コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- (2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 ( No.4 )
- 日時: 2012/06/11 15:04
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/3/
自室を出ると。
怒って先に出て行った杏が玄関先で靴を履いており、俺の姿を見るや否や、
「べぇ〜」
と、舌を出して憎たらしい態度を取って来た。
だけど、先に靴を履き終わったにも関わらず、座ったまま動こうともしない杏の姿を見て、俺は自ずと嘆息を漏らす。
また、か……。
頭を掻きながら俺も靴を履き、徐に杏が座る前に腰を下ろす。
すると「待ってました」と、言わんばかりに杏が俺の背中に乗りかかって来て、俺は杏が落ちないよう支えながら立ち上がり、背負う形となった。
これは杏が俺の部屋に忍び込み、目覚めた俺に向かって開口一番に発した言葉通りだ。
「私を学校に連れてって」
つまり、俺が杏を背負いながら一緒に登校する事である。
「じゃ〜出発進行!」
俺の背中ではしゃぎ始めた杏に呆れながら、俺たちは学校に向けて出発した。
外を出てしばらく歩いていると……。
案の定、近所の方々が奇異な視線で俺たち兄妹の事を見て来るが、別に気にならなかった。
ほぼ毎日の事で慣れてしまっているからである。
——ホント、慣れって怖いよな……。
だけど、幼い頃からこんなに仲睦まじい間柄ではなかった。
もう少し、ドライな関係だったと思う。
ドライと言っても全く口を利かなかった訳ではない。
ここまで身体を密着して、接し合う仲までではなかったと言う意味だ。
杏が言うには「空白の三年間」の埋め合わせだそうだ。
ふむ、埋め合わせを補うためにここまでベタベタされちゃ〜困るんだがな……。
一応、血の繋がった兄妹とは言え。
お互い年頃の少年少女なのだから周りの目も気にしてくれ……。
「ねぇ〜。にぃに」
「何だ?」
「昨日、どこに行ってたの?」
「どこだっていいだろ?」
「ぶぅ〜。必ず尻尾を掴んでやる」
「……そんな活力があるなら自分の足で学校行けや」
「ゴホン、ゴホン。ごめんね、にぃに……。いつも杏の身体を心配して背負ってくれて……。——杏、嬉しいよ」
「その病弱キャラはこれで何回目だ?」
「びょうじゃくきゃら? にぃに、酷いよ〜。杏が昔から身体が弱いのを知っているくせに、ゴホン……」
「はいはい」
聞き分けのないアホな妹の話を軽く流す事にして俺は黙々と足を進める事にした。
俺の華麗なる対応に杏は「これでもか」と言うほどにワザとらしく咳き込み始める。
背中から聞こえる耳障りな咳を無視しながらしばらく足を進めていると。
——突然、肩を「ポン」と叩かれた。
「俺に無視されて痺れを切らした杏が注意を引くためにやったんだ」と思いながら、無視していると。
また、肩を「ポン」と叩かれた。
先ほどよりも強い力だった。
「——何だよ、杏」
そう言いながら俺は視線を後ろに向ける。
と、そこには杏ではなく。
「ニヤニヤ」と気色の悪い笑みを浮かべる制服姿の美少年がいた。
「——相変わらず、仲がいいねぇ〜。お二人さん」
シャレた髪形をした茶髪に端正な顔立ち、やや細身のチャラ男こと菅谷涼(すがやりょう)が俺に背負られている杏の頭を撫でる。
涼とは中学の時に知り合い。
現在、お互い別々の学校に通っているものの。
たまにこうして登校時に出くわしたりする。
「お前、時間大丈夫なのか?」
彼が通う学校は僕らのように徒歩で行ける距離じゃない。
電車を使用して行かなきゃならないような場所にある。
だから、友人として悠長に歩く彼の事を少し心配した。
「大丈夫大丈夫。しっかりシフトがオツムに入っているからこのまま行けばギリギリ間に合う。——んな事よりも、留年生は大丈夫なのかい?」
