら部屋から放り出した。
 そして、扉を閉めるとドアの上段部分から順番に施錠して行く事……。

 ——八つ目を掛け終え、俺はベットにダイブをして横になった。

 ……ふぅ〜、これで邪魔者は居なくなった。
 これで心置きなく、眠れ……。

 【ガチャン!】

 「にぃに! どうしてこんなにも可愛らしい妹を放り出すかなぁ〜⁈ 考えられないよ!」

 頬を膨らませながら部屋の中に「ドカドカ」と激しい足音を立てながら可愛らしい(?)我が妹が入って来た。

 「……どこの世界にピッキングする可愛い妹が居るんだよ」
 「ぴっきんぐ? 何、意味分かんない事を言っているの? 普通に開けただけだよ」
 「じゃ〜何だ、その細長い工具の数々は……」

 俺は杏が手に持っていた「ピッキング」に使用したであろう工具に視線を向けた。
 指摘された杏は証拠隠滅とばかりにすぐさま工具を懐に隠したが、バレバレである。

 「ヤダなぁ〜にぃには……。杏は何も持ってないよぉ〜」
 「……なら、跳んでみろ」
 「何、そのカツアゲ的な命令。——にぃに、怖い〜」
 「そうか……。——なら、身体検査だな」

 俺は徐に立ち上がって杏に近づいて行く。

 「え?」

 俺の発言に杏は素っ頓狂な声を上げて間抜け面をさらした。
 そして、言葉の意味をどう解釈したのか分かりかねるが突然、頬を紅く染め、瞳を「うるうる」とさせて、少し怯えたような視線をこちらに向けて来る。

 「……優しくしてね。にぃに」
 「はい?」

 甘ったるい声で発せられた杏の言葉に俺は首を傾げた。
 えっと……どう対応したらいいのか分からん。

 「ほら、早く。ここがドクンドクンって、なってるよ。にぃに……」

 杏は俺の腕を掴むと、徐に自らの胸に俺の手を押し当てた。
 胸を触れられ、杏は声を殺し堪えていたが……。

 ——正直の所、そこは何もなく、見渡す限りの水平線が広がっているだけだった……。

 「……ね? ドクンドクンってなってるでしょ?」

 頬を紅く染め、恥ずかしそうな表情を浮かべながら杏は口走った。
 だけど、

 「ああ、そうだなぁ〜。虚しさだけが心に染みる……」

 俺は彼女の胸に押しつけられていない空いた腕を自分の胸に置いて、猛省した。
 言葉の綾(?)とは言え、妹の慎ましい胸を触らせてもらう変態的な流れを作ってしまい申し訳ない。

 ——妹よ、これからだ。

 これからお前の平地に立派な双丘が出来上がるだろう……。
 だから、めげずに頑張れよ、杏……。

 「……ね〜、にぃに。何で涙ぐんでいるの?」
 「それはね。男の子だからさ」
 「男の子は女の子の胸を触りながら泣くの?」
 「そうだねぇ〜。だけどね、これは神様の不公平さに悲観した涙なんだ」
 「不公平さ?」
 「そうだよ。こうして女の子(妹だが……)のお胸を触れさせてもらっているのに得るモノが何一つないんだ」
 「それって……どういう事?」
 「つまり、掴め——グフッ!」
 「にぃにの馬鹿! 変態! モ○ボ○!」

 【ガチャン!】

 と、杏は扉を勢い良く締め。
 俺に鳩尾への打撃による痛みだけ残して出て行った……。

 ——ふん、これでいいさ……。

 その悔しさをバネに立派になるんだぞ、杏……。
 杏の攻撃が心にまで響き、俺は膝から床に崩れ落ち、そのまま床に倒れ伏せた……。




 ——よし、学校に行く準備でもするか……。

 俺はさっさと起き上がってクローゼットから制服を取り出して、それに着替え。
 桜乃に渡されたマスクを即身に付け、噛むタイプのブレスケア(オレンジ味)をスクールカバンに忍ばせて、自室を後にした……。