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(2)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の四 ( No.8 )
日時: 2012/06/11 00:41
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/5/

 すると、唐突に大きな溜め息を吐いたアスカは僕たちの肩から徐に手を離した。
 解放された僕たちの肩は粉砕骨折こそ免れたが、未だに激痛が走っている……。

 「まぁ〜いいわ。そんな事よりも——私たちのクラスに転入生が来るみたいなのよ」

 少し興奮気味に発せられた言葉から「ウキウキ感」が十二分に伝わってきた。

 「ああ、俺もその話を聞いたわ。——何でもかなりの美少女らしい」
 「へぇ〜。転入生ねぇ〜。——何でまた?」
 「そんな事、知る訳ねぇ〜だろ」
 「まぁ〜確かに……」
 「でも、気にならない? その美少女と謳われている転入生が果たして——私の地位を脅かすほどの美少女なのかって……」

 真顔で自意識過剰発言をした少女に僕は思わず口を開けて馬鹿面をさらしてしまう。
 ……いや、確かにコイツがこういう性格だって一年も付き合っていたら、自ずと分かっては来るが……。

 ——こうも堂々と公言されちゃ〜、どういう反応をしていいか分からなくなる。

 アスカが外見上、非の打ち所のない美少女なのは確かなのだが、中身がな……。
 ワガママ姫と言うかおてんば姫と言うか……。

 ——まぁ〜一言で纏めるなら暴君、独裁者って所、か……。

 そんな彼女の被害を一番に被っているのは弟のアキトかも知れないが、僕もその一人になりつつあるな。

 ——いや、もうなっているか……。

 僕が馬鹿な考えにふけっていると、

 【キンコンカンコーン!】

 と、チャイムが鳴り響いた。

 「やべ、そろそろ教室に行かないと……」

 チャイムの音を聞いたアキトが辺りを見渡しながらそう呟く。

 「そうね。——アキ、シゲル。さっさと教室に行くわよ」

 アキトの言葉に頷きながらアスカは僕たちに行くように促した。
 その言葉に僕たちは軽く返事をし、自分たちの教室へ足早に向かう。
 僕は新しい教室の場所が分からないため、水無月姉弟の後を追うように歩く。
 廊下を歩き階段を上がって、また廊下を歩いて辿り着いた三階のとある教室。

 ——二年C組と表札がぶら下がっているその教室に入り、黒板には各々が座る座席表が描かれていた。

 僕の席は幸運な事に後列の席だった。
 でも、その束の間の至福は無残にも打ち破られてしまう……。
 自席が中庭を臨める窓側の席(黒板を正面に左)から二番目の席で、そこまでは良かった。
 だが、その席の左隣にはあの暴君が座り。
 暴君の前にはアキトが座った……。

 「なんつうシフトだ」と僕は思った。

 僕とアキトで暴君の妨げを担う最後の砦として敷かれた布陣のようである。

 ホント、僕に何の恨みがある?
 悪意を感じられる……。

 しばらくして、このクラスの担任教師らしき人物が現れた。
 何の特徴もない平々凡々な中年男性である。

 ん?
 そういえば、僕の前の席が空いているみたいだけど……。

 ——まさか転入生の席って事は無いよな。

 幾ら何でも初見の方には荷が重すぎる席だと思う。
 特に左斜め後ろの要注意人物が、な……。

 「じゃ〜小耳にはさんでいると思うが……転入生を紹介する」

 教卓の前で担任教師がそう宣言した瞬間。
 クラスメイトたちが一斉に「ざわざわ」と騒ぎ始めて。色々と憶測を流し始めた。

 ある男子生徒は「帰国子女なんじゃね」と話し。

 ある女子生徒は「どこかの国のお姫様なんだって」と話す。

 ホント、どれもこれも馬鹿な推測で「この国は平和だなぁ〜」と、僕は年寄り臭くしみじみと思っていると「ガラガラ」と前方の扉が開いた。
 そこから綺麗な黒髪をなびかせながら、凛々しい物腰でゆっくりと入って来た……。

 ——噂の転入生さん。

 少し幼さが残る顔立ちで。
 血が通っているのかさえ分からなくなるほどの透き通った白い肌。
 すらりと伸びた手足のスレンダーな体躯の少女で……。

 ——うん、噂通りの美少女なんじゃないかなと思う。

 アスカの地位(?)を脅かすかどうかはさておき……。

 少女はゆっくりとした足取りで教卓の方へ足を運ぶ。
 そんな少女の姿を目の当たりにしたクラスメイトたちは一瞬にして物静かになり。
 教卓まで足を運んだ少女は黒板に自分の名前らしきモノを書き始めた。

 しばらくして書き終わったのか、こちらを振り向く。
 すると、少女はどこか物寂しげな表情を浮かべた。

 「ふむ、気苦労が絶えないのかね〜」なんて事を考えながら、少女の背後にある黒板に目をやる。
 そこには時雨悠(しぐれはるか)と振り仮名まで丁寧に書き記されていた。

 「私は……」

 と、自己紹介をするのか、唐突に声を上げた少女だったが、途中で口ごもった。

 ——うん、大勢の前で自己紹介する事になったんだ、緊張しない方がおかしいだろ。

 少女は気持ちを切り替えるために瞳を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
 そして、ゆっくりと瞳を開いて、

 「——私は……私を殺せる人を探しにここへ来た」

 と、冷たい眼差しで淡々とそう語った……。