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(1)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 ( No.5 )
日時: 2012/06/11 00:35
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/4/

 中に入ると、教会内は窓から差し込む光に照らされ、和やかな雰囲気に包まれていた。
 そして、横長の古めかしい茶色い腰かけが綺麗に陳列し、祭壇まで続くレッドカーペットの先には人生初めて見る——ステンドグラスが何とも圧巻だった。

 「——神々しいなぁ〜」

 僕は思わず口に出してしまう。
 ステンドグラスには背中から純白な翼が生えた「天使」と思わしき女性が描かれており。
 その女性の両腕には薔薇のツルが絡んでいて、吊し上げられていた。
 さらに華奢なその両足には重りが付けられていて、身体の自由を奪われているにも関わらず女性は微笑んでいた。

 「ん?」

 ステンドグラスから差し込む神々しい光の下で膝を付き。
 祈りを捧げる人物が居る事に気付く。
 濃い紺色の服装からして、シスターさん(?)だと認識した。

 「……どうかしましたか? 迷える子猫ちゃん」

 僕の気配に気づいたのか。
 突然、シスターさんは祈りをやめてこちらに視線だけを送る。
 その際、投げかけられた優しい微笑みに少しドキっとしてしまった。

 「邪魔しちゃいましたか?」

 他愛もない言葉を述べながら僕は辺りをきょろきょろと見渡しつつ。
 レッドカーペットの上を通って、シスターさんの元へ足を進めた。

 「そうですねぇ〜」

 と、シスターさんは立ち上がりながらそう呟くと、

 「ちょうど、よかったんじゃないでしょうか?」

 顎に指を添えて微笑みながらそう続けた。

 ——ふむ、なんだかミステリアスな感じの人だ。

 そんな彼女の姿を捉えながら、僕は失礼を承知の上で少々、思案してみた。

 少し幼さが残る顔立ちから推測するに……同い年か年下?
 まさかの年上って事はない、よな……。
 でも、同い年だろうが年下だろうが、敬語を使いたくなるのはなぜだろう?

 ——シスターさんだから?

 それとも、少し幼さが残る顔立ちの割に年上と思わせるような大人な雰囲気を漂わせているせいか?
 ふむ、それにしても修道服が似合っている。
 彼女のためだけにこしらえられた衣服に思えた。
 それはシスターさんの何もかもを包み込むような優しい笑顔が要因なのかも知れない、が……。

 「——私の顔に何か付いてますか? 迷える子猫ちゃん」

 まじまじとシスターさんの顔を見ていたのがバレたのか、そう指摘され。
 何の計らいかは分からないが、徐に顔を近づけてきた。
 吐息が掛るか掛からないかのすんでの所まで警戒もなく顔を近づけて来たもんだから、僕の心臓はバクバクである。

 「——いえ、何でもありません。……って、さっきから気になってたんですけど『迷える子猫ちゃん』じゃなくて『迷える子羊』じゃないんですか? それに子猫ちゃんって主に女の子に向けて使う言葉だと思うんですけど……」

 僕は冷静を装いながら視線を逸らし、誤魔化すようにシスターさんにそう告げる。
 もし、間違って使っているのなら、指摘してやらないと……。

 「……ふむ、言われてみればそうかも知れませんね。じゃ〜訂正しますね。——迷える子犬君」

 と、満面の笑みで名称を変えてきたシスターさん。

 ——う〜ん、悪気はないんだろうけど、何だろうか。この納得しかねる気持ちは……。

 「どうかしましたか?」
 「いえ、何でもありません」
 「そう、ですか?」

 首を傾げて少し不満気な表情を浮かべるシスターさんに僕は吹けもしない口笛を吹いて誤魔化してみる。と、

 「——神に誓ってですか?」

 そんな僕の不審な行動を怪しんだのか、シスターさんは眉をひそめ。地の利を生かした最凶の詠唱魔法を唱えてきた。
 僕は咄嗟に、

 「天国にいる——ジョンに誓って……」

 ……うん、自分自身にツッコミを入れようと思う。

 ——ジョンって誰だ?

 「……分かりました。そのジョンさんに免じて信じましょう」

 僕のデマカセを真に受けたのか、シスターさんは納得し、微笑んでくれた。

 ——良かった。これで天国にいるジョンも報われるな……。

 ……うん、分かってるって。——やればいいんだろ?

 せぇ〜のっ!


 ……ジョンって誰だよ。