「誰が留年生だ」
「え? 進級出来たん?」
「まぁ〜ギリな……」
「なぁ〜んだ。てっきり留年したと思ってたから、慎(しん)をからかおうとわざわざ遠回りまでしたってのに……。残念、無駄足かね……」
「最低だな、お前……」
「はぁ〜」と、俺は嘆息を吐く。
俺は別に成績の影響で留年しかかった訳ではない。
一年の秋辺りにとある事情で入院する事になり、出席日数の都合で留年を危ぶまれた。
だけど、前半休まずにがんばったおかげか。
その貯金でプラマイゼロとなり、事無きを得る事が出来たのだ。
「——でもさ〜。にぃにも不運だよねぇ〜。襲われた女の子を助けようとして果敢にも首を突っ込んだのは良かったものの。その結果が長期入院、留年ギリギリセーフの心臓バクバクコースを選んじゃったんだもん」
「杏ちゃん杏ちゃん。その女の子からしたら慎兄ちゃんは正義のヒーロー様だから、あまり言いなさんな。——まぁ〜第一、その女の子を襲った犯人さままでもかばっちゃうほどのお人良しさんに言ってもしょうがないけどね〜」
そう言いながら俺の事を怪しんでジト目で見つめて来る涼に俺は堂々とした態度で睨み返した。
「……ホント、おっかないな〜。だけどさ、心配して言っているって事だけは分かってちょうだいな。第一、目撃者が慎と——」
「おはよう、新堂くん。杏ちゃん」
と、突然俺たちに挨拶だけを残して、少女が「スタスタ」と歩いて行った。
「わお! これはツイてるね〜。——まさか、摺木(するぎ)嬢に会えるとは……」
前方を歩く、少女の背中を見つめながら口ずさんだ涼の頬は緩んでいた。
——摺木麻耶(するぎまや)、容姿端麗、文武両道。
クールな立ち振る舞いとそのルックスから他校生の男子までも虜にするモテモテ美少女。
腰の辺りまで伸びた黒のツインテールに前髪も綺麗に均等に整えられ、モデルのようなスレンダーな身体付き。
体型にぴたりと合った我が校の制服姿が凛々しく、常に欠かさず身に付けている白色の手套が気品に溢れており。
奥床しい乙女然とあまり肌を露出しない彼女は俺の背中にいる寸胴とは大違いである。
摺木と幼馴染の俺としては彼女の著しい成長に少し戸惑ってしまう事しばしば……。
「ホント、麻耶ねぇ〜はいつ見ても綺麗だなぁ〜」
摺木の魅力に同性である杏が見惚れてしまったようだ。
そんな、我が妹に友人の涼は優しく微笑み掛けながら杏の頭に「ポン」と手を置いた。
「大丈夫さ、杏ちゃん。これから劇的に成長するよ」
「本当!? 涼にぃ〜!」
「ああ、本当さ。数年したら杏ちゃんもボンキュッボンになってるさ」
「キュッキュッキュッじゃなくて?」
「うんにゃ〜。キュッボンキュッじゃなくてね」
『うひひひ〜』
何の笑みか知らんが二人して口元を隠しながら気色の悪い笑み浮かべる。
その姿は傍から見ればこれから悪巧みをしようと企んでいる小悪党にしか映らないだろう。
「アウッチ! 僕とした事が、摺木嬢の連絡先を聞くのを忘れていた……」
と、額を押えて涼は悔しそうにそんな事を口走る。
「いや、涼にぃには無理だと思うよ」
「む、今の言葉は聞き捨てならないねぇ〜」
「だって、麻耶ねぇの浮いた話なんて全然聞かないもん。そもそも、男の子には興味がないんじゃないかって、言われているぐらいだよ」
「……お前って、そういう類の話好きだよなぁ〜」
確かに摺木の浮いた話なんて聞いた事がなかった。
ほとんど、どこぞの有名な男子生徒をこっ酷く振ったやら、同性から告白されたなどの仕様もない噂話が校内では飛び交っている。
「うん! 噂話は淑女の嗜みってね」
「絶対違うと思うぞ〜」
「僕も同感〜」
「ぶぅ〜ぶぅ〜」
自論を否定され、拗ねてしまった杏をスルーする方向に至った俺と涼は途中まで一緒に登校し。
しばらく進んだ先にある交差点で涼は駅がある方向へ。
俺たち兄妹は学校がある方向に別れ。
——各々が通う学校に向かった……。