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- (2)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 ( No.6 )
- 日時: 2012/06/12 10:20
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/4/
「さて、迷える子犬君は一体、何の御用でここへ来たのですか?」
「ん〜単なる寄り道、かな?」
「寄り道、ですか……?」
「寄り道」って言葉に引っ掛かったのか、シスターさんは俯き。険しい表情を浮かべる。
さっきまでのミステリアスの雰囲気から少し「ピリッ」とした感じが見受けられた。
やはり、お祈りの邪魔をしてしまった事を怒っているのだろうか。
幾ら聖職者だろうと、寄り道を理由に大事なお祈りの時間を邪魔されたんだ。
怒ってない訳がないだろう……。
そこで、
「すいませんでした……」
僕はシスターさんに深深くお辞儀をした。
それぐらいの事をしたのだから当たり前だろ?
「……えっ?」
僕の行動にシスターさんは呆気にとられたのか、少し間の抜けた声を上げた。
「いや……やっぱりお祈りの邪魔をしてしまった事を不快に思っているんじゃないかと思って……」
「いえ、そういう事じゃないんですよ。——うん、そうですね……。これも何かの縁ですし、迷える子犬君は何か悩み事は無いですか?」
顎に指を添え、少し首を傾げてシスターさんは僕にそう尋ねる。
「悩み事です、か……」
ふむ、突然そんな事を聞かれてもなぁ〜。
——ここはあれか。
「悩み事が無いのが悩み事なんですよ〜」って、茶目っ気たっぷりで言う所、か?
「あっ、ちなみにですよ。——悩み事が無いのが悩み事とか、言うのはなしですよ。君は見るからに捻くれた方のようですし……」
そう言って、シスターさんは眉間にしわを寄せ、ジト目で僕の事を見つめてくる。
「そ、そんな訳ないですよ。僕は正直者で名が通ってますよ。——そうですね、悩み事じゃないんですけど、あのステンドグラス……」
僕は小さく呟いた。
たまたまだろうけど、考えていた事が見抜かれてしまい僕は少し焦ってしまった。
だが、それを誤魔化すために少し声が上擦ってしまったけれど、咄嗟にしては好プレーだったと自画自賛してみる。
「ああ、あれですか。——私には理解出来ませんね……」
「え? 何で、ですか?」
露骨に不快感をあらわにしたシスターさんに僕は首を傾げて尋ねる。
「腕と足を縛られて笑みを浮かべているんですよ。ありえないですよね? ——普通、亀○縛○+吊りし上げにボ○ルギ○グを施されてやっと悦を感じられるかどうかっていうのに……。——全く、甘いですよ」
真顔でそう語る聖職者。
——いや、性職者に僕は少し立ち眩みを覚える。
全く、どこが好プレーだ。
失策じゃないか。
好プレーだと自画自賛していた数秒前の自分が恥ずかしい!
……ん?
今のはさりげなく自分の性癖を暴露——いや、考えすぎだ……。
「まぁ〜今のは冗談ですけど……。——あら? 少〜し残念そうな顔をしてますぅ?」
不気味な笑みを浮かべてシスターさんは僕の顔を覗き込むように詰め寄ってきた。
「まさか、僕は紳士ですよ。そんな訳ないです」
思わぬ問い詰めに少し後退しながらも首を振って否定する。
——この人、狙ってやっているんじゃないだろうか?
「それはさておき……」
馬鹿な流れを変えるかのようにシスターさんは「パチン」と、手を叩いて一拍入れた。
そして、瞳を閉じて小さく息を吐いた後に。徐に瞳を開いたシスターさんの雰囲気が先ほどのお茶らけたモノから「キリッ」と真剣な雰囲気へと変貌した。
僕はシスターさんの真剣な姿に息を呑んで。
「こちらもそれなりの対応を取らねば」と、心を落ち着かせて臨む事にした。
「……迷える子犬君は何か探し物はありますか? ——例えば、自分探しとか」
「いえ、特には。それに自分を見失うほど落ちぶれちゃいませんよ。たぶん……」
「なるほど……」
僕の返答に対して真剣な面持ちで頷いてみせるシスターさん。
僕はこの質問には「何か、そこまで考えさせるほどの真意が隠されているのか」と疑問に思い、聞いてみる事にした。
「あの〜頷いてますけど、この質問に何か意味はあるんですか?」
「……あっ、特にないですよ」
「ないのかよ!」
——あっ、思わずタメ口でツッコミを入れてしまった……。
いやいやいや……。
あの真剣な表情で質問されたからには「何か思惑でもあったのか」と、誰だって思うだろうに普通。
でも、蓋を開けてみると何もないって……。
——そりゃ〜反射的にタメ口になってツッコミを入れてしまうわ……。
「……ふふふ、やっと本性を現しましたね。さっきから気になってたんですよ。——その不似合いな敬語」
眼前には身体を震わせながら不気味に微笑むシスターさんの姿があった。
何て言うか「してやったり」と言った感じで僕の事を見つめており、少々腹が立つ。
「……そんなに違和感ありましたか?」
「ええ、大ありです。大人の遊園地と謳っておきながらその中で繰り広げられるイベントの数々が全て幼稚染みているぐらい違和感あります」
「プンプン」と少しお冠なのか、頬を膨らませながらそう述べた。
そんな彼女に対して額を押えて頭を悩ます少年が一人。
——大きな嘆息と共にがっくりと肩を落とした……。
……えっと、これはどう処理をしたらいいんだろうか?
