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第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の六 ( No.18 )
日時: 2012/06/15 21:18
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/11/

 「……死にたい」

 女王様の私室で虚しく木霊する僕の嘆き……。

 あの後、乱心した僕を数人がかりで自席まで送り届け。
 どこから取り出したか定かではない縄で「また飛び降りないように」と、しっかりと椅子に固定させられてしまい。
 固定されながらも僕は大声を上げて、もがき続けていたのだが、結局力尽きてしまった。

 ——ただ単に諦めてしまっただけだが……。

 「……何、意味の分からない事を言ってるのよ。——シゲルはもうとっくに死んでいるじゃない」
 「いや、姉貴……。キサラが言っているのはそっちの意味の『死』じゃないと思うぜ」
 「まぁ〜どっちでもいいわ。それよりも——時雨悠、なかなかやるわね……」
 「……ただのキサラの自滅じゃね?」

 僕の気持ちを後目に水無月姉弟は淡々と語り合う。

 捕縛されている間に僕なりに状況整理をしていて、気付いた事があった。
 それは、転入生からの理不尽な暴力を受けてしまった所から色々とややこしい事になってしまっていたようなのだ。
 理不尽な暴力を受けて気を失い。

 目覚めた僕はどうやら記憶を失っていたようで。
 何て言うか——アキトを巡ってアスカと勝負していたらしい……。
 その事を思い出したのが、アスカとの勝負で飲んだ謎の液体のおかげなんだが……。

 ——出来ればBL展開の部分だけは思い出したくなかった……。

 「はぁ〜」と、大きく嘆息をした僕の嘆きは女王様の私室に虚しく響き。
 さらなる虚しさに自分の身体が苛まれてしまった。

 「で、あの子から何か聞き出せたんでしょうね?」
 「……僕の現状を見れば言わずとも分かるだろ?」

 この言葉にアスカは目を凝らし、まじまじと僕の事を見つめ始めた。

 今の僕の右頬には転入生に打たれた手形が残っている。
 ……ったく、どれほどの力を込めれば、手形が残るって言うんだよ……。

 ——って、記憶がぶっ飛ぶほどに、か……。

 まぁ〜いい……。
 これで僕に任せたのが「間違いだった」とアスカは気付くだろう。
 すると、ようやく僕の意図が理解出来たのか、彼女が頷くながら、

 「——って、言う事は成功した、と……」
 「何でそうなるんだよ!」

 ホント、どう見ればそうなる?
 奴の目は節穴か?
 ——いや、節穴だね。

 「……核心に迫る質問をしたから彼女に叩かれたんじゃないの?」

 彼女の何気ない発言に僕は思わず「ビクッ」と身体を強張らせてしまう。
 その反応にアスカは首を傾げ、僕の事を見つめる。
 本当の事など、言える訳なかろうに……。
 言ってしまおうならば、さらなる仕打ちを転入生から受けてしまうかも知れん。
 それだけの事を彼女の中では「仕出かした」と思っているのだろうからな。

 しかし、寝堕ちか……。
 あそこまではっきりと頭が「ガクッ」と下がる所を見てしまうと、何だが可愛げがあって良いな……。

 「……何、気色の悪い笑みを浮かべているのよ」

 表情に出ていたのか、アスカにそんな事を言われた。
 ふむ、僕の表情筋が馬鹿になっているのかな?

 「いや、ただの思い出し笑いだ」
 「これからアナタの事を『シゲル』から『ムッツリ』に変更するわ」
 「はぁ? 何でそうなる? ——いや、そもそも『シゲル』と言う呼び名も、まだ僕は認めた訳じゃないからな」

 ——僕の名前。

 如月瑞希(きさらぎみずき)の瑞希からゲゲゲなお方を連想して僕の事をそう呼称するようになった、アスカ。
 それを他の連中も便乗して呼ぶようになっているから迷惑な話である。
 ちなみにアキトが呼ぶ「キサラ」も如月から来ているみたいだが、僕は結構このあだ名の事を気に入っていたりする。

 ——だけどだ。

 水無月姉弟が僕の事を「キサラ」や「シゲル」と呼ぶもんだから、それを僕の名前だと勘違いされる事が 多々あり、少々困っている。
 これは僕の予想だが「キサラ」や「シゲル」に押されて、僕のフルネームの事なんて「誰も知らないんじゃないか」と、思う今日この頃である。

 「確か……思い出し笑いをする奴は大抵ムッツリスケベらしい」

 何かを思い出したかのようにアキトが唐突にそんな事を呟く。

 「……それ、どこ情報だよ」
 「水無月リサーチに決まってろうが!」

 何故か分からんが逆ギレ気味に返答された……。
 ふむ、普通に尋ねたと思うのだが……。
 自分でも気づいていないどこかに過失でもあったのだろうか……?

