コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- (4)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.10 )
- 日時: 2012/06/13 22:36
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/
「や、やった! 成功じゃ!」
「おっ、おぉー! おぉ〜?」
突然の事で俺は驚いてしまったが……。
よくよく見てみると、ただの黒いチワワだった。
「ククク……。だから言ったではないか、吠え面をかく事になると……」
召喚に成功(ほぼ、俺のおかげだが……)して本来の調子を取り戻したイリヤが俺の呆けた姿を見て、不敵に微笑みながら見下して来る。
「まぁ〜確かに驚いたけどさ、チワワって……。せめて、地獄の門番ケルベロスって名前負けしないよう。——そこはドーベルマン辺りが妥当だろ」
「ドーベルマンなぞ、こわ——ゴホン、チンケではないか。チワワこそ高貴なる我に相応しい召喚獣よ」
「ああ、確かに……。地獄の門番どころか自宅の門番すら出来なさそうな所がお似合いだよ」
「ば、馬鹿にしよって……。八つ裂きにしてくれるわ! ——行け、ケルちゃん!」
「わん!」
イリヤの掛け声でケルちゃんこと黒チワワが彼女の腕から飛び出し。
こちらに向かってト「コトコ」と歩み寄って来た。
「ハァハァハァ」
と、どことなく獰猛そうな息遣いをしながら俺の事をつぶらな瞳で見つめるケルちゃんに少し気後れしたが……。
——めげずに立ち向かう事にした。
まず、初めに俺は中腰になってケルちゃんの事を凝視した。
ケルちゃんのつぶらな瞳に負けないよう目をずっと見続けてやった。
頃合いを見て、俺は徐に右手を差し出し。
「お手!」
「わん!」
「ポン」と、俺の右手に前足を乗っけてくれたのを見て。
続けざまに今度は左手を差し出し。
「おかわり!」
「わん!」
また、俺の左手に前足を乗っけてくれたケルちゃんに俺は……。
——俺はっ!
「——可愛いな、コノヤロー!」
頭を撫でたり、抱きついたり。
と、某畑さんほどじゃないけれど、それなりの熱いスキンシップをケルちゃんに施してしまった……。
「わ、我のケルちゃんがぁ!」
俺たちの熱い間柄に嫉妬したのか、イリヤが膝を着いて悔しそうに唇を噛みしめる。
「——はっはっは。ケルちゃんはお前じゃなく、俺を選んだようだ」
「ムムム……。こうなったら、奥の手じゃ!」
「……まだあるのかよ」
イライラしながらイリヤは懐から着痩せしていたにも程がある、枕ぐらいの大きさのツギハギだらけで目がボタンになっているクマのぬいぐるみを取り出し。
それを大事に抱きかかえたイリヤは、
「——Establishment of the soul(魂の定着)」
と、念を込めるように呟いた。
すると、イリヤに抱きかかえられていたクマのぬいぐるみが腕から飛び出し、独りでに「とぼとぼ」と歩き始める。
それを目の当たりにしたケルちゃんは怖気づいて俺の足元に隠れ。
俺もあまりの事に目を見開き驚いてしまった……。
ぬいぐるみが動いている?
でも、ただのパペットだろ?
何らかのトリックで動かしているに違いない。
クマのぬいぐるみが動く仕組みに悩んでいる俺の事を嘲笑うかのようにイリヤは俺の事を見つめていた。
——しかし、そんな優越感も束の間。
クマのぬいぐるみの動きが突然、止まってしまった……。
それを見てすぐにぬいぐるみを回収したイリヤはぬいぐるみを抱きかかえながら、こちらを見据える。
「ど、どうじゃ。恐れ入ったであろう?」
「ああ、恐れ入ったよ。どういう仕組みで動いてたんだ?」
「ちっちっち。それは秘密じゃ。何ならもっと凄い物も見せてしんぜようぞ」
誇らしげにそう語るとイリヤはぬいぐるみに耳打ちをし始める。
しばらく、その様子を見届けていると準備が整ったのか、イリヤが徐に口を開く。
「待たせたな」
【待ちゃせたな、下等ちゅ】
「は?」
今、ぬいぐるみがしゃべったのか……?
【我が主の力にビビっておるわぁ】
「そう言うでない。ベアトリーチェよ。我の偉大さがいけないのじゃ。偉大すぎるのも難儀じゃのぉ〜」
【ケラケラケラ】
「……」
何?
このしょぼいコントは……。
どうせ録音した音源を再生してるだけだろ。
それに出だし早々噛んでるし……。
はぁ〜。
驚いて損したわ……。
「なぁ〜イリヤ。——一つだけ聞きたい事がある」
「な、何じゃ?」
「お前……友達いないだろ」
「ぐっ……。お、おるわい! 友人の一人や二人、百人や千人。ワールドワイドに展開しておるわ!」
「そうか……。なら、携帯貸せ。ワールドワイドに展開しているぐらいなら携帯の登録件数はびっしりのはずだろ? まさか、ワールドワイドに展開している奴が携帯の一つも持ってないって事はないよな?」
「……承知した」
渋々ながら了承したイリヤは腕の裾から携帯電話を取り出して俺に投げつける。
それを受け取った俺はイリヤの携帯をイジって登録番号を確認する。
すると、自宅の電話番号と両親の電話番号らしきもの。
それと身に覚えのある電話番号の四つしか登録されていなかった。
「……こ、これで満足か」
身体を震わせながら呟いたイリヤの姿を見て。
俺は徐に自分の携帯をポケットから取り出し、勝手ながら赤外線通信を使用して連絡先を交換する。
「な、何をしておる!」
「いや、何となく、な……。——ほら」
連絡先を交換し終わったイリヤの携帯を彼女に向かって軽く投げ。
それをイリヤは受け取ると「本当に連絡先が交換されたのか」と、慌てた様子で確認し始めた。
「……シンドウ、シン?」
「ああ。それ、俺の名前な」
「まさか、彼奴の……?」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、なんでもない。なんでもないぞ——シン」
「そうかい」
イリヤに名前を呼ばれ、薄笑いを浮かべていると、
【ゴーン! ゴーン!】
と、突然辺りに大きな鐘の音が鳴り響き。
その音に俺は堪らず額を押えてしまう。
「アチャ〜。予鈴が鳴ってしまった……。——おい、イリヤ」
「な、何じゃ?」
「それ、全部やるからさっさと教室に戻れ。もし、何か用事があるなら俺の携帯に遠慮なく掛けてこい。じゃ〜俺は行くから!」
少々忙しなくなったけれど、イリヤに別れの挨拶を告げ。
俺は摺木に頼まれたプリントの束を抱きかかえながら、生徒会室がある時計塔に向かって走り出した。
すると、後方からベアトリーチェの声で、
【あ、ありがとう】
と、言う言葉が微かに聞こえ。
——俺は思わず笑みを溢してしまった……。