コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の四 ( No.16 )
- 日時: 2012/06/13 22:19
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/9/
——翌日。
最悪な目覚めと共に今日一日を迎える事になった。
モーニングコールが水無月アスカからの電話で、僕の安眠が妨げられたからである。
そして、出るや否や命令されたのだ。
「誰よりも早く学校へ行き、時雨悠と二人きりでコンタクトを取れ」と……。
——はぁ〜。
無計画すぎるだろ……。
まず、なぜに朝早くから行かなきゃならない?
仮に早く登校した、としよう。
だけど、相手は登校しているか分からないし、遅刻すんでの所で来るかもしれない。
そんな賭けのような提案に乗れる訳がなかろう。
だから、僕は行かん!
——と、言いたい所だが、行かなきゃ何されるか分からん……。
それに「行ったか、行っていないか」を確認するため「校門に取り付けられた防犯カメラをチェックするから」と、言われちゃ〜もう、ホント……。
行くしかないだろ……?
気分が優れないまま。いつもの時間よりかなり早めに起床し、登校前に行う身支度をいつも通りに済ませて、家を後にした。
陽が出て、あまり時間が経っておらず。
辺りが少しモヤがかり、肌寒い朝……。
昨日、家を出た遅い時刻と違い。遠方の会社に勤める通勤者たちがちらほらと歩いており、僕は「朝早くからご苦労様」と労いの言葉を心の中で述べてみる。
しかし、いつも通い慣れた道のりなのに、妙な違和感を覚えるのはどうしてだろうか?
見慣れた景色である事には間違いないのだが……。
もしかすると、辺りに立ち込める白いモヤと少し薄暗い環境が、そう思わせているのかも知れない。
少々、臭い事を考えながら何ら変わりない学校に辿り着き。
校舎に向かって欠伸をしながら歩いていると、どこかで朝練をしているのか、
「いち! にっ! いち! にっ!」
と、威勢の良い掛け声が聞こえて来た。
「青春を謳歌してるのぉ〜」
そんなジジ臭い事を漏らしながら校舎に辿り着いた僕は自身の教室へ向かう。
二年C組の表札がぶら下がった教室の扉をゆっくりと開けて入ると……。
——案の定、僕が一番乗りだった……。
ほら、言わんこっちゃない……。
だけど、アスカの言いつけ通りに眠たい中、朝早くに来てやったんだ。
これで文句を言われちゃ〜もう……お手上げである。
愚痴を心の中で溢しながら、自席に腰を下ろす。
ふと、入り口付近の壁に掛けられた時計に目をやると。
——時刻、午前七時十分になろうとしていた。
……マジか。
授業開始までまだ一時間半はあるぞ。
どう時間を潰せばいいんだ?
寝る——訳にはいかないよな〜。
寝てる間にもし、アスカが奇をてらって早く学校に来てしまったら何を言われるか分かったもんじゃない。
ふむ、僕が寝堕ちするのが先か。
はたまた転入生が来るのが先か、あるいは……。
【ガラガラ】
と、僕が考えにふけっていると扉が開かれた。
誰が入って来るのだろうと扉の方に視線を向けると、そこから凛々しい面持ちの——まさかのターゲット様がいらっしゃってくださった。
「マジかよ」と思いながら見つめていると。
転入生が僕の存在に気付いたのか、僕の事を見るや否や本当に誰からにも分かるような不愉快な表情を浮かべた。
そして、大きく嘆息を吐きつつ「すたすた」と自身の座席である。
——僕の前席にゆっくりとその重い腰を下ろした。
……ホント、傷つくよな〜。
まぁ〜いい。奴さんが寝堕ちする前に来てくれたから、それで良しとしよう。
しかし、何から切り出せば良いのやら……。
視線を彷徨わせながら逡巡し、ようやく考えが纏まる。
うん、ここは手堅く挨拶だよな。
笑顔で「おはよう、転入生」って、感じか。
当たり障りなく無難な感じだけど、もう少しフランクな感じの方が良いかな?
