コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第零章 〜数奇な運命の出遭い〜 ( No.1 )
- 日時: 2012/06/20 19:21
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/1/
・亡霊姉弟篇
※前書き——水無月姉弟との出遭い。本編へ至る前日譚です。
——ちょうど一年前の入学式での事だ。
特にこれと言った趣味も楽しみもなく。
毎日毎日作業のように決まった時間に起き、決まった時間に食事を摂り。
何気なく学校に通っていた僕は何のこだわりもなく、適当に選んだ高校に進学して。
「これから新しい学生生活が始まるぞ」と言った心構えもなく……。
桜が咲き誇り、風が吹くたびに舞い散る桜が成形する桜のじゅうたんをただただ無心で歩いていた。
僕と同じブレザー制服を身に纏い。
これから始まる高校生活に胸を躍らせてはしゃぐ同級生らしき人物たちの姿を目の当たりにした僕は思わず首を傾げた。
当時の僕には……。
——いや、今でもそうかも知れないが、意味の分からない光景だった……。
別に娯楽施設に向かう道中って訳でもあるまいし、何がそんなに楽しいのか。
学校を「テーマパーク」か、何かと勘違いしている馬鹿なのか。
あるいは昔、中学の時に「学校楽しくない」などとほざいていた輩がいたが、アレと同じ類の人間で「学校」と呼ばれる場所に何かしら期待している阿呆なのか……。
そんな考えを巡らせていると、いつの間にか到着した。
——これといった特徴もない、どこにでもある平凡な造りの公立高校……。
適当に選んだだけあって、この学校の特色やら校風は全く分からない。
僕が通う高校はこの学校で合っているのかさえ分からない。
だけど、体育館らしき建物に向けて歩く。
僕と同じブレザー制服を身に纏う生徒たちが周りにいるのだから合っているのだろう。
——第一、僕は入試試験などで何度も訪れているはずなのだが……。
はっきり言って全然記憶になかった。
それどころか、高校生になった実感すらなかった。
物の考え方や気持ちが中学生の頃と何ら変わりがないせいなのか、ただただ通う場所が変わったという印象だけしかない。
——ふむ、また退屈な作業の日々が始まるのか……。
僕は彼らを見習って体育館に向かい。
適当に腰掛けた席でしばらく待っていると、校長なのか教頭なのか分からない中年代の男性が演壇に立ち、新入生に向けて話をし始めた。
周りの生徒たちは演壇で流暢に話す中年男性の話を真剣に聞き入っていたけれど、僕は校歌らしき歌詞が描かれた掛け軸のような物の近くにあった時計を熱心に眺めていた。
早く時が過ぎるように念を込めて……。
——はっきり言って苦痛だった。
季語を巧みに織り交ぜて上手く話しているつもりだろうけど、そんな事はどうでもいい。
「さっさと話を切り上げて、解放してくれ」と願うばかりである。
すると、僕の想いが届いたのか、中年男性の話が終わり。
各々のクラスに向かう事となり、僕は他のクラスの生徒たちの波に呑まれないように細心の注意を払いながら移動し。
辿り着いた何の変哲もない教室で……。
——一年B組の教室で僕は目を付けられてしまった。
……いや、巻き込まれたと言った方がいいのかも知れない……。
自席に座っていると。
突然、見知らぬポニーテールの女子生徒に、
「君は、生きているの?」
と、訳の分からない事を平然とした態度で僕の目を見つめ、尋ねて来たのだ。
——生きているの?
唐突にそんな事を聞かれて呆気にとられながらも、
——はい、生きてますよ。
と、馬鹿正直に答えればいいのか分からずに黙っていると、
「私は、絶賛仮死状態中……」
こちらは何も聞いちゃいないし、何も言っていないのにも関わらず。
女子生徒は嘆息交じりに訴えかけてきた。
この女子生徒がさっきから何を言っているのか全くもって謎だが、初対面の相手にする話では決してない事だけは理解できた。
「——ねぇ、退屈って人を殺すと思わない? 私は殺すと思う。だって、生きてる心地すらしないでしょ?」
僕の反応なんて「知ったこっちゃない」と言わんばかりに自論を展開する女子生徒に僕は少々気後れし、顔も引きずっていたと思う。
「だからね。君も私と一緒に生きたいと思わない? 君を一目見た時にビビッと身体に電気が走ったんだ。——私と同じ人種だとね……」
自分と同じお仲間(?)を見つけて嬉しかったのか瞳を輝かせ、少し語気を荒げて話す女子生徒に僕は嫌気が差していた。
——これが所謂「空気が読めない」って奴なのだろうか。
ここまで人の顔色を間近で覗える距離でいるのにも関わらず、話を繰り出せるってある種の才能を感じられる。
それに傍から見ていると逆プロポーズをされているように見受けられるし……。
だから、弁解じゃないが、
「——いや、一人盛り上がっている所すまないが……。僕は君が思っているような人間じゃないと思う」
彼女の提案を一蹴した。
「……いえ、君は私と同じく退屈の日々を暮らす死者も当然の存在よ。浮遊霊のように流れに身を委ねながらでいいの? ……私はごめんだわ。折角、この人格で生を受けたのよ。だったらこの人格でしか味わえない人生を楽しまなきゃ損よ」
僕の言動で熱が入ったのか「バン!」と机を叩き。さらに自論を展開する女子生徒。
……ああ、火に油を注いでしまったな。さらに瞳をキラキラと輝かせている。
それに思いのほか先ほど音が大きかったのか、周りにいたクラスメイトたちが「何事か」とこちらを見つめ始めた。
「君は生者になりたくないの? 毎日が作業のような機械じみた日々を送っていてそれでいいの? 私は嫌だわ」
それでも女子生徒は「周りの視線なんて知っちゃこっちゃねぇ」と一蹴するかのように声を荒上げて口走る。
——ああ、分かった。これはアレだ。
宗教か何かの怪しげな団体の勧誘なんだな。
誘致人数のノルマを達成しないと、現在置かれている地位から降格されるみたいなシステムか?
だから、ここまで必死に熱弁しているんだな。
……まるでマルチ商法みたいだ。
——うん、だとしたらだ。
周りにいるクラスメイトたちを巻き込む訳にはいかないよな。
目を付けられたのは僕なんだし……。
まぁ〜本音を言えば、クラスメイトたちの事なんてこれっぽっちも考えていない。
「さっさとこの状況を打破したい」ただ、それだけだ……。
「——ああ、分かった分かった。降参だ……。話なら後でたっぷりと聞いてやるからこの場は引いてくれ」
僕は息を吐いて女子生徒の熱意にやられ、少し心が折れたように見せた。
——もちろん嘘だ。
この状況を打破すれば、僕の勝ち。
後はとんずらすればいいだけ。
「——そう? なら決まりね。じゃ〜行きましょうか」
と、女子生徒は「パチン」と手を叩き、徐に僕の腕を掴んで走り出した。
突然の事に僕は状況を飲み込めず呆気にとられてしまう。
この女生徒は僕の話を聞いていたのか?
……いや、これっぽっちも聞いちゃいないな。
僕は半ば強引に、彼女に引っ張られるような形で不本意ながら教室を後にする事になり。
どういう道筋で辿り着いたか、さえ分からない。
——とある部屋で女子生徒と顔がそっくりな男子生徒と僕は出会う事になった……。