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- (2)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 ( No.18 )
- 日時: 2012/06/22 21:45
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/9/
【バタン!】
と、俺が飲料水を飲んだと同時にさっきまでテンションが高かった涼がグラスを掲げ笑顔のまま前方のテーブルに倒れ伏せる。
その衝撃でテーブルは揺れ動き、置いてあったグラスなどは倒れてしまった。
「お、おい! 涼!」
テーブルに倒れ伏せた涼の身体を揺すってみたが反応はなく、どうやら気絶してしまっているようだった。
——何がどうなった?
突然の事で杏とイリヤが目を見開き驚いた表情を浮かべ、キッチンで洗い物をしていた桜乃も大きな物音に気付いて様子を見にこちらへやって来る。
「ど、どうしたの?」
「わ、分からん」
「もしや……」
と、マスターがテーブルに倒れ伏せた涼の事をまじまじと眺めながら何か心当たりがあるのか神妙な面持ちで呟く。そして、唐突に辺りを見渡して卓上にあった飲料水が入ったとあるグラスを徐に手に取り、それを一気に飲み干した。
「ふむ、これは——ぐっ! ぐはっ……」
飲料水を飲んだマスターがいきなり苦しそうに首元を押え始めたものだから、その光景を間近で見ていた俺たちは騒然となった。しばらくして、マスターも涼と同じようにテーブルに倒れ伏せてしまった。
倒れ伏せる際に見せたマスターのハニカミ姿はどこか清々しいながらもダンディリズムが滲み出ていたような……気がした。
「お、お父さん!?」
フリーズしていた桜乃が我に返り、テーブルに倒れ伏せたマスターに駆け寄る。
すると、何かに気付いたのか桜乃がマスターの握り拳を解いてその中からくしゃくしゃになった紙を取り出した。
首を傾げながらくしゃくしゃになった紙を広げて中身の確認をした桜乃は徐々に表情を曇らせた後に丁寧にその紙を折り畳んで、静かに俺に手渡して来る。
「桜乃、どうした?」
「……私、残ってる洗い物を片づけて来るね」
「あ、ああ……」
少し語気を強めて発せられた桜乃の言葉に俺は何が何だか分からず首を傾げたが、桜乃の様子がおかしくなった元凶である謎の紙を開いて確認する事にした……。
——もし、このメモを見ている者が女性なら真摯に聞いてほしい。
(野郎なら紙捨ててとっとと失せろっ!)
我らはとある持病に悩まされている。その持病と言う物は女性の甘い口付けを一定の間隔で供給されなければ発作が起こり、最悪死に至ってしまう悩ましい病で。もし、これを見ているアナタが女性なら人助けと思って、ここは一つ……。
我らにその甘い口付けを施してはくれないでしょうか?
——と、紙に書かれており、俺は徐にテーブルに倒れ伏せた涼とマスターの顔色を窺うと……二人して唇を尖らせていて、何かを待ち構えているように見えた……。
「ね、ねぇ〜。にぃに、二人はどうしたの?」
「そ、そうじゃ。シン、答えよ。それには何て書かれていたのじゃ?」
馬鹿共の事を本当に心配しているのか、二人は少し慌てた様子で俺に詳細をせがんで来る。
——くっ、心が痛い……。
「二人とも、気にする事は無い。このメモにはとある男たちの妄言が書き記されているだけだ。だから、心配するな。それに見てみろよ。涼とマスター……幸せそうな表情を浮かべてるだろ?」
俺の言葉に気絶のフリをしていた二人の表情が歪んで、少し悔しさに涙を流しているように見受けられた。
「いや、悪夢にうなされているような表情を浮かべておるが……」
目を細めて彼らの様子をまじまじと見ながらそう呟いたイリヤの言葉に俺は静かに頷いてみせる。
「そうか、イリヤにはそう映るか……。まだまだ、お子ちゃまだな……」
「——で、結局の所。二人は大丈夫なの? にぃに」
「ああ、無事だ。だから、お前たちはもう家に帰れ。後の事は俺と桜乃に任せろ」
「ん〜、何かはぐらかされているような気がするけど……分かったよ」
「ふむ、そうか。シン、もしその者たちが目を覚ましたのなら、伝えといてくれ。——楽しかったぞ、と……」
「ああ、分かった。じゃ〜気を付けて帰れよ〜」
二人を店先まで見送ってから、俺は未だに気絶のフリを続ける馬鹿共にグラス一杯に入れた冷水をそれぞれの頭にぶっかけてやった。
「——マスター。僕、涙が治まらないや……」
「——奇遇だな、少年。私もだ……」
俺に掛けられた冷水を自らの涙と例えて、悔しさを滲ませながら馬鹿共は合コンの反省会をテーブルに倒れ伏せたまま始めやがり。
その光景を俺と洗い物を終えて戻って来た桜乃の二人で温かく見守りながら、彼らの反省会が終わるまで店は開かれる事はなかった……。