コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

(1)第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の一 ( No.9 )
日時: 2012/06/11 15:12
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/6/

 転入生の告白にクラスメイトたちは何の事か分からずフリーズし。
 隣に座る暴君に至っては「良い人材を見つけたわ」と言わんばかりに羨望の眼差しを彼女に向ける。
 そして、転入生は何事もなかったように「すたすた」と僕たちがいる一角に向かって足を進め。僕が座る、前席に静かに座った。

 「……え〜、これから今後の説明をしようと思う」

 この教室に漂う変な空気を変えるべく立ち上がった勇者。

 ——担任教師が開口一番に言葉を述べ。

 今後の説明(自分の自己紹介や日程について)をし始めた。
 その機転を利かせた好プレーにフリーズをしていたクラスメイトたちは我に返り、担任教師の話に耳を傾き始める。

 ——そんな中。

 とある女子生徒だけは教卓の前で熱弁する担任教師ではなく。
 皆をフリーズさせた転入生に熱い視線を注いでいる。
 言うまでもなく、あの暴君しかいない……。

 「はぁ〜」と、嘆息を吐きながら、

 「——なぁ〜アンタ。どういう真意であんな事を言ったんだ?」

 僕は何を思ってか、転入生にコンタクトを取ってしまっていた。
 ホント、自分自身にびっくりだ。
 まぁ〜でも……見ず知らずの輩の言葉なんてスルーされるだろう。

 すると、

 「——そのままの意味よ。それと……モブの分際で、この私に気安く話しかけないでちょうだい」

 と、スルーされるかと踏んでいたのだが、淡々と罵声を浴びさせられてしまった。
 まさかの罵声に僕は胸を押えて机に項垂れてしまう。
 だが、僕は先ほどの罵声は「何かの間違いだろう」と考え。
 もう一度転入生に話しかける事にした。

 「なぁ〜。アンタの事を熱い視線で見つめる輩が——」
 「私のさっきの言葉が理解出来なかったのかしら? モブはモブらしく話しかけられるまでその辺を往来しときなさいな」

 こちらを一切振り向く事無く、淡々とまた僕に罵声を浴びせる転入生。
 僕はまた胸を押えて机に項垂れる。

 ——しかし、僕は果敢にも攻めようと思う。

 一応ながらこの学校に通っている「先輩」として色々とアドバイス(ほとんどないが……)をしないといけないだろ?

 「……あのさぁ〜」
 「……ああ、ごめんなさい。これは私のうっかりミスね。——アナタはモブじゃなく、ただのドットだったわ。……ほら、ここにアナタが——」

 と、言いながらこちらに振り向き、転入生は徐にメモ紙を僕に提示した。
 やっとこさ、こちらを振り向かせる事に成功した僕は少し浮足立ってしまった。
 が、彼女が提示したメモ紙に目をやると、そこには黒ゴマのような小さな点が描かれている。

 ——えっと、つまり、この黒ゴマのような小さな点が僕だと言うのか……。

 ……なぜだろう、親近感が湧いてきたや。

 それになんだか、目頭が熱くなってきた……。

 すると、僕がそのメモ紙を見た事を確認するや否や転入生は紙を「ぐしゃり」と握り潰して床に捨てた。
 そして、そのぐちゃぐちゃになった紙にトドメを刺すかのように彼女は足で思いっきり踏み潰す。と、

 「……あら? 手が滑ったわ」

 悪ぶれた様子も無く、そう呟いた。

 「ギャー! もう一人の僕がぁ!」

 もう一人の自分(?)に感情移入してしまった僕は堪らず大声で叫んでしまっていた。
 その声にクラスメイトたちは一斉に僕の方に振り向き、僕は羞恥の目にさらされてしまう。

 「そこ〜うるさいぞ〜」

 熱弁している最中に大声を発したものだから担任教師に注意されてしまい。
 クラスメイトたちが「くすくす」と笑い始める。
 そんな憐れな僕に対して転入生は先ほどと一転し。
 不気味な笑みを浮かべながら、床に落としたメモ紙を未だに踏み潰していた。

