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(3)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.9 )
日時: 2012/06/13 22:35
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/

 「ま、待て! まだ、終わっとらんぞ!」

 後方からそんな怒鳴り声が聞こえて俺は嘆息を吐きつつ、渋々ながら後ろを振り返る。

 「まだ、何かようですか〜?」
 「何じゃ、その面倒臭そうな対応は!」
 「……実際、面倒臭いし……」
 「なぁ〜にぃ〜おぉ〜! こうなったら我も本気を出す! 後で吠え面をかいても知らんぞ!」

 「プンプン」と、怒号を上げながらイリヤは突然ドレスの裾をたくし上げ。
 ガーターベルトで止めたひざ丈ほどのストッキングの隙間から手のひらサイズの白い棒状の物を取り出し。
 それで地面に何かを描き始めた。

 その様子からイリヤが取り出したのはチョークだと理解したのだが、一体彼女が何をしようとしているかまでは分からなかった。
 すると、描き終えたのかイリヤが徐に地面に描いた円陣(恐らく、魔法陣)の中心部分に立ち止まって不気味な笑みを浮かべながら、こちらに視線を向ける。

 「……ククク。まさか、下等種ごときにこれを使う時が来ようとは正直思いもよらなかったぞ」
 「えっと……もう、行っていいかな? ——そろそろ予鈴がなるだろうし」
 「フフフ、我の本気の姿にビビっておるわ」
 「いや、そうじゃ——」
 「言わずとも分かっておる。——じゃが、我を愚弄した罪、その身に刻んでくれるわ」

 気味の悪い笑みを浮かべながらイリヤは徐に眼帯を外した。
 その眼帯で隠されていた左目が露わになり。
 左目は右目のエメラルドグリーンではなく。
 己の髪の色と同じく金色に輝く穢れの無い瞳の色だった……。

 「——我、ここに汝の御霊を呼び出さん。我の言霊に応えよ。我の望みを叶えよ。出でよ——地獄の門番ケルベロス!」

 イリヤが謎の呪文を唱えた瞬間。
 辺りが静まり返り、突風が吹き始めた……。


 ——ような気がした。

 『……』

 『……』


 「——我、ここに汝の——」
 「じゃ〜な〜」
 「ま、待つのじゃ!」
 「もう、いいだろ? 十分、相手してやったんだ。解放してくれよ〜」
 「まだじゃ。今のはただの余興じゃ。これからが本番……。——よく目に焼き付けるが良い!」

 そう豪語したイリヤはゆっくり深呼吸をしてから、右手でCの形を作った指を口元に近づけて指笛を吹いて。

 ——吹いて。

 吹いて。

 吹いて……?

 イリヤが指笛を吹く度に、

 【プシュー】

 と、空気が抜ける音が鳴り響き。
 なかなか綺麗に指笛が鳴らず。
 徐々にではあったが、イリヤの目がうるうると涙目になりつつあった。

 「——分かった。イリヤの気持ちは痛いほど伝わったから、さ……。もう無理すんな」
 「む、無理などしちょらん……」

 声を震わせながら頑なに指笛を吹き続けるが、やはり綺麗に鳴らす事は出来ず。
 憐れに思った俺は彼女が吹くタイミングに合わせて、気付かれないように、

 【ピュー】

 と、指笛を吹いてやった。
 すると、左方の草陰からガサガサと草が揺れ動く音が鳴り。
 そこから黒い物体が飛び出し、イリヤの腕の中に収まった。