コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 ( No.5 )
日時: 2012/06/12 22:19
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/4/

 ——私立夕凪学園。
 小中高の一貫校でエスカレーター組と外来組が入り混じる大所帯のマンモス校。
 校風もかなり自由で法を犯さなければ何でもありである。
 だから、服装も私服のヤツが居たり。
 俺のようにきっちりと制服を着用しているヤツもいる。

 妹の杏は今年から晴れて高一なのだが、中一から着ていたセーラー服が未だに着用可能ので渋々ながらそれを使用。
 実は言うと、高等部用の制服(ブレザータイプ)を着たくて両親に駄々をこねたらしいのだが、通用せず。

 ——現在に至っている。

 妹の杏と違い、俺は心身ともに順調に成長を遂げたため、おかげさまで高等部用の制服を着用している次第である。
 ちなみに中等部用の制服は学ランとセーラー服。
 初等部用の制服はお坊っちゃま、お嬢様が着用するようなこぢんまりとした物だ。

 ——閑話休題。

 杏を背負っている俺はまず、杏を自身の教室に送り届ける事にした。
 いや、送り届けなければ周りにいる生徒たちからの熱烈な視線を解除できない。
 全く、モテる男はつらいぜ……。
 少し照れながら杏の教室に向かっていると、

 【バリボリ】

 と、何かを頬張る音が聞こえた。

 ——まさかな……。

 「……なぁ〜それおいしいか?」
 「ふぉいふぃよ〜」
 「ああ? もう一回言ってみろ」
 「——ゴクン。おいしいよ〜」

 陽気な返答に俺は少し立ち眩みを覚えた。
 人に背負わせておいて、自分はお気楽に食事と来た。
 それはそれは……ヤツの食べカスが服に付着している事だろうなぁ〜。

 「お客さん。申し訳ないんですが、車内は飲食禁止なんでね〜。お控願えますか?」
 「モウマンタ〜イ!」
 「こっちは問題ありだ! ——ったく、着いたぞ〜」

 仕返しとばかりに俺は杏を支えていた腕を解いて、そのまま振り落とす。
 杏は咄嗟の事でそのまま廊下に尻餅を付き、

 「ふぎゃ!」

 と、奇声を上げる。
 現在の彼女の様相はテディベアに見えなくもなかった。

 「……にぃに、酷〜い」

 強打した臀部を労わりながら立ち上がった杏に少し睨まれたが、俺は悪怯れる事無く。
 その様を「ふん」と、鼻で笑って軽くあしらってやった。

 「い〜だ!」

 ガキみたいな事を言い残して杏は自身の教室である一年三組に入って行き。
 それを見送った俺は小さく息を吐いた。

 ——これで心置きなく自由な行動がとれる。

 腕を頭上に掲げて伸びをしながら俺は自身の教室。

 ——二年二組へと向かった……。


 ——私立夕凪学園、高等部校舎三階。
 俺が二年二組の教室に入るや否や。
 突然、クラッカーの音が鳴り響いた。

 『——退院おめでとう〜』

 クラスメイトたちが退院して久しぶりに登校する俺に向かってそんな言葉を投げかけて来た。
 正直、唐突な事で頭が真っ白になったが。
 状況を呑み込めるようになった瞬間、自ずと顔が熱くなってしまった。

 「あ、ありがとう……」

 照れのせいで少々口ごもったが言いたい事は言えたと思う。
 しかし、どうして俺が入院していた事を知っているのだろうか?
 一年の時の同級生が口を滑らして話してしまったのだろうか?

 ふむ、考えてもしょうがないか……。
 ここはありがたく気持ちを素直に受け取るとしよう。
 すると、小柄でなよなよした女々しい男子生徒が、か細い声で、

 「こ、こちらへどうぞ」

 と、俺の事を誘導し始めた。
 その男子生徒のご厚意に甘える事にした俺は誘導された席(教室のちょうど中央)に向かい腰をゆっくりと下ろす。

 ——正直の所、助かった……。

 どこのクラスに編成されたかは知っていたが、席までは知らなかった。
 さっきの男子生徒に感謝しよう。
 席に着いた俺は机に肘を置き、それを顔の支えにして。
 今日一日「ボーっ」と過ごす事に決めたのであった……。