この人が言う「大人の遊園地」って言うのは——疲れた体を癒す大人たちの最後の楽園(ただし、有料)の事だろ?
それにシスターさんが発した言葉から推測するに……。
——大人たちが唯一幼少期に戻る事が許される場所のようだ。
——ふむ、だったら僕に言える事はただ一つだな……。
「シスターさんが言うそこは大人の遊園地じゃなくて大人の幼稚園の事じゃないかな?」
……うん「実に柔和に表現された言葉なんだろうか」と、再び自画自賛してみる。
僕の言葉に納得してくれたのか、シスターさんは感慨深く頷いて「なるほど……」と小さく呟く。
「……つまり、幼稚プレイ専門の場所って事ですね」
真顔で述べられたその言葉に僕は膝を付いて崩れ落ちる。
気のせいか、口内で少し鉄っぽい味がした。
——ああ、これが「大人の味」と言う奴か……。
しかし、この人……折角、僕が柔和にフォローしてまとめてあげたと言うのに、全て台無しにしやがった。
それに膝を付いて崩れ落ちた僕の事を不思議そうな表情を浮かべて見つめている。
その様に僕は憤りを感じずにいられない……。
何なんだ?
ワザとやってるのか?
——それとも、天然でやっているのか?
もう、訳が分からん……。
「……あの〜どうかしましたか?」
そんな僕に少し心配そうな表情を浮かべながらシスターさんが話しかけて来た。
いかんいかん……。
僕はもう少し、クールだったはずだ。
なのにここに来てからペースが乱れまくっている。
まるで、水無月姉弟(特にアスカ)と接しているみたいだ。
なんつうか……手応えがないんだよな〜。
ひらりとかわされている——って、言うより。軽くあしらわれているような感じで……。
——もう、いいや。
敬語なんて使っているからペースが乱されているんだな、きっと……。
「……ああ、大丈夫だ」
僕は敬語を諦め、タメ口でそう答えた。
そして、身体を揺らしながらゆっくりと立ち上がって平然を装う。
「——そろそろ、お暇しようかな」
立ち上がり際にそう告げるとシスターさんはきょとんとして少し間の抜けた表情を浮かべる。そんな彼女の態度の僕は首を傾げた。
「……もう、帰っちゃうんですか?」
少し名残惜しいのか、上目遣いで訴えかけて来たシスターさんに不覚にも「ドキっ」と動悸がして、少し顔が熱くなってしまった。
「いや……ほら、あまり長居したらシスターさんに迷惑かなって……」
少し心もとない態度ながらも照れてしまったのを上手く誤魔化せたと思う。
その僕の言葉にシスターさんは納得してくれたのだろうか、軽く頷いてみせた。
「……そうですね。——お互い、色々と都合がありますし、ね……」
どこか物寂しさを彷彿させるかのような憂いた表情を浮かべながら話したシスターさんに何か妙な違和感を抱かざるを得なかった。
まるで、これが最後のお別れのような……そんな錯覚が生じた。
「……じゃ〜僕はこれで」
「はい、お見送りをします」
ゆったりとした足取りで僕たちはレッドカーペットを歩き。
板チョコがそのまま取り付けられたような扉のノブに手を伸ばし、ゆっくりと扉を開ける。
——扉を開けた瞬間。
日の光がちょうど真正面から差し込み、僕は堪らず目を細め、手でそれを少し遮る。
「それじゃ〜また」
「……はい。近いうちにまたお会いましょう」
小さく手を振って、微笑むシスターさんに見送られ。
僕は不思議な雰囲気を漂わす、この教会を後にした……。