コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.8 )
日時: 2012/06/13 22:32
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/

 相当腹が減っていたのだろう、パッケージを見ているだけで涎が分泌され、

 「ジュルジュル」

 と、事あるごとにすすっていた。

 「なぁ〜聞いてなかったんだが、お前の名前は?」
 「ん? ああ、イリヤじゃ。イリヤ・シュガーライトじゃ。しかし、これは美味じゃのぉ〜」

 イリヤはおにぎり(鮭)を頬張りながらそう自己紹介してくれた。
 やはり、外人さんだったのか。
 うん、確かに西洋のお人形さんのようだ。

 しかし、凄い食欲だな〜。
 鮭おにぎりを食べ終わったと思ったら、続けざまにタラコおにぎりを美味しそうに食べ始めた。

 だけど、少し疑問が残った。
 外人さんってのは分かった。
 でも、ここまで流暢に少し古臭い口調ながらも日本語を話せるとは恐れ入った。

 ——イリヤ・シュガーライト、天才少女なのか?

 三つ目のおにぎり(ツナマヨ)を頬張る彼女を横目で眺めながら、俺はある事に気付き。
 嬉しさのあまり手を「ポン」と叩いてしまう。

 「——ああ、お前。本当の名前は佐藤光(さとうひかる)だろ」

 この言葉にイリヤは「ブゥー」と口の中の食べ物を噴き出し。
 涙目になりながら少しむせ返った。

 「だ、大丈夫か?」
 「大丈夫じゃないわ、戯け者! 誰がサトウヒカルじゃ阿呆!」
 「いや、シュガーライトなんて変わった名前で、しかも流暢に日本語を話すからさ。つい考察しちゃった、テヘ♪」
 「何が『テヘ♪』じゃ! おかげで我が食料が台無しになったではないか!」

 口周りに米粒を付けながら怒るイリヤの姿が滑稽で。
 もう少しだけ「佐藤光ネタ」でいじってやろうかと、イタズラ心に火が点いてしまった俺は——。

 「白状するなら今の内だぞ。後になって『本当はイリヤ・シュガーライトじゃなくて佐藤光です』なんて表明はやめてくれよ」
 「だ か ら! 我の名前はイリヤ・シュガーライトと何度言ったら——」
 「分かってるって……。事務所の方針なんだろ? 厳しいもんな、この業界は……。本当は千葉県出身なのに星人キャラ守らなきゃならんかったりするしな……」
 「……何じゃ、そのリアリティーある言い草は……。じゃが、我はセイジンでもなければチバケン出身でもないぞ!」
 「分かってるって、関東じゃなくて関西か? いや、間を取って北海道か?」
 「どう間を取ったのか分からんが……。言葉から推測するに——絶対違うとだけは分かった」
 「ふむ、じゃ〜どこなら納得なんだ? 九州か? 四国、中国か?」
 「……日本以外の選択の余地はないのか?」
 「なるほど、外タレって事ね。——じゃ〜やはり、お前の出身地は関東か……」
 「何故、そうなる?」
 「いや、かの有名なコメンテーターも埼玉県出身って話がだな……」
 「もう、良い! お主は根本的に色々と履き違えておる! 東洋人は皆こうなのか⁉」

 「ガブリ」と、自棄食いのように包装を取らずにそのままおにぎり(梅)を頬張り。
 違和感に気付いたイリヤはイライラしながらも包装を取って、再びおにぎりを頬張るが……。
 外人さんには少々馴染みがない梅を口にし、その酸っぱさのあまり表情を歪めた。

 「き、貴様〜! 謀ったなぁ!」

 「ポカポカ」と、俺に八つ当たりをし始めたイリヤの口周りには案の定……。

 ——米粒が付きっぱなしで。

 怒られているのも関わらず、俺は思わず笑ってしまった。

 ——さて、そろそろ潮時かな。

 俺もこんな事をしている場合じゃないしな……。

 イリヤに人質(?)として捕らえられていたプリントの束を回収し。
 徐に立ち上がった俺は生徒会室がある時計塔に向けて歩き出した。
 すると、イリヤが「グイっ」と、俺の制服の裾を引っ張って、それを妨げる。

 「まだ、何かあるのか? 俺はこう見えて忙しい身なんだが……」
 「……逃げるつもりか?」
 「は?」
 「逃げるつもりかと聞いておる」

 少し語気を強めて繰り返して述べたイリヤの言葉に俺は正直何の事を指しているのかが分からずに呆けてしまった。

 「あれだけ我の事を愚弄しておいて謝罪もなしにどこかへ行こうなど断じて許さん!」

 俺にからかわれた事がそんなに気に障ったのか、イリヤは憤りを感じずにいられないと軽く拳を握ってみせた。

 ——ふむ、少々やり過ぎてしまったか……。

 「すまん!」

 深深く頭を下げて俺はイリヤに謝罪した。
 当の本人はまさか俺が素直に謝罪をするとは思っていなかったようで、目が点になって呆けていた。

 ……やる事やったんだし、これでいいだろう。

 俺は気を取り直して時計塔に向かって歩み始めようとした所。

 ——また、イリヤに制服の裾を引っ張られて妨げられてしまった。

 「何だよ」
 「……騙されんぞ」
 「はい?」
 「この国では誠意を込めた謝罪の事を『土下座』と申すらしいな。じゃが、お主がやったのはただの会釈じゃ。よって、先ほどの謝罪は無効。——本当に反省しているのなら今すぐひざまずいて土下座とやらをやって見せよ!」

 「フフ〜ン」と、少し誇らしげに語ったイリヤの姿に俺は堪らず額を押え、嘆息を吐いた。
 何、仕様もない事を知っているんだよ……。

 「断る!」
 「何故じゃ!」
 「いや、土下座するほどの大罪を犯した覚えがないんでね。じゃ〜俺はこれで——」
 「行かせん!」

 俺が時計塔に向かおうとしたらイリヤが目の前に回り込み。
 これ以上先に行かせんと、ゴールキーパーみたく両手を大きく広げて妨害して来た。

 「この先に行きたいのなら我を倒して行くが良い!」
 「……ああ、そうするわ」

 お言葉に甘えて俺はゆっくりとイリヤに近づいて行き。
 俺の行動に身構えたイリヤの無防備となった額に手を伸ばして。
 力の限りのデコピンをかましてやった。

 【パチーン!】

 と、思いのほか綺麗にクリーンヒットしたせいで、その痛みにイリヤは額を押えながら身悶える。

 「い、痛いではないか。阿呆……」

 涙目になりながらイリヤは俺の事を軽く睨み返す。

 「いや、倒してから行けって言うもんだから俺はその言葉通りにやっただけなんだが……」
 「手加減を知らんのか、手加減を……」
 「じゃ〜倒したから俺は先に進むぞ〜」

 額を押えながら未だに痛がり続けているイリヤを後目に俺はさっさと時計塔に向かって歩き出した。