コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(1)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 ( No.20 )
日時: 2012/07/01 00:53
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/11/

 ——翌日。
 身体に妙な違和感を覚えた。
 何故だろうか? 背中から冷気ではなく、熱気が感じられた。
 幽霊の類ではない事ははっきりしたが、ここまで事実確認したくない事柄が今まであっただろうか?

 いや、生まれてこの方。そんな感情を抱いた事はないな。このまま、今あった事を綺麗さっぱり忘れて、新たな気持ちで今日一日を始め直したいと強く思う。

 ふむ、ならもう一眠りしてこの場はリロードする方向で万事解決だな……。
 この日をやり直す事に決めた俺はもう一度眠る事にし、少し疲れた態勢を変えるべく徐に寝返りを打つ。

 「ひゃん……」

 寝返りを打ったと同時にそんな甘ったるい声が微かに聞こえた。
 ……やべ、思わず出てしまったか。早くこの恥ずかしい癖を直したいぜ……。
 人には言えない恥ずかしい癖を早く直したいと思いながら、俺は眠りに就く——。

 「もう、甘えん坊さんなんだから、にぃには……」

 眠りに就く俺の耳元で聞き覚えのあるボイスがそう囁く。
 ……全く、妄想も大概にしろよ、俺。いくら、彼女が出来ないからって脳内彼女を創造するとは思いもよらなかったぜ……。
 恥ずかしい脳内妄想を払拭してから、俺は再び眠りに就く事に——。

 「ねぇ〜、にぃに〜。早く来て、杏——切ないよ……」

 払拭したと思われたが、再び耳元で聞き覚えのあるボイスにそう囁かれた。
 ……うん、これはアレだな。今日、病院に行こう。そして、かかりつけの医者に要相談だな。俺にはどうしようも出来ないらしい……。
 そうと決まれば話は早い。さっさと起きて、病院に行く支度をしないと、な。

 俺は徐に閉じていた目を開くと、視界にボサ髪童顔少女の微笑顔がほぼ正面で映し出されたが——スルーする事にした。そして、起き上がってクローゼットを開けた俺は身支度をさっさと済ませてから部屋を後にした。
 玄関で靴を履き終わって「さぁ〜行くぞ!」と、立ち上がっている際に二階から激しい足音を立てながら玄関に走って来た、ちびっ子に抱きつかれてしまい。少しバランスを崩しかける。

 「何で、無視するかな?!」
 「無視? おかしな事を言う妹だな。今、顔を合わした所ではないか」
 「ぶーぶー!」
 「豚のマネか? 上手いなぁ〜。さすが、俺の妹だ」

 憤慨して豚のマネをする妹を軽く流し、いつも通りに俺は妹を背負いながら学校へ向けて足を進めた。
 ご機嫌斜めな我が妹こと杏は、憂さ晴らしのつもりなのか俺の背中をポカポカと殴って来ているが……正直程良い塩梅で心地よかった。

 「あ、そういえば。お前、イリヤと知り合いだったんだな」
 「光ちゃん? うん、そうだよ。同じクラスだよ」
 「光ちゃんって……。もしかして、他の奴らからもそう呼ばれているのか?」
 「うん。私が佐藤光ちゃんって呼び始めた事がきっかけで、今ではイリヤ・シュガーライトと言う本名は忘れ去られて、佐藤光として扱われているよ」

 淡々とした口調でイリヤの本名を葬り去った原因を作った張本人の言葉にどうしてか俺の目頭が熱くなっていた。
 すまん、イリヤ……。新堂杏の保護者として、心より陳謝する。それと昨日、俺が君に対して行った数々の無礼。本当にすまなかった。許してくれ……。

 「ねぇ〜、にぃに。今日はマスク付けなくてもいいの?」
 「ああ、マスクね……。あれは災いを呼ぶ呪いのアイテムだ。だから、俺は金輪際マスクを付けんと誓った」
 「……意味が分からないよ」
 「ふっ……。大人になったら、分かるさ……」

