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第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の七 ( No.19 )
日時: 2012/06/16 21:45
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/12/

 ——西日が差し込む夕暮れ時……。
 昼間と違い、物静かな廊下には夕日が差し込み。
 その影響で廊下が茜色に染まり、少し不気味にも思える雰囲気に様変わりしていた。

 そんな中を僕は我が物顔とは程遠いものの、廊下のど真ん中を悠々と歩く。
 そして、外から、

 「バッチコーイ!」

 などの掛け声が微かではあるが、聞こえた。
 だけど、校舎内は依然として静寂に包み込まれており、外と内との違いに少々違和感を覚えずにいられない。

 外は掛け声などの「音」があるとして。
 内である校舎内にある唯一の「音」と言えば……。

 ——僕が歩く時に生じる足音ぐらいである。

 「スタスタスタ」

 と、足音だけが響き渡る夕暮れ時の廊下。
 今でこそ薄暗い所があるけれど、完全に日が沈み。
 夜になってしまったらと思うと「ゾッ」とするものがあった。
 ホラー映画様々の舞台に変貌するんじゃないか、と不覚にも思っちゃったりする。

 ここだけの話じゃないんだろうけどな。
 大体の建物の全てに言える事だと僕は思う。
 昼間は人が居て、騒がしかったりするが……。

 ——時が経って。

 夕暮れ、夜になると。
 その賑わいは嘘のように静まり返り。
 建物自体の印象も百八十度変わったりする。

 今朝感じた、あの違和感もそうだろうか?
 朝の顔、昼の顔、夕暮れ、夜の顔……。
 全てにおいて、例え見慣れている景色だろうと違って見えてくる。

 「……はぁ〜」

 と、静寂に包まれた校舎内で、僕は徐に感慨深く溜め息を吐く……。
 そして、同時に「自分は老けてしまったんだなぁ〜」と、しみじみと感じてしまった。

 ——若い頃は……。

 ——って、今でもピチピチの現役高校生だが……。

 景色なんてどれもこれも同じに感じて、目にもくれずに遊び呆けているだろ、普通……。
 だけど、ここに来て景色に目に行くってどうよ。
 ……老いを感じずにいられない。

 「はぁ〜」

 と、今度は嘆くように嘆息を吐く……。
 少し肩を落としながら僕は鍵を返しに管理室に向かって、トボトボ歩いていると、

 【ドスン!】

 と、僕の足音や外の掛け声以外の音が突然、響き渡った。

 ふむ、誰かが壁打ちでもしているのだろうか?
 そう思いながらしばらく歩いているとまた、

 【ドスン!】

 と、低く鈍い音が聞こえた。
 それに今度は近いのか、大きな音だった……。

 壁打ち如きでここまでの大きな音が出るものなのか?
 少し違和感を覚えながらもしばらく歩いているとまたもや、

 【ドスン!】

 と、低く鈍いながらも大きな音が鳴り。
 先ほどの位置よりも近づいて来ているのか、音が鮮明に聞こえた。

 さすがの僕も気になり。
 しばらくその場に立ち止まって、耳を澄ましていると……。

 ——案の定、

 【ドスン!】

 と、低く鈍い大きな音が聞こえた。
 どうやら外からのようだが、壁打ちで生じた音ではないような気がした。

 「……それなら」と、廊下の窓から外を覗こうとしたその時。

 ——上から何かが降って来たのを辛うじて視認出来た。

 「……何なんだ?」と、思いながら窓を開けて下に落ちたモノを覗き見た。
 が、そこには何もなく。
 至って普通の花壇が眼下に広がっているだけだった……。

 ……ふむ、何かの見間違いかな?

 そう結論付けた僕は「さっさと管理室に鍵を返しに行こう」と徐に顔を上げた瞬間。

 ——何かと目が合ってしまった……。

 その「何か」は、そのまま花壇に落下し、

 【ドスン!】

 と、低く鈍い大きな音を立てた……。

 僕はその「何か」と目があったその刹那。
 ……堪らず、思考停止し。フリーズしてしまっていた。

 ——いや、ただの現実逃避かも知れない。

 それは認めたくもない悲惨な状況を指す事になるからで。
 だから、僕は自ずとフリーズしてしまったのかも知れない……。
 けれど、そんな事をしても。事が起こった「現実」は何も変わる事は無い。

 ——そう、変わる事は無いのだから、さっさと認めてしまえば楽になろうに……。

 だけど、それは……。

 事実を認めようとした、その瞬間。

 ——僕は思わず口を押え、奥から込み上げてくるモノを必死に抑えた。

 これまでの人生で初めての感覚だった……。
 これほどまで喉が。
 食道が。
 そして、身体が暑苦しい……とも違う。
 でも、それが一番当てはまっているような、気持ち悪い感覚に襲われてしまった。

 しばらくグロッキー状態になっていた僕だったが。
 思い切って、事実確認をするため。
 花壇に落ちたモノに目を向ける事にした。

 ……しかし、事が起こった現実は変わらず。
 花壇上で彼女が……。

 ——時雨悠が自らの血液で身体を紅く染めながら横たわっていた……。