コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- (2)第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 ( No.15 )
- 日時: 2012/06/12 22:02
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/8/
「キ〜サ〜ラ〜く〜ん。——何、お前まで難しい顔してんだ?」
思案顔をしていたのか、不意にアキトにそう指摘され少しドキッとしてしまった。
ふむ、僕はもう少し無表情だったと思うのだが……。
やはり、水無月姉弟(特にアスカ)と関わってから表情豊かになってしまったのか……?
「いや、あの転入生はなぜ、あんな事を言い出したんだろうなって……」
「それはあれじゃね? ——私とアナタたちでは住んでいる世界が違うの〜。だから気安く話しかけないでちょうだい。って、意味を込めての牽制じゃね?」
「口調はともかく、牽制ならもう少しマシな言い方があるだろうに……。例えば——私に気安く話しかけないでちょうだい愚民ども。って、感じで……」
「それ、俺より酷い言い方だな〜。……まるで実害を被ったような言い草だ」
まぁ〜たった数分で心をずたずたにされた実績があるからな……。
しかし、アキトが言うように本当に牽制の意味を込めて言った言葉なのだろうか?
もし、そうなら別段気にする事はないんだろうけどな。
転入生が「一人で居たい」って言うなら一人で居ればいい事だし。
僕もどっちかって言うとそっちの口だ。だから、彼女の事を否定も肯定もするような立場でもない。
——冷たい言い方かもしれんが、転入生の好きにすればいいと思う。
「なぁ〜アスカ。そろそろ何か話したらどうなんだ? とうに浮かんでいるんだろ?」
少し、急かすような言い草で僕は不意にアスカにそう投げかけた。
実際、ここで僕たちがどうこう言おうが彼女の言葉が絶対になってくる。
そのため、何か浮かんでいるならさっさと発表してほしいと思ったからだ。
つまり、正直な所「さっさと結論を出して解放してほしい」って所だな。
すると、ようやくアスカは考えが纏まったのか、僕たちの事を見据える。
「……そうね。少し感情的になってしまったのは謝るわ。あの子が、なぜ自分の事を殺せる人物を探しているのか、なぜそこまでして死にたいのか……。そこに重きを置いて考えようと思うの。だから、する事は一つ。——あの子の身辺調査をしようと思う」
淡々と語りながらもアスカの表情にはどこか楽しげなモノを感じられた。
恐らく、この退屈すぎる日々を少しでも脱却できるかも知れない事件に巡り合えたからだと思われる……。
「で、身辺調査をしてどうすんの? 転入生の事を説得でもする気か?」
少し嫌みったらしくアスカの真意を問うてみる僕。
別に深い意味はないけれど、どうせ僕たちが調べさせられるのだから、それぐらい聞いても良いだろ?
「特に意味はないわ。ただ、知りたいだけ。いいえ、こんな面白そうな事をみすみす見逃す訳にはいかないでしょ!」
拳を強く握ってアスカは僕の言葉にそう返答した。
とうとう、本音が出やがったか。
初めから分かっていただけになんつうか……。
——ここまで自分の気持ちに素直になれるのは逆に清々しいな……。
「……分かった。僕たちは何も言うまい。いや、言った所で強制イベントは確定しているから無駄な体力は使いたくない。ただ——」
「分かってるわよ。アンタたちが言う『死』を本当に彼女が望んでいるのなら、説得でも何でもすればいいじゃない。私はそれまでの過程を楽しませてもらえば十分だから」
「了解」
「よ〜し。そうと決まれば行動あるのみだな」
何やらやる気がみなぎっているのか、徐にアキトが拳を強く握り締め、熱血漢あふるる言葉を発した。
そんな彼の態度に僕は嘆息を吐きながら冷やかな視線を送る。
毎度の事ながら、姉の命令に素直に従っていて「面倒臭い」と思った事はないのだろうか?
——本人がそれで良いのなら別にいいの、か……。
他人の僕がとやかく言う事でもないし。
アキト自身が少々シスコン気味だから姉の役に立てて幸せなんだろうな。
「なぁ〜キサラ。身辺調査って一体何をすればいいんだ?」
「そういう事は探偵かストーカーに聞いてくれ」
「なるほど、その道のプロに聞けって訳か……。でも、そんな知り合い居ないからな〜」
僕の言葉を真に受けたのか、真剣な面持ちで唸るアキト。
いや、ツッコミ所があるだろうに……。
探偵はともかく、ストーカーの知り合いが居る方が稀なケースだろ。
「まぁ〜どうにかなるか……」
「考えていてもしょうがない」と言わんばかりにアキトは開き直りやがった。
確かにそうなんだが、もう少し頭を使った方がいいと思うぞ〜。
特に姉とのあり方についてじっくりとな……。
「その事なんだけど……」
何かいい案があるのか、アスカが渋い表情ながらも言葉を発した。
僕には嫌な予感しかしないけど……。
さて、どんなトンデモ案を告示するのか見ものだな。
——せめて、僕たちが容易に出来るような事でお願いするよ……。
「身辺調査は私とアキがするとして……。——シゲルには時雨悠と接触し、それとなく聞き出す役目を担ってもらおうと思うの」
「はぁ? 何で、僕が?」
「ほら、アナタは彼女と話した事がある唯一の人物だから」
「少し買い被り過ぎだぞ、その言葉……」
僕の事を褒めて、そそのかそうとしても無駄だ。
生憎だが、僕はそこまでノリが良い人間ではない。
……それにしても、少し言い過ぎではないだろうか。
幾らなんでも僕としか会話を交わしていない訳がないと思うが……。
——ほら、転入生とお近づきになりたい輩がいるだろうしな。
「——いや、姉貴の言葉は結構マジだぜ。キサラ以外の奴らから話しかけられている所を見たけど……全てスルーだったぜ」
「……僕が話しかけた時はたまたま機嫌が良かっただけだと思うよ」
……ったく、大勢で押し掛けるから転入生が機嫌を損ねただけだろ。
年頃の女の子は繊細なんだよ、馬鹿野郎!
「いいや。俺が見るに——時雨さんは常に不機嫌だと思う」
「……失礼な奴だな」
「まぁ〜そんな所よ。それに彼女の身辺調査をして理由が見つからなかった時のための保険にもなるでしょ? ——だから、もしものためだと思ってやれ!」
いつまでもぐずぐずしている僕に痺れを切らした女王様は凄い剣幕で睨みつけ、有無も言わさぬ様相で呈した。
そんな彼女に僕は何も言えなくなり、
「……了解」
こうして無理やり役割を決められた一人の少年は額を押えて大きく嘆息を吐いた、とさ……。
——めでたしめでたし……なのか?