コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- (1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 ( No.13 )
- 日時: 2012/06/15 21:33
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/7/
陽が程良く傾き、そろそろ夕暮れ時の午後……。
電車に揺られながら俺は移ろいで行く景色をボーっと眺めていた。
——あの後。
生徒会室から教室に戻ると案の定、授業中で少し気まずい中、途中参加した俺だったが……。
どうしてか、クラスメイトたちや授業を行っていた教師から奇異な眼差しで見つめられてしまった。
確かに授業を遅刻してしまい、少し授業妨害をしてしまった事での態度なら分かる。
だけど、一人だけ他の人たちとは違う、視線を投げかけていた者がいた。
そう、俺にお使いを頼んだ摺木麻耶だ。
彼女だけは俺の事を侮蔑したような冷たい視線で見つめていたのだ。
「何故、そのような視線で見つめられなきゃならんのか」と、首を傾げながら、自席に向かって授業に臨んだのだが……。
誰かに監視されているような気配を感じて集中出来ず。
気疲れだけが身体に蓄積されたのだった。
——はぁ〜。
久しぶりの登校がこんなにも疲れるとは……。
他の乗客たちの存在を忘れて大きく嘆息を吐いた。
この電車に乗るまでも、凄い葛藤が繰り広げられていた訳で……。
——下校時。
俺の教室にずんぐりむっくりな奴が……。
——我が妹、新堂杏が襲来して来たのだ。
ただでさえ、目立ってしまっている俺に杏が周りの目も気にする事無く飛び付き。
それを目の当たりにしていた数人のクラスメイトたちがこぞって、ひそひそ話をし始めてしまい。
俺が必死になって身体に纏わり付く杏の事を引き剥がそうとする度に、
「何、アレ。そういうプレイ?」
など、と言った勘違いワードが教室内に飛び交って。
気まずくなった俺は身体に纏わり付く杏を従えたまま急いで教室を出る事になった。
しかし、杏をこのままにする訳にも行かず。
年頃の女の子である杏が入れない聖域たる男子トイレに入ろうとした所で杏は俺の目論見通りに俺から身を引き。
それを見越した上で男子トイレに駆け込んだ俺は男子トイレの窓からこっそり外に出て、未だに男子トイレの前で俺の帰還を待ち続けているであろう杏を放置し、現在に至っていた……。
少々、心苦しいが止むを得ないだろう。
うん……。
ボーっと、外の景色を見つめながら思いにふけっていると目的地である駅名がアナウンスで流れ、俺は徐に扉近くに足を運んだ。
【プシュー】
と、言う音と共に開かれた扉から電車を降りた俺は人でひしめきあう駅構内の隙間を縫うように進む。
そして、ようやく改札口に辿り着き。
俺はICカードを用いて改札口を難なくパスし、駅を後にした……。
駅を出て早々に待ち構えるのは駅前ロータリーを行き交う、バスやタクシー。
それに乗り込もうとする客やショッピングを楽しむ老若男女の群れ。
市内きっての繁華街であり、中心部に俺は足を踏み入れていた。
——相変わらず、ここは人が多いなぁ〜。
人々でごった返す道を進み。
少し怪しげな看板が立ち並ぶ不気味な雰囲気を漂わす通りを歩いていると、前方に看板を持ったブサイク(目が取れかかった)な猫の着ぐるみ姿の人物が客寄せをしていた。
繁華街では珍しくもない「キャッチ」と呼ばれる人々なのだが、強引なキャッチが出没して来たため……。
最近、規制が厳しくなっている。
けれど、こうしてキャッチの姿が健在なのはやはり欲望渦巻くこの地域特有なのかも知れない。
「——やぁやぁ〜。そこの色男」
客寄せをしていた先ほどの着ぐるみに俺は目を付けられてしまい、話しかけられてしまった……。
「——いや、俺は未成年なんで……」
俺は軽く会釈をして素通りする事にした。
こういう場合は絶対に関わりをもっちゃいかん。
言葉通りに勧められて、店に行くものなら法外な請求をされかねないからである。
「そう言わずにさ、カワイ子ちゃんが待ってるよ〜」
しつこく話しかけて来た着ぐるみの人物に嫌悪感を抱いた俺は、手に持っていた看板に視線を向け、どこの回し者なのか確認する事にした。
『可愛いウエイトレスたちとの甘〜い一時が売り! Broken Angel Wings(翼が折れた天使)に君も足を運んでみないかい?』と、その看板に描かれており。
それに気付いた俺は額を押えて大きく嘆息を吐く。
「……いつから、ガールズバーになったんだよ。桜乃(さくの)」
「気付くのが、遅いぞ。お客人」
着ぐるみ姿の桜乃に看板で軽く頭を叩かれてしまった俺だが、ある事に気付く。
「……おい、こんな事をしていたらポリにパクられるぞ」
「それなら大丈夫だよ」
「?」
「そこの駐在所の人たちに『美嘉ちゃんなら何をやっても法(オレ)が許す』って、笑顔で言われちゃったらやるしかないでしょ?」
ここから数メートル先にある駐在所を指さして桜乃は淡々とした口調で話し。
彼女に見つめられている事に気付いたのか、駐在所の前で立っていた制服姿の見るからにその筋の人と勘違いされそうな強面の男性が、嬉々とした表情を浮かべながらこちらに手を振っていた。
「何をやっとるんだ、馬鹿共は……」
たった一人の少女の誘惑に負けた駐在所の諸君に呆れ果ててしまったが、相変わらずの光景で慣れてしまっていた。
ここにいる桜乃美嘉(さくのみか)の父親は交流関係が広くて、駐在所に勤める人たちとも知り合いらしく、桜乃の父親の事を「兄貴」と呼ぶほどに敬愛している。
その敬愛している兄貴の娘たる桜乃の事を自分たちの娘のように可愛がり、職務を放棄してまで彼女の事を特別扱いしていた。
「しっかり仕事をしろってんだ」
と、嘆いた事もあるが、この地域の治安維持に貢献しており、それなりの成果をあげちゃっているから言うに言いきれない悶々とした状態が続いている……。
「それはそうと——店に来るんでしょ?」
「ああ、行くよ。でも、今——」
「そう、ね……。——うん、分かったよ。これ切り上げて私も一緒に行くよ」
「……すまん」
俺たちは店に向かう前にひとまず、普段世話になっている駐在所の方々に挨拶(いつもの事だが、俺だけ手荒い歓迎を受けた)をしてから、路地裏に入ってしばらく進んだ所にある煌びやかに装飾された建物の前に「Broken Angel Wings(翼が折れた天使)」と描かれた看板が置かれた店に足を運んだ。