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- (1)第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 ( No.14 )
- 日時: 2012/06/12 22:03
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/8/
——まっ、戯言はさておき。
アスカが唐突に発した言葉には、この場にいる僕たちはもちろんの事。
世界中の人々が聞いても「ポカ〜ン」とする事間違いなしである。
——時雨悠を殺してみる……?
……意味が分からん。
こいつはとうとう人殺しにまで手を染めなければならないほどの欲求不満の強欲女に成り下がったのか?
「……ちょっと、聞いてるの? 二人とも」
反応がない僕たちにアスカは少し呆れ気味で尋ねてきた。
「いや、聞いてるちゃ〜聞いてるが……」
「じゃ〜何?」
「姉貴が突然、変な事を言い出すからさぁ。俺たち……どう反応していいやら分かんなくなったんだよ」
弟の言葉に姉のアスカは首を傾げてきょとんとする。
その反応に僕たちがきょとんだわ……。
「別に変な事なんて言ってないわよ。私はただ時雨悠を殺したいと言っただけ」
何食わぬ顔をして、またおかしな事を言い出したアスカに僕たちは、もう何が何だか分からなくなり。
今、この時。どういった表情を浮かべているのかさえ分からなくなっていた。
それでもやはりアスカが、なぜそんな馬鹿な事を言い出したのかを問わねばならない。
僕は二、三回小さく深呼吸をして気持ちを切り替えると、
「それが変なんだって……。——何で、転入生を殺さなきゃならんのだ」
僕のこの言葉にアスカは小さく息を吐いて、ゆっくりと瞳を閉じる。
そして、瞳を開けて徐に口を開いた。
「……アンタたちは知りたいと思わない? なぜ、彼女があんな事を人前で言い出し……そして、なぜ死にたがっているのか?」
『それは……』
「私は知りたいわ。だって、私たちはこれだけ生者であろうと努力をしているのにも関わらず。何ら変わりない退屈な日々を過ごす亡霊、浮幽霊でしかないのよ。それなのに、生者から死者になりたいですってぇ〜? 冗談じゃないわ! 私たちは好きでこの地位に甘んじている訳じゃない。必死で必死で、そちら側に行こうと頑張っているのよ!」
興奮気味ながらも流暢な口調で語ったアスカの言葉に僕たちは少し「ホッ」として安堵の表情を浮かべた。
それは彼女が色々履き違えて転入生の言葉を解釈しているのだと分かったからだ。
転入生が述べた言葉はそのままの意味合いを持つモノだろうけど、アスカのモノは違う。
アスカは自ら(僕たちも含む)の事を亡霊、浮遊霊、死者などと表現している。
それは「退屈な日々なんて生きてる心地がしない」と揶揄した所から生まれた言葉だ。
つまり、退屈しない日々を過ごす者たち(所謂、リア充って呼ばれる奴か?)の事を「生者」と称している彼女にとって「死にたい」なんて発言は言語道断である。
自分がどうやっても行けないそちら側にいるくせに、小娘の分際でこちら側に来たいなどと気安く言いやがり、怒り心頭のアスカ様って感じのようだ。
まぁ〜それはともかくとして、さすがのアスカも自分の退屈を埋めるために人を殺そうなんて馬鹿な考えはしない、か……。
でも、一時。
「自分が生者になれないのは髪型のせいだ」と、考えたアイツは色んな髪型にチャレンジしていたっけ?
最終的に「何も変わりゃしないわね」と結論付け、長髪だった髪を「うざい」との理由で適当に短く切って、ぼっさぼっさの髪になってたな……。
——今となっては懐かしい思い出だよ。
「で、アンタたちはどう思う?」
目論見通り、少々ご立腹なのか。アスカが凄い剣幕で僕たちの事を見据えて意見を仰いで来る。
「どう思うも何も……。——転入生が発したあの言葉の真意はアスカが思っているモノとは違う。全くの別次元の話だぞ」
「そうそう。時雨さんが退屈な日々を過ごしたいと姉貴は解釈したみたいだけど、当の本人は本当の意味での死を望んでいるみたいだぜ」
「は? 本当の意味での死って何? これ以上の何かが他にもあるって訳?」
彼女の何気ない発言に僕たちは絶句した。
マジで言っているのか、コイツは……。
——いや、今更驚く事でもない、か……。
アスカは純粋にそう思って発した言葉なんだろう。
僕は正面に座るアキトにアイコンタクトを送る事にした。
あまり深い意味は無いんだが「この女王様の対応をどうするべきか」と、歴の長いアキトに意見を仰ぐ意味で送ったのだ。
すると、アキトは「もう少し様子を見てからでいいんじゃね」と返して来た。
全く、悠長な事を……。
でも、先輩がああ言うなら従うしかない、か。
「んで、姉貴は時雨さんの事をどうしたいんだ?」
そう話しかけながらアキトは僕の事を一瞥する。
「ふむ、どうしたらいいもんかいのぉ〜」と考えながら。
「ここはアキトに合わせる感じで良いか」と、言う考えに至った僕は、
「アスカはさ、転入生の事を殺してみたいって言ったけど。僕たちは別に転入生に恨みなんてない。だけど、アスカが言うように転入生が何で死にたがっているのかは気になるよ」
僕たちの相槌のような言葉の応酬に色々と考えさせられる事があるのか、頷きながらアスカは思案顔になってしまわれた。
うん、心にもない事を僕は「淡々と語ったなぁ〜」としみじみと思った。
しかし、あの転入生が言った言葉が妙に気になる。
——私を殺せる人を探しにここへ来た、か……。
それって、言いかえれば「自分の力では死ねない」って事だよな。
つまり、ある程度の事は自分で試したって事、か……?
……ううん。そんな事、ある訳ない……。
それともう一つ、気になる点があった。
……いや、これに限っては僕の勘違いかも知れない。
だけど、あの転入生とはどこかで会ったような……気がする。
どこだ……?
僕は思い当たる節がないかと記憶を遡ってみた。
しかし、それらしき人物は該当しな——いや、該当したにはした。
だが、そいつは転入生とは対極の人物だ。
——そう、昨日遇ったシスターさんである。
でも、これは僕の勘違いだろう。
どちらも童顔でスレンダーな体躯ではあったが、漂わせる雰囲気が違ったし、性格も違う。
したがって、この案はボツだ。
それに、この世界には自分と似た人物は二、三人いると聞いた事がある。
僕は昨日、今日で二人の似た人物と遇ったって事なんだろうと、思う。
姉妹って事も考慮してみたが、それも違うと考えた。
それならもう少しだけ噂になっていてもおかしくないだろう。
——美少女姉妹が転入して来るって、さ。
シスターさんと転入生の歳が目測ではあるが、さほど変わらなかったから……。