コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の五 ( No.22 )
- 日時: 2012/07/01 21:33
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/12/
——放課後。
陽が傾き始めてそろそろ夕暮れ時の教室内。
全ての行程を終えて帰る支度をしている最中に誰かの視線を感じた。俺は徐に辺りを見渡して様子を窺うと。教卓の前に摺木麻耶が立っており、こちらを見つめていた。
「……摺木、まだいたのか」
「いたら悪いかしら?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだが……」
「そう?」
摺木はゆっくりとした足取りでこちらへやって来て、俺の前方の机に腰をかけて不敵な笑みを浮かべながら俺の事を見据える。
「ねぇ〜、新堂くん」
「ん?」
「——今日はあまり外を出歩かない方がいいわよ」
「どうしてだ?」
「最近、物騒な事に通り魔が現れたらしいの。だから——」
「ああ——だから、今日会長やお前が校門前で登校して来る生徒たちを迎え入れていたのか」
「……そういう事」
「ふむ、ご忠告感謝いたす。じゃ〜俺は行くから、生徒会の仕事頑張れよ」
俺は帰る支度を済ませた所で鞄を持って教室を出る。
教室を出てから扉を閉めようとした間際に見た教室に残され佇む摺木の表情が印象的だった。
天を仰いで口元を歪ませ、凄惨な笑みを浮かべていた摺木の表情に少し畏怖の念を自ずと抱かされた。
——だけど、今は摺木にかまっている場合じゃない。
学校を後にした俺は駅に向かい、行きつけであるあの店に向かった……。
——Broken Angel Wings(翼が折れた天使)店内。
「う〜ん、微妙な感じなんだよねぇ〜」
テーブル席に腰掛ける菅谷涼がグラスを片手に覇気のない声でそう口ずさんだ。
俺が店に到着するともう涼が来店しており、少し疲れたような表情を浮かべながら携帯を凝視していた。
涼は自らが持つ独自のネットワークを駆使して、通り魔事件に関する情報を色々と調べ回ってくれている。
——まぁ〜独自のネットワークと言っても行く先々でナンパした女性経由での情報を集めているに過ぎないが……。
「微妙ってどういう事?」
バーカウンターで業務をこなす、本日は自身が通う制服(ブレザータイプ)の上にエプロンを付けた茶髪ボブカット姿の桜乃美嘉が首を傾げながら尋ねる。
「うん。それがさぁ〜、やる事なす事全てが幼稚って言うか……」
「幼稚?」
「そう、何て言うか……。子供のイタズラ的な行為が所々で目撃されているみたいなんだよねぇ〜。それを通り魔だと解釈するのは少々言い過ぎな気がするけど、標的にされているのは全ておんにゃにょ子だから見過ごせないのよねぇ〜」
片手に持っていたグラスに入った飲料水を一気飲みした涼は突然、怒り心頭とばかりにテーブルに勢い良くその空になったグラスを置く。
「——全く、どこの誰だか分からないけどやめてほしいよね。スカートめくりは双方の理解があっての行為。謂わば、紳士淑女の戯れと言っても過言じゃない。なのに、汚しやがった!」
唇を噛みしめ悔しさを滲ませながらテーブルに拳を叩きつける涼の姿に俺と桜乃はついて行けず呆気に取られてしまう。
「——ふむ、少年よ。その通りだ。英国生まれの紳士のスポーツと謳われているスカートめくりは公式ルールに則ってのみ許される。だが、規定外の事をされると紳士の名に傷が付くからな」
本日もオリジナルのカクテル作りに勤しむマスターがシェイカーを振りながら涼の意見に賛同する。ダンディリズムが漂う様相で……。
「そうなんですよ! さっすが、マスター分かってらっしゃる!」
賛同者が現れ、よっぽど嬉しかったのか涼は跳び上がってバーカウンターに駆け寄ると徐に手を出す。
差し出された手を見てマスターは鼻で笑った後にシェイカーを下ろし、涼の手を掴んで力強い握手がなされた。
『同志よ〜』
熱い握手、視線を交わす馬鹿共を冷やかな視線で俺と桜乃は見つめる。
そして、俺は桜乃にある助言をし、それに桜乃は素直に頷いてからエプロンのポケットから携帯を取り出して電話を掛け始めた。
「あ、お巡りさん。変質者二名が私に——」
通話途中で身の危険を察知した涼が桜乃から携帯を強奪し、通話を強制的に切って。
ふぅ〜、と額を拭って安堵の表情を浮かべながら涼はテーブル席に腰掛けようとした瞬間——入り口の扉に激しいノックが響き渡った……。
【美嘉ちゃん! 大丈夫かい!】
聞き覚えのあるドスの利いた低い男性の声が聞こえるや否や、涼が恐怖に満ちた表情を浮かべながら身体を小さくして丸くなってしまった。
——は、はえ〜。
桜乃が電話をしてからほんの数秒ぐらいしか経ってないのに、ここに駆けつけるの早すぎだろ……。
少し呆れながらもここまで涼が縮こまるとは思いもよらなかった俺と桜乃は憐れに思い、駐在所の愉快な仲間たちの一人を丁重にお引き取り願った。
「——さ、さて。通り魔事件についてだけど……」
先ほどの事は何もなかったように話を切り出した涼は制服のポケットから写真を取り出してこちらに提示する。
写真には深く被ったフード姿(派手な蛍光色)の小柄な人物の走り去る間際が写し出されていた。
「こいつが……?」
「うん、恐らくね」
「何だか、子供っぽいよね。私はてっきりお父さんたちみたいな愉快な人だと思ってたよ……」
写真をまじまじと見ながらどこか納得出来ないのか桜乃は眉をひそめながら、そう唸る。
「……語弊があるような気がするけど、まぁ〜それは置いといて。——今はまだ、子供のイタズラ染みた事を繰り返しているみたいだけど……」
「ああ。もしかすると、エスカレートして行くかも知れない。——最悪、誰かを怪我させるかも知れないよな」
そう言いながら俺は横目で桜乃の様子を窺った。
桜乃は未だに写真を眺めながら首を傾げている。
全く、どこの誰だろうと良いだろうに……。
だけど、俺は写真を見せられてホッとしていた。
半年前に——桜乃美嘉を襲った人物ではなかったからだ。
「で、どうすんの? この子、止めるの?」
「止めるしかないだろ。これ以上、紳士のスポーツとやらが汚されてたまるか」
「……ねぇ〜。僕をイジめてそんなに楽しいかね」
「いや、心が痛いさ」
「……感情こもってねぇ〜」
「——はいはい。じゃ〜決まったのなら、さっさと済ませようよ」
手を二回叩きながら仲介に入った桜乃は淡々とした態度で「Staff Only」と書かれた扉を開けて先に入って行った。
「了解」
「はいよ〜」
と、空返事をした俺たちも桜乃の後を追うように足を進め。
「Staff Only」と書かれた扉の向こうへマスターに見送られながら入って行った……。