 ああ、胸が痛い……。

 僕は胸を押えて机に突っ伏した。

 ——しばらくして、

 【キンコンカンコーン!】

 と、チャイムが鳴り響き、クラスメイトたちは帰る支度をし始めた。

 ——はぁ〜、やっと帰れるのか……。
 この傷だらけの身体を早よう癒したい……。

 そう心に思いながら僕もクラスメイトたちを見習って帰り支度をしようとした矢先。

 ——妙な視線を感じ取ってしまう。
 ……なるほど、そう易々と帰れないって訳か……。

 大きく嘆息をしながら、その妙な視線を感じる方向に目を向けると……。

 ——うん、言わずとも分かると思うが、暴君降臨である。

 「シ〜ゲ〜ル〜く〜ん。——彼女と何を話したのかなぁ?」

 怪しく目を光らせながら、僕にしか聞こえない声量でアスカが話しかけてきた。

 「別に他愛もない話だよ」

 と、彼女の問いに僕はそう返答する。

 ——そう、本当に他愛もない話だった。
 一人の少年の心がずたずたにされた事以外はな……。

 淡々と返答した僕の言葉に、アスカは眉をひそめ、怪訝そうな表情を浮かべる。

 「——へぇ〜他人に興味がない、如月瑞希(きさらぎみずき)君がまさか見ず知らずの転入生に積極的に声をかけるなんてねぇ〜。ホント、世の中には不思議な事があるものねぇ〜。彼女が陰りのある美少女だからかしら?」

 不敵に微笑みながら嫌みったらしく「ネチネチ」と口撃を繰り出したアスカに僕は額を押えて大きく嘆息をした。
 アスカが僕のフルネームを織り交ぜて口撃をする場合は本当に機嫌が悪い時である。
 「どうして、不機嫌なのか」理由は定かではないのだが、恐らく……。

 ——アスカと初対面を果たしたあの時。

 当時の僕が彼女に対してほぼ総スルーで素っ気ない態度を取っていたにも関わらず。
 今回、僕は転入生に対して自分から積極的に声をかけてコミュニケーション図った。

 ——この態度の差に不快感を示したと思われる。

 ……いや、誰だって宗教勧誘みたいな話を熱心に語られて、まともな対応なんて出来ないだろ。

 ——うん、それもあるかも知れないが。

 あの頃の僕って良い意味(いや、他人から見たら悪い意味、か……)で出来上がっていたから、他人に対して素っ気ない素振りを見せていた、っけ……?

 「——で、結局シゲルは彼女とどんな会話を交わしたの?」
 「いや、本当に何もないよ……。——そんな事よりも転入生様にコンタクトしなくていいのかよ」
 「彼女なら早々に帰ったわよ」

 その言葉に僕は転入生が座っていた座席に目をやる。
 と、アスカの言葉通り、そこには誰も居なかった。

 「……お前が目に掛けた獲物を逃がすなんて珍しいな〜」
 「誰が狩人よ……。でも、彼女結構骨が折れそうだから、長期戦は覚悟の上よ。どうせ、同じクラスなんだし……」
 拳を強く握り締め、闘志を「メラメラ」と燃やし、やる気を見せるアスカ。
 ……何て言うか、どこからそんなやる気が湧いてくるのかが、分からない。
 ただ言える事があるとすれば。

 ——自分を楽しませてくれそうな玩具を見つけて、純粋に喜ぶ「子供」って感じだな。

 ……はぁ〜。
 転入生、アンタに同情するよ……。

 ——ん?
 そういえばアキトの奴はどうしたんだ?
 一向に姿を見せないが……。

 「なぁ〜。アキトは?」
 「アキならもう先にいつもの場所に行ってるわよ」
 「って、言う事は……」
 「さっさと行くわよ」
 「……はぁ〜」

 行く際に皮肉っぽく溜め息を吐いたらアスカに睨まれてしまい。
 身体が「ビクッ」と強張りました。

 ああ、怖……。

 しかし、一体何を企んでいるんだコイツは……。
 どうせ、ろくでもない事を言い出すに違いない。
 少々、頭を悩ませながら僕たちはアキトが待つ、女王様の私室へ向かう事にした。