コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- (2)第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の一 ( No.10 )
- 日時: 2012/06/11 15:15
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/6/
「女王様の私室」と言ってもやや広めの部室なんだが、アスカが自分の部屋のように好き放題にリフォームをして「私物」と化してしまっている事からそう名付けられている。
——ホント、どうやって手に入れたんだか……。
本人の話では「もらった」と言う事らしいのだが、公共の建物の一室をただの女子生徒がもらえる訳がなかろうに……。
一体、何を仕出かしたんだ?
「……何、難しい顔をしているのよ」
表情に出てしまっていたのか、少し呆れ顔で指摘され。
「いつも通りだろ」
と、淡々とした口調で返してやった。
しばらく階段を下りたり、上がったりと、せわしなく進み。
ようやく、たどり着いた部室棟のとある一室の前で立ち止まった。
そして、ゆっくりと扉を開ける。
と、部屋のど真ん中に置かれたガラステーブルの上でアキトが横たわっていた。
——何やってんだ、アイツ……。
僕はアキトの様子を窺うべく、彼の元へ近寄る。
うん、何とも微笑ましい光景だろうか……。
アキトは白目を向き、白い泡を吹きながら熟睡しているようだ。
——って、え?
僕はもう一度、アキトの事をじっくりと見つめ、検証してみようと考えた。
まずは、目だ。
彼は白目を向いているが……これはセーフだな。
白目を向いて寝る方が少なからず、この世界で一割ほどいると、どこかで聞いた事がある。
——ような気がする。
だから、これは問題視する事ではない。
じゃ〜何がおかしいんだ?
口から吹いている白い泡か?
確かに傍から見れば、おかしな光景かも知れない。
しかし、涎が凝固して白い泡を吹いているように見えているだけかも知れない。
その可能性も否定出来ないだろ?
じゃ〜何だ?
アキトの傍らで転がっている、ドクロのマークが描かれた怪しげな瓶が原因か?
でも、今どきこんなあからさまなモノに毒薬みたいなものは入っている訳ないだろ。
どうせ、生産者が茶目っ気たっぷりに造った代物だろう……。
——うん、結果は出たようだな。
水無月アキトは稀な寝方をする少年だったようだ……。
「……すっごい、効き目」
突然、ぼそっとそんな言葉が聞こえた。
振り向くまでもない。
この部屋には僕と熟睡中のアキトともう一人、アスカしかいない。
したがって、僕以外の人物となるとアスカが言った事になる。
ふむ、どういう意味なのだろう。
これは聞くべきなのか、聞かざるべきなのか……。
すると、アスカが「すたすた」とアキトの元へ歩み寄って行き、何を思ってか。徐に彼の手首を軽く握った。
「……脈はあるみたいね」
アキトの手首を握りながら不吉な事を言い出したアスカ……。
……全く、脈があるに決まってるだろ、馬鹿野郎!
アキトはただただ珍しい寝方をしているだけであって、決して天に召されている訳じゃないだよ、馬鹿野郎!
もう用が済んだのか、アスカが「さてと」と呟き。
何事も無かったようにいつもの定位置(この部屋で一際目立つ豪勢な造りの机)に向かう。
それを見て、僕もいつもの定位置に向かう事にした。
ここ「アスカ様の私室」には、現在アキトがベット代わりに使用しているガラステーブルとそれをはさんでふかふかのソファーが配置されている。
僕とアキトの二人はいつもそのソファーに座り。
この部屋の持主たるアスカは豪勢な造りの机に腰掛ける。
他にもこの部屋には冷蔵庫やらテレビやらの備品が充実しているので、本当に自分の部屋のようにくつろぐ事が可能である。
「——で、アスカ。今回は一体、何を仕出かすつもりだ?」
ソファーに深くもたれかかり、まるでどこかのVIPのような態度で僕は目を細めながらアスカに問いかけた。
その問いにアスカは徐に机の上で腕を組み、僕の事を見据えた。
「ふぅ〜」と感慨深く息を吐いて、たっぷりと間を開ける。
この緊張感が漂う空気にあてられてか。
僕も自ずと固唾を呑んで、アスカが話し始めるのをつい見守ってしまう。
そして、ようやくアスカが口を開こうとした、その時!
「ぶはぁ〜! ぜぇ〜。ぜぇ〜。ぜぇ〜……」
目を覚ましたアキトが目を極限まで見開き、身体を揺らしながら必死に呼吸をする。
ふむ、何か悪い夢でも見ていたのか、少し額から冷や汗が滲み出ているようにも見えた。
それにスローモーションでアキトが起き上がる所を再生したらホラー映画を彷彿させるような様相でもあった。
「——俺を殺す気か!」
怒号を上げながら豪勢な椅子に優雅に佇むアスカを睨めつけたアキト。
それに対して、姉も引けを取らず睨み返す。
アスカの鋭く殺気の込められた睨みにアキトは「ビクッ」と身体を強張らせ、小さく縮こまってしまった……。
そのまましょんぼりとしながらアキトはゆっくりとガラステーブルから降り、僕の向かい側のソファーに腰を下ろした。
「で、そろそろ話したらどうなんだ?」
一連の流れで少々台無しになった緊張感を、再び戻すかのようにアスカが僕たちの事を見据えて、小さく息を吐く。
と、口を開いて、
「……時雨悠を殺してみようと思うの」
淡々と発せられたアスカの言葉に僕たちは意味が分からず「きょとん」としてしまい。
思わず、間抜け面をさらしてしまった……。