 そう、大人になったらマスクの怖さが痛いほど分かる……。だから、マスクの怖さが分かるようになれば、お前も立派な淑女となるであろう。
 妹の成長を温かく見守る妹想いな俺は学校に向けて、杏と談笑を交わしつつ足を進め。ようやく辿り着いた学校の校門先では見慣れた美人系茶髪女子が微笑みながら生徒たちを迎い入れていた。

 「おはようございます。新堂慎くん、それと新堂杏ちゃん」
 「あ、おはようございます。会長」
 「えっと……お、おはようございます! 会長さん!」

 微笑みながら望月会長に挨拶をされて俺は昨日の事の失敗を踏まえて敬語で応え、杏は少しドギマギしつつもしっかりと挨拶を返した。
 挨拶を済ませた俺たちはさっさと校舎に向かおうと歩み始めると、

 「ちょっと待ってください。新堂くん」

 と、後ろから望月会長に声を掛けられてしまい、俺はその足を止めた。

 「どうかしたんですか?」
 「その敬語、似合ってないですよ。新堂くん」
 「……似合ってないも何も、目上の人に敬語を使うのは礼儀だろ?」
 「私はよそよそしくなっているようで嫌かな。昨日みたいな強引な新堂くんが私好みで良かったのになぁ〜」

 そう言いながら艶めかしい手つきで自分の身体を俺に視姦されているかのように隠し始め、その行動に伴って彼女の瑞々しい果実が強調された。
 彼女の動作に俺は苦笑いを浮かべたが、望月会長が発した言葉と奇行に何かを勘違いした杏は俺の頭をポカポカと殴る。

 「ちょ! 杏、痛いって!」

 背中を殴った時と違い、俺の頭を潰しにかかる勢いで殴って来た杏にやめるように説得するものの聞き入れる事はなく、一方的な暴行を受けざるを得なくなり。
 その和気藹々(?)とした兄妹のふれあいに口元を隠して微笑みながら見守る望月会長に俺は視線で助けを求める事に。

 俺のアイコンタクトが正確に通じたのか、望月会長は微笑顔のまま未だに一方的な暴力を加え続ける杏の頭をポンと軽く叩き、

 「ダメよ、杏ちゃん。これじゃ〜新堂くんが可哀想じゃない。それに新堂くんの場合——こっちの方が効果的よ」

 そう話した望月会長は突然、俺の耳に吐息をかけ、これはまだまだホンチャンまでの前戯とばかりに続けざまに俺の耳たぶを甘噛みする。
 不意に耳に吐息をかけられ、身体にこそばゆい感覚に襲われてしまっている中、間髪を容れずに耳たぶを甘噛みされてしまった俺の身体は自ずと強張ってしまう。

 「か、会長。ダメだって……」

 生まれて初めての感覚に見舞われてしまった俺は思うように声が出なくなっていた。
 その俺の反応を楽しんでか、次に望月会長は耳たぶをペロッと軽く舐めてから、耳輪と対輪の間を沿うように舌を這わせ、耳全体を焦らしながら舐め始める。

 卑猥に動かされる望月会長の舌使い。
 そして、耳にダイレクトで掛る、望月会長の艶美な吐息が俺の身体を徐々に浸食して行く……。

 ……やべ。
 これは本当にやばい。

 俺に背負われている杏が目の前で起きている光景に絶句して大人しくなってしまっているようだ。それに今もなお、次々と登校して来る生徒たちが気を遣ってか知らんが、俺たちの姿を見ないように顔をそむけながら通り過ぎて行く……。

 た、助けろよっ。お前ら……。

 彼らに助けを求めようにも上手く言葉を発せられない。それどころか、動悸が高鳴って息苦しい。
 このままだと、俺は望月会長に堕とされる……。
 快楽に溺れて行く意識の中で俺はどうにかこの状況を打破しようと画策したが、俺の理性がそれを拒否した。

 ——もう、俺の理性が知らず知らずの内に彼女に堕とされてしまっていたようだ……。