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(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.7 )
日時: 2012/06/13 22:29
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/

 「……お主、なぜ鼻を摘んでおる?」

 不思議そうな表情を浮かべながら人形もとい、行き倒れ少女が話しかけて来た。

 ——外人さん……何だろうか?

 普通なら俺のナリを見て怒る所だろうに……。
 それならそれなりの対応を取らねば、な……。

 「ああ、この国の風習みたいな物だ。地面に落ちてる物の安全性を確かめる際は鼻を摘みながら小枝で突く。——これ常識」

 俺は堂々と少女に嘘を吐いてやった。
 この嘘に少女は真摯に受け止めてくれたのか「ふむふむ」と、感慨深く頷く。

 「実に滑稽な様よな〜。我はてっきり我の事を汚物扱いしていたのかと思ったわい」
 「ヤダな〜。そんな失礼な事をする訳なかろうに……」

 オーバー気味に俺は顔の前で手を左右に大きく振って否定する。

 「そんな事よりも……。お前はどうしてこんな道端で寝てたんだ?」
 「それがじゃのぉ〜。——腹が減って動けなくなってしまったのじゃ」
 「ああ、それで……」

 なるほど、さっきの地響きもコイツの腹の音って訳か。
 しかし、化け物染みた音だったよなぁ〜。

 「——お主。我に何か食わせてくれんか? その引き締まったモモ肉でも我は良いんじゃが……」

 涎を垂らしながら口走った少女の視線が強く掴んで離さない俺の足に向けられていた。

 ヤバい……。
 腹が減り過ぎて幻覚を見ているようだ。
 このままでは本当に俺の足を食われかねない。
 どうしたら——って、あっ!
 あるじゃないか。おあつらえ向きのブツたちが教室に……。

 「分かった。分かったから俺の足を離してくれないかな? このままだったら動けないだろ?」
 「ふむ、承知した。——じゃが、条件がある」
 「何だ?」
 「とんずら防止のためにそこのレプリカどもは我が預かる」
 「れぷりかども? ナニソレ」
 「分からんヤツじゃな〜。それじゃよ、それ。そこの——魔導書の事じゃ」

 少女は顎を使ってその「魔導書」と呼んだ。
 俺が手に持つプリントの束を示した。

 「ああ、コレか……。分かった。じゃ〜そこのベンチにでも腰掛けて待っててくれ。すぐに戻って来るから」

 近くにあったベンチを俺は指さし。
 少女はそれを見て、

 「承知した」

 と、頷きつつプリントの束を俺から強奪して。
 少しおぼつかない足取りでベンチに向かい腰を掛けた。

 ——ふらふらじゃねぇ〜か。

 はぁ〜全く……。

 少女から一時的に解放された俺は頭を掻きながら自身の教室に足早と向かった。
 卓上に散乱していたブツたちを摺木から貰い受けたビニール袋に詰められるだけ詰めまくって「パンパン」に弾けんばかり膨れ上がったビニール袋を担ぎ、腹を空かせた少女の元へと戻る。
 傍から見れば季節外れのサンタクロースに見えなくもない風貌だろう。
 もし、誰かが俺の姿を見て何かを言って来たら俺はこう言ってやるんだ、

 「先取りだ、コノヤロー」

 と……。
 しかし、誰からにも何も言われる事無く。
 少女の元に着いた俺は心なしか侘しさに苛まれてしまった。

 「御苦労……って、どうしたのじゃ?」
 「いや、現代人って冷たいんだなぁ〜って……」
 「——この数分の間に何があったのじゃ……」

 嘆息交じりに少女は俺が担いで持って来たビニール袋を手に取る。
 と、目をキラキラと光らせながら物色し始め。
 俺は彼女の隣に腰を下ろした。