「悠ちゃ〜ん、チョリース!」って、感——いや、ないな。
フランクって言うよりチャラ男だ。
それに僕のキャラには不釣り合いだ。
——うん、無難が一番だな……。
挨拶をするだけなのになぜか緊張してしまい。
気持ちを落ち着かせるために二、三回小さく深呼吸をし。
気持ちが落ち着いた所で、
「お、おはよう。転入生」
少しおぼつかない口調ながらも僕なりに頑張れたと思う。
だけど、転入生は無反応で挨拶を返してくれる事は無かった。
ふむ、想定内の事とは言え、少し胸に「ズキン」と来るな……。
「——案外、来るのが早いんだな〜。もしかして、緊張して眠れなかったとか?」
「……」
返事がない。
これはただの——じゃない。
「僕もさぁ〜。緊張じゃないけど、なかなか寝付けなくてさぁ〜。気付いたら朝だったんだよ〜。まいっちゃうよな」
「……」
……これしきの事で、へこたれへん!
「どう? もう学校には慣れた? いや、まだ始まったばかりだから分からんか」
「……」
「うん、そうだよなぁ〜。人間、慣れるまでが大変なんだよな〜。慣れたら慣れたで、また違った要因で大変だけど」
「……」
「あははは。小童の分際で何語ってんだって話だよなぁ〜」
「……」
「——悠ちゃん。キャワウィ〜ネェ〜」
「……」
……ダメだ。何言おうがスルー判定を食らわされる。
総スルーされて心が折れた僕は不貞腐れながら机に肘を着いて、それを顔の置き場とした。
そして、大きな嘆息を吐いて授業が始まるまで「ボーっ」と過ごす事と相成った……。
すると、前方に座る転入生の頭が突然「ガクッ」と下がり。
その光景を後方から「ボーっ」と眺めていた僕は自ずとある疑念が過ってしまった。
……もしかして、寝てた……?
そう思いながら彼女の事をまじまじ見ていると。
自分が寝堕ちした事に気が付いたのか、転入生は「パッ」と頭を上げ。
周りをキョロキョロと見渡し始める。
その最中、何かに気付いたのか見渡すのを唐突にやめて。
狙い澄ましたようにゆっくりとした動作でこちらを振り向いた。
が、身体を「プルプル」と小刻みに震わせながら凄い剣幕で僕の事を睨む転入生。
「なぜ、お怒りになられているのか」の意味が分からず、僕は首を傾げてしまう。
「……えっと、どうかしましたか?」
「……」
僕の事を睨むだけで何も語らない転入生に少し恐怖を覚えた。
それと同時に頭の中では良からぬ展開が幾重に渡って繰り広げられてしまう。まるで、後に起こる事態に備えてのシミュレーションのように……。
——ああ、これはアレだな。お約束(?)って奴だよな……。
ふぅ〜しょうがない。
全て受け止めるとしようかね……。
半ば開き直るように瞳をゆっくりと閉じて深く息を吐き。
気持ちを切り替えて、覚悟を決めた僕はゆっくりと瞳を開ける。
転入生もこの流れの意図を理解出来ているのか分からないが、凄惨な笑みを浮かべ、待ち構えていた。
そして、準備が整った所で僕の右頬に向けて鞭のようにしならせ、スナップを利かせた平手打ちが放たれた。
【パチーン!】
快音が教室に響き渡る。
と、同時に意識をもうろうとさせ、椅子ごと床に倒れ伏せている——少年がいた。
その光景は彼女の平手打ちの威力を十二分に物語っている。
そして、少年は平手打ちを食らい、飛ばされている間に気付いた事があった。
まず一つ、転入生がサウスポーだったと言う事。
それともう一つ、これは一番重要視しなければならない事柄だった。
——なぜ、殴られなきゃならんのだ、と……。
身体を「ピクピク」と痙攣させながら、徐々に意識が薄れて行く少年の事を嘲笑うかのように時雨悠は「うっとり」と恍惚な笑みを浮かべていた……。