コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(2)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 ( No.4 )
日時: 2012/06/11 13:36
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/3/

 ——アキトと学校で別れてから、僕は一人寂しく家路を歩んでいた。

 「……はぁ〜」

 僕は学校を出てからずっとこの調子で溜め息を漏らしている。
 本来ならこの日が最後の春休みだったはずなのだが、姫様のワガママに付き合う羽目になり休日がおじゃんになったからだ。

 まさか、僕たち三人で——いや、実質二人、か……。
 入学式の準備をする事になるなんて思いもよらなかった。
 それも当日の早朝に、だ。

 ——無計画すぎる……。

 こちとら気持ちよく安眠していた、って言うのに。
 禍々しい着信音が何度も何度も部屋の中に鳴り響き。
 しつこいから出るや否や、

 「学校に集合! 以上」

 と、一言だけ言い残して切りやがり、こちらの反論の機会すら与えてはくれず……。
 やむなく学校に行き、椅子やらを体育館に並べて準備が終われば。
 今度は姫様の暇つぶしに付き合わせられる羽目になり短編小説を書く事になった。

 書き終わったら書き終わったで「つまんない」と一言で全てを一蹴し、僕たちの頑張りの結晶をテーブルに叩きつけて。
 入学式が終わってからの片付けがまだ残っているっていうのに一人で「すたすた」と帰ってしまう始末……。

 ——全く、アスカのおかげで眠いし、しんどいしで。
 散々な春休みの最後を迎える事になってしまった。

 「…………はぁ〜」

 周りにいた通行人にも聞こえるほどの大きな、大きな溜め息を僕は吐いた。
 僕は「この歳で苦労人なんだぞ」と、少しアピール感を込めて……。
 そんな中、通学路である車やら通行人が往来する幹線道路をいつも通りに黙々と歩いていると見慣れたはずの景色なのだが……。

 ——なぜか、この時。意味も分からず……。

 ——いや、意味なんてないのかも知れないが、とある一つの建物が目に付いてしまった。

 僕の左手に木々や草花が生い茂る庭園のような空間があり。
 その敷地内に最近建てられたかのように錯覚させるほどの外壁が真っ白で茶色い屋根が特徴的な教会がぽつりと建っていた。

 ——いや、存在していた……?

 ふむ、元々あったのならさすがの僕でも覚えているはずなんだが……。
 ……って、毎日のように通る通学路だろうに覚えてない方がおかしいだろ。
 しかし、幾ら記憶を遡ってもこの場所に教会があった覚えがない。
 それに通行人も見えているのか、見えていないのかは判断つきかねるが……。

 ——別に気にも留めていない様子。

 でも、何だろうこのモヤモヤ感は……。
 それに胸の辺りにつかえるモノがある。
 ただの勘違いかも知れないけど、ちょっと顔を出してみる、か……。

 どのみち家に帰った所でやる事は一つしかない訳で——うん、寝るだけだ。
 だったら、やむなく休日返上したこの最後の春休みだった日をアスカの言葉を借りれば「どんな状況だろうと楽しまなきゃ損よ」だ。

 ……ああ、アスカに毒された、かな?

 僕は首を振って「大丈夫。毒されていない」と自分に言い聞かせ。
 幹線道路から逸れて教会に行く事にした。

 板チョコがそのまま取り付けられたような扉のノブに手を伸ばし。
 何となくだが「こういう神聖な場所に踏み入るのだから礼儀作法を忘れちゃいけない」と思い。僕は扉を軽くノックをして、

 「——失礼しま〜す」

 と、細々と言って。

 ——教会に恐る恐る足を踏み入れた……。