コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(1)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 ( No.3 )
日時: 2012/06/11 00:32
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/3/

 「はい、却下……」

 呆れ果てた表情を浮かべてテーブルに叩きつけるように冊子を投げ飛ばし。
 無情にも没宣告を告げるセミロングの凛々しいお顔立ち、すらりと伸びた手足に非の打ち所が無い出るとこ出たコケティッシュな体躯の少女。
 ——水無月(みなつき)アスカは窓に寄りかかるように身を預けた。

 「決断早え〜よ、姉貴!」

 アスカの無情な宣告に納得いかずテーブルを勢いよく叩き、立ち上がりながら怒号を上げた少年。
 ——少女と瓜二つの顔付き、筋骨隆々とまではいかないが長身のがっちり体型である弟の水無月(みなつき)アキトは怒号を上げはしたが、静かに着席した。

 「アキの言い分は分かるわ。——だけど、根本的につまらない」

 眉一つ動かさず、淡々とした口調で吐き捨てるようにアキトの書き綴った最初で最後の今世紀最大の作品を酷評したアスカは徐に額を押えて大きく嘆息した。

 ——まだ、序盤中の序盤……。

 出だししか目を通していないってのに「判断を下すのは少し早計過ぎやしないか」と、心の内に留めながらも顔に出てしまっていたのか。
 アスカがしかめ面を浮かべ、こちらを睨みつけているのに気付き。
 僕はすぐさま目を逸らし、少し咳き込みながら誤魔化してみた。

 「……まぁ〜いいわ。私がアンタたちに期待したのがそもそもの間違いだった。やっぱりこの退屈過ぎる生活を打破する為には私自身どうにかするしかないわね」

 腕を組み、仁王立ちをして。凛々しい態度で僕たちの事を嘲笑うかのようにあっさりと切り捨て。アスカは顎に手を添え、何か企み始めた。

 ——ったく、だったら最初から自分で何とかしろっての……。

 僕が心の中でアスカに対して悪態をついていると。
 弟であるアキトが姉に聞こえないように小声で、

 「——なぁ〜キサラ。そんなにつまらなかったか、コレ……」

 姉にボロクソに言われ、少し「ムスっ」とした表情を擁して、自ら書き綴った作品が記載された冊子をこちらに提示し。僕に意見を仰いできた。
 「ふむ」と、僕は冊子に手を伸ばして流し読みではあったがアキトが書き綴った「仮題 閉じられた少女」に目を通す。

 主人公の少年が毎夜毎夜見る不思議な夢に登場する虚ろな表情を浮かべる少女は一体何者なのか?
 なぜ、少女は真っ白な空間に閉じ込められているのか?
 なぜ、少年はこのような不思議な夢を見るのか?

 ——と、言う話のようだ。

 「——いや、お前は頑張った方さ……。初執筆の僕たちにたった十分で『短編を書け』と命令し。出来上がるや否や少し目を通しただけで『つまらん』と言って、テーブルに叩きつけるアレがどうかしているとしか思えん」

 アキトに労いの言葉をかけた僕は伸びをしつつ、背もたれに寄りかかって天を仰ぐ。
 その際に少し椅子が傾き、バランスを崩しかけたのは当然の事ながら秘密だ。

 「——姉貴の悪口を言うなぁぁぁ!」

 突然、アキトは体を震わせながらアスカの悪口(?)を言った僕に対して唾を撒き散らし、頬を上気させて怒号を上げた。
 それに応戦するように、

 「——黙れ、シスコン!」

 そう言い放つ。

 「いや、黙らんぞ! あんなんでも俺の大切な姉貴だ! 誰であろうと姉貴の悪口を叩く奴は俺が許さねぇ〜。姉貴の悪口を言っていいのは——この俺だけだ!」

 「弟である自分だけの特権だ」と誇張したいのか、アキトは両親指で自分の事を指さし、意味もなくはにかんでみせた。

 ——ふむ、そこまで言うなら……。

 「あ〜だったら、僕の代わりにお前の後ろで不気味に微笑みながら仁王立ちをしている姉貴に向かって一言言ってくれ」
 「承知した……。ホント、あのクソビッチは——」

 「ア〜キ〜く〜ん。あのクソビッチって誰の事かなぁ?」

 僕の代弁者たるアキトの背後から口元を歪ませ、凄惨な笑みを浮かべながら彼に抱きつき。
 アキトの耳元で艶やかな声で囁く、ク——水無月アスカ様……。
 アスカ様のしなやかでお美しい腕がアキトの首に絡み。
 最初は抵抗をしていたものの徐々にアキトの顔色が青ざめていき。

 ——そして、目が白目をむき、口から泡を吹いた……。

 それを特等席で目の当たりにしていた僕は静かに手を合わせて、

 「南無〜」
 「——まだ、死んでねぇ〜わ!」

 「ハァハァ」と、よっぽど苦しかったのだろう。
 アキトは肩をならし、過呼吸のように必死に息を吸う。

 「アキをイジメちゃだめよ。シゲル」

 今し方、弟に行った教育(?)と言う名の暴力的行為は何もなかったかのようにアスカは微笑み。あたかも僕がやったかのように装いやがった。

 「……直接手を下したのはお前だろうに」
 僕は一応ながら「奴は後ろにいる」と教えてやったのだが、あの馬鹿が調子づいて口を滑らしたに過ぎない。

 ——決して誘導なんてしていないぞ。

 「それはそれよ。——そんな事よりもシゲルも私に何か意見がお有りなのかしら?」

 笑顔のまま手と首を「パキポキ」と鳴らし。
 意見を言おうならば即、手を下せるように身体を慣らし始める彼女の姿に僕は、

 「いえ、何にもございません!」

 アキトの二の舞になるのだけは避けるべく。
 ご機嫌を損なわないよう椅子からすぐさま飛び上がり深深く土下座をした。
 腕が三角に綺麗に折れていたと思う。

 ——ん? プライド? ナニソレ? クエンノ?

 「……そう、ならいいわ。それと今日はもう解散よ。——また、明日からよろしくね」

 そう言い残してアスカは野郎二人を残して「すたすた」と部屋を出て行ってしまった。
 僕は少し一安心して、椅子の隙間を縫うように手足を伸ばして床に転げ寝る。

 「——アキト〜生きてるか〜」
 「……ああ、大分マシになった……」

 肩をならして呼吸を整えていたアキトの生存確認を済ませた僕はゆっくりと瞳を閉じ。
 現在の心境をさらけだそうと思った。
 それについてはアキトも同じような気持ちを抱いていたのか。
 僕たちはタイミングを見計らって、

 『…………はぁ〜』

 と、野郎二人の大きな溜め息が部屋の中で虚しく木霊した……。