 途中、俺のマスク姿を心配してか、クラスメイトたちから色々な物を贈呈されたが……。

 ——決してカツアゲをした訳ではない事をここに誓う。

 昼食時になり、俺の卓上には贈呈された様々な物で溢れ返っていた。
 全体を占める割合はスナック菓子が六割、デザート類が二割、軽食飲料水が一割、その他(思春期男子の必須アイテム)一割である。

 「どう処分していいものか」と、ブツを眺めながら考察していると、目の前にビニール袋が「ひらひら」と舞い降りて来て、俺は徐に視線を上に向ける。

 視線の先には見慣れた女子生徒が……。

 ——摺木麻耶が目の前に立っていた。

 「えっと、摺木……さん?」

 状況が理解出来ずに首を傾げながら彼女に話しかけると、何も答える事無く。
 摺木は卓上に散乱していたその他(思春期男子の必須アイテム)の一つを手に取った。

 ——あっ。隠すのを忘れていた……。

 しかも、タイトルが「ロリっ子、大集合! お兄ちゃん大〜好き!」と丁寧にサブタイトルまで書かれていた。

 うわ……。
 これまた、誤解を招くようなタイトルの物をお取りになったな……。

 俺の心配を余所に摺木は無表情のまま、何も語る事無く「ロリっ子、大集合」なる本を見続ける。

 恥ずかしい!
 恥ずかし過ぎるぞ、おい!
 俺の物じゃないのになんなんだ、この恥ずかしさは!
 誰の物か分からない物のおかげでこちとら羞恥プレイにさらされたぞ、コノヤロー!!

 すると、最後のページまで見終わったのか、摺木は静かに本を閉じ、

 「……ふぅ〜」

 と、小さく息を吐いた。

 「摺木さん? これにはその〜色々と訳があって……」
 「分かっているわよ。クラスの男子たちからのお見舞いの品でしょ? ——うん、ちゃんと分かってるから……。——それに、もし新堂くんがこんな性癖の持ち主だったとしても私は真実をしっかりと受け止めてあげるから……」

 「分かった」と、言っておきながら少し蔑んだような冷たい視線で摺木は俺の事を見つめ。俺は咄嗟に先ほどのビニール袋を手に取って、それを頭から被って顔を隠す。
 一時的の処置だが、摺木の蔑視から逃れる事に成功した。

 ——わぁ〜、辺りが真っ白で何も見えないや〜。

 しかし、俺の安息の時間がすぐに終わりを迎える。
 摺木が被っていたビニール袋を淡々と引っぺがし。
 心なしか怒っているように見受けられた。

 「……新堂くん」
 「あっ、はい! 何でしょうか!」
 「……コレ、没収ね」

 摺木がいつのまにか綺麗に重ねたその他(思春期男子の必須アイテム)を指さしながら静かに投げかけて来る。

 「あっ……い、いいぜ。好きなようにしてくれ!」
 「何? 少し名残惜しいのかしら?」
 「い、いえ! 友人たちの気持ちをムゲにするのが心苦しくて……」
 「そう? ——でも、没収ね」
 「……はい」

 返事をするや否や摺木は黙々とその他(思春期男子の必須アイテム)たちを俺の卓上から持ち出し。
 どこに持って行くのか分からないが、教室から出ようとした所で急に立ち止まり、こちらを振り向いた。

 「——新堂くん」
 「あっ、はい。何でしょうか?」
 「そこのプリント、私の代わりに生徒会室に持って行ってくれないかしら? ——ほら、私はご覧の通り手が離せないから……」

 そう言いながら摺木は視線でプリントの位置を指示する。
 そのプリントは黒板前にある教卓の上に束になって置かれており。
 それを見つけた俺は軽く頷いて見せた。

 俺の反応を見てから摺木は軽く会釈をして、その他(思春期男子の必須アイテム)たちを持ってどこかに行ってしまった……。
 摺木を見届けた後に俺は小さく息を吐いて、肩を落として項垂れてしまう。

 アイツも俺と同じクラスだったのか……。
 何て言うか、格好悪い所を見られたなぁ〜勘違いしてなかったらいいが……。

 不安を抱きながら俺は摺木に頼まれた仕事をするべく立ち上がり。
 教卓に置かれたプリントの束を持って。

 ——教室を後にした……。