コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 ( No.12 )
日時: 2012/06/14 23:25
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/6/

 「——はぁ〜。服を直せ、服を……」

 頭を掻きながら少女から身を引いて距離を取った。
 少女は俺の言葉通りに乱れた衣服を正し。
 モニターの映像を消した後に、この生徒会室の中で一際目立つ立派な机に向かい、何事も無かったかのようにゆっくりと腰を掛けた。

 はぁ〜。
 どっと疲れた……。

 倒れ込むように俺はソファーに腰を掛けて、少し辺りを見渡す。
 生徒会室って割に備品が充実しており、彼女が座った後方にはテラスがあり。
 そこから下界の様子を窺えるようだ。

 「——えっと、アナタは確か……高等部二年二組の新堂慎くんだったかしら? 麻耶ちゃんの幼馴染の……。——高等部一年三組にいる実妹の新堂杏ちゃんとの近親相姦が噂で他校との女子生徒も何人かを手玉に取り。日にち、曜日、天気、気分によって女の子をとっかえひっかえしている……」

 おっとりした口調で少女は俺の顔をまじまじと見つめながら有らぬ事を言いだし始め。

 「違うわい!」

 俺は全力でそれを否定した。

 「それはそうと……何で俺たちの名前を知っているんだ?」
 「それはごく当たり前の事だと思いますよ。私はこの学園の全校生徒たちを統治する生徒会長ですからね。生徒会長たるもの、全校生徒の名前を把握しないでどうしますか。常に生徒たちの鑑であり続けなければなりません。生徒会長という職務はね……」
 「……その生徒たちの鑑たる生徒会長殿はこの神聖なる生徒会室で先ほど一体何をご覧になって、一体何をしていたんでしょうな〜。——お答え願えますか?」
 「——ほ、ホットヨガですわ。いやですわ〜。オホホホ……」
 「全世界のインストラクターから苦情が来るぞ、おい」

 まぁ〜ある意味、ホットな気分になるからあながち間違いでもない、か……?
 そんな事を言っていると俺にまで飛び火するな……。

 「それはそうと、新堂くんはどうして生徒会室に?」
 「ん? ああ、これを届けに——」

 ソファーから立ち上がった俺は摺木に頼まれたプリントの束を会長に渡し。
 受け取った会長はプリントの束を見つめる。

 「——報告書、ですか。どうして役員でもない、新堂くんが?」
 「摺木に頼まれて……」
 「麻耶ちゃんに、ね……。その麻耶ちゃんは役員としての仕事をほったらかして、どこに行ったのかしら?」
 「えっと……とある男子生徒から没収した品を持ってどこかに消え——あっ」
 「?」

 俺は話の途中で目に付いた、会長の後方に広がる景色に注目してしまった。
 そして、徐にテラスに出て。
 手すりに沿って進み。
 部屋の中から気付いたあるモノを凝視する。

 それは校庭がある方角からボヤのような黒い煙がもくもくと放出されている事である。
 その光景を目の当たりにした俺は自ずと親指を噛んでしまい。
 しばらくそれを見つめていると、俺の肩を「ポン」と叩き、背後から会長が現れた。

 「どうかしたの?」
 「いや、何でもない」
 「そう? でも、少し物寂しそうな表情を浮かべているけど……」
 「いや……ホント、何でもない」
 「ふむ。だけど、おかしいわね。——今日は焼却の日じゃないのに……誰か使っているのかしら?」

 会長もあの光景に気付いたのか、煙を見つめながら首を傾げていた。

 ——はぁ〜、焼却処分されちまったか……。
 同志たちよ、すまない。
 お前らの気持ちはしっかりと俺の胸に響いているぜ……。

 少し気落ちしてしまった俺は徐に視線を下界に向けた。
 すると、黒い服装の人物とジャージ姿の人物が中庭におり、ジャージ姿の人物が黒い服装の人物に指さしながら何か指示をしていた。
 その指示に渋々ながら従う黒い服装の人物が滑稽で少し笑ってしまう。

 「何かおかしな事でもあったの?」
 「ただの思い出し笑いだ。そういえば、摺木の事を『麻耶ちゃん』て、呼んでいるが……そんなに仲がいいのか?」
 「仲が言いも何も、会長と副会長の仲ですからね。それなりにコミュニケーションは取れている方だと思いますよ」
 「え? アイツ、副会長だったのか? いや、アイツならそれぐらいの職務を請け負っていても不思議じゃない、か……」
 「フフフ。——よく見ているのですね」

 お上品に口元を隠しながら微笑んだ会長に俺は照れ隠しの要領で頭を掻いた。

 ——ったく、余計な事を言ってしまった……。

 「たまたまだ。たまたま……。それにアイツのデキならやっていてもおかしくないと誰でも思う事だろ?」
 「ふむ、そういう事にしておきましょう」

 俺の弁解も虚しく、会長は手を合わせて微笑みながらそう口走った。

 はぁ〜。
 これは明らかに誤解されてしまったよなぁ〜。

 少し陰鬱ながら俺は摺木の頼まれ事を無事済ませ。
 もう用がなくなった生徒会室を出ようと、出口に向かって足を進めていると、

 「あら? もう行くのですか?」

 後方からまったりとした口調で会長に声を掛けられた。

 「もう授業が始まってるだろうから、早く戻らないと——って、会長こそ教室に戻らなくてもいいのか?」
 「私は生徒会長ですから大丈夫です。それぐらいの優遇をされても罰は当たらないでしょ?」
 「……職権乱用だろ」

 彼女の発言に額を押えたが、生徒会長の特権に少し嫉妬してしまった……。

 「ああ、そうそう。まだ、しっかりと自己紹介していませんでしたね。私は高等部三年一組——望月愛莉(もちづきあいり)です。ふつつか者の生徒会長かも知れませんけれど……共にこの学園を良くして行きましょう。——新堂慎くん」

 思い出したかのように突然、微笑みながら自己紹介すると会長は徐に俺の手を握って来て、軽く握手をする形になった。

 ——って、俺は先輩に向かって終始タメ口を使っていたのか……。

 でも、あの光景を目撃してしまったら先輩だろうとタメ口になってしまうよな……。
 今度から気を付けないと……。
 まぁ〜、会う事があったらの話だが……。

 「それともう一つ——」

 人差し指で一と示した後、不意に会長は俺に抱きついて来た。
 突然の事でどうしたら良いか分からず、俺はそのまま会長に身を委ねる。

 「先ほどの事は——二人だけのヒ ミ ツですよ」

 俺の耳元に会長の吐息がダイレクトに掛り、その反動で俺の鼓動が高ぶる。
 耳打ちを済ませた会長は俺から身を引き「二人だけの秘密」と言う事を強調したいのか、徐に人差し指を自らの口元に近づかせて「シ〜」と見せつけた。
 会長の一挙一動にドキマギしながらも彼女がふっかけて来た願いの返答……。

 ——と、言えば返答かも知れないが俺は会長に、

 「了承した」

 と、敬礼で示し。
 生徒会室を後にした。

 ——もちろん、あの恐怖の階段を下らなければならない事は言うまでもないが……。