 「——で、そっちの首尾はどうだったんだよ。そのご自慢の水無月リサーチとやらは役に立ったのか?」
 「いや、全く……」

 と、アスカの様子を窺うようにしてアキトがそう述べた。
 その際、二人の間で何かアイコンタクトが交わされたような気がしたが……。
 追及してもコイツらは吐かないだろうから、気にしない事にした。

 「……僕と大して変わらないじゃないか」
 「それはお互い様でしょ? まぁ〜いいわ。だけど、彼女——時雨悠は何か怪しいと思う」
 「……少女の素性を調べようとしている僕たちの方が十分怪しいと思うがな」
 「ほら、好きな子の事を執拗に追いかけ回す。——恋する乙女な感じよ。要するに奥手って事……」
 「奥手って言うよりただのストーカーじゃねぇ〜か」
 「まぁ〜あれだ。——夢ばかり追いかける連中もストーカーと大差ないって事だよな」

 真顔でそう述べたアキトに僕は「はぁ〜」と嘆息を吐いて肩を落とした。

 ——相変わらずの馬鹿っぷりに頭が痛い……。
 自分で上手い事を言っているつもりだろうけど、夢見る少年少女たちと陰湿ストーカーを一緒にするな。

 「んで、どうすんの?」
 「そうね。引き続きよろしく頼むわ」
 「……了解」

 嘆息交じりに返答すると、アキトが怪訝そうな表情を浮かべ、僕の事を見つめながら首を傾げていた。

 ——何だ?
 僕の顔に何か付いているのか?

 「——何だか、元気がないなぁ〜キサラ」
 「……いや、ここの所。色々あったからさ……。疲れているんだと思う」

 うん、ホント色々とあったと思う。
 主に心の方面が疲弊するほどに……。

 「何言っているのよ。何もする事がないアンタなんかが疲れる訳ないでしょ?」

 嘆息交じりに言い放たれたアスカの言葉で僕の苦労が一蹴されてしまった。

 「……何気に酷い事を言ってるぞ。おい」

 ホント、酷い奴だ。
 僕だって色々とやる事があるんだぞぉ〜。

 ——例えば、ご飯を食べたり。

 テレビを見たり。

 床に就いたり。

 と、指折り数えながら僕は重大な事に気付く。

 ——アスカの言う通り。
 僕には何もありませんでした……。

 「じゃ〜今日はこれで解散」

 突然、発せられたアスカの「解散発言」に僕は思わず間の抜けた表情を浮かべてしまう。
 まさか、これほど早くに解放されるとは思わなかったからである。
 が、いつもなら僕と一緒になって驚くアキトが今日に限って妙に平然としているのには、違和感を覚えずにいられない。

 ——僕に何か、隠している……?

 けど、ここでも僕は彼らに言及する事無く。

 「——分かった。じゃ〜また明日」

 何食わぬ顔をして、そう述べた。

 「おう、また明日な」

 アキトが手を振って僕に別れを告げると、アスカと共に先に部屋を出て行った。
 「ふぅ〜」と、自分以外誰も居ない部屋の中で溜め息を吐いた僕は、徐に腕を上げて伸びをする。
 そして、反射的に欠伸が出てしまった。

 ——さてと、僕もそろそろ帰ろうかな。

 しばらくしてからゆっくりと立ち上がり。
 「のそのそ」と牛歩のように部屋を出る僕は忘れないように戸締まりをし。

 【カチャ】

 と、きちんと施錠をした事を確認して。
 僕は部室の鍵を返しに、部室棟一階にある管理室に向かった……。