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(2)第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の二 ( No.23 )
日時: 2012/06/18 23:02
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/14/

 すると、突然——

 【ピンポーン!】

 と、インターホンが鳴り響く。

 もしかして、と思い。僕は財布を持って玄関に向かい。
 玄関先には案の定、ピザ宅配員が立っていた。
 ふむ、意外に早いんだなぁ〜と思いながら、支払いを済まして、ピザを受け取り。

 悠が待つ居間に戻ると、そこには待ち侘びたと言わんばかりに目をキラキラと輝かせて、こちらの行動を一挙一動見逃さぬように目で追ってくる彼女の姿があった。
 まるで、尻尾を振ってエサ待ちをする犬のような様相である……。

 ——全く、食い意地を張ったお姫さまだな。

 そんなに見つめなくてもピザは逃げやしないし、僕が一人占めする訳がないだろ。
 少し呆れながらもゆっくりと焦らすようにピザをテーブルに置くと、瞬時に悠が我慢できずに手を伸ばしたもんだから、僕は咄嗟に容器ごとピザを持ち上げてやった。

 「……瑞希ちゃんのイジわるぅ」
 「何とでも言え。まぁ〜その前にやる事があるだろ?」

 この投げかけに悠は知恵を振り絞っているのか、眉間にしわを寄せ、視線を彷徨わせながら考え込み。しばらくして何か浮かんだのか、清々しい表情を浮かべた。

 「はい! 飲み物の用意!」

 挙手をしながら元気よくそんな事を言い出した悠に僕は思わず額を押えてしまう。

 「それも正解だが……まず、手を洗って来なさい」
 「は〜い」

 不貞腐れながらもしっかりと返事をし、隣の台所に手を洗いに行く彼女を見送りながらピザをテーブルに戻して、僕も手を洗いに台所へ赴く。

 その際に僕は冷蔵庫から適当に飲み物を手に取り、悠が食器棚からグラスを人数分手に取って先に居間に戻る。
 彼女の後を追うように飲み物を片手に居間へ戻り、定位置になりつつある場所に僕はゆっくりとした物腰で腰を下ろす。

 各々、グラスを手に取り。僕が適当に見繕った飲み物を入れて、ようやく食べる準備が整った。
 僕はそこですかさず毒味と言わんばかりに彼女の隙を狙ってピザに手を伸ばす。
 と、それに気付いた悠が頬を膨らませてこちらを睨んで来た。

 「メッ! だよ、瑞希ちゃん」
 「良いだろ。別に……」
 「ほら、食べる前にする事があるでしょ?」

 そう言うと、悠はゆっくりと両手を前に出して合掌をする。
 彼女の行動に僕は頭を掻きながらも手を合わして、食べる前の儀式——と言うよりは挨拶をする態勢に入る。

 「いただきま〜す!」
 「……いただきま〜す」

 挨拶を済ませた僕たちはよっぽどお腹が減っていたのか、無心でむさぼりつくようにピザを食べ始めた。
 互いにトマトソースで口周りを汚しながらも気にする事無くピザをむさぼり続ける。

 しかし、いつ振りだろうか。こうして誰かと夕食を食べるのは……。

 いつもなら家路の途中にあったスーパーで食材やらを購入し、自炊して一人で食べている所。けれど、こうして二人で「いただきます」の挨拶をして、夕食を食べるのは何だか新鮮な気分だ。

 「——おいしいかぁ?」

 美味しそうにピザを食べる悠に唐突にそんな事を投げかけてみた。
 家族団らん、和気藹々としたあの雰囲気の中ではこういう他愛もない掛け合いをしたりするんだろ?
 確か……。

 「うん! Margherita Pizza美味しいよ」
 「ゴホっ!」

 彼女の返答に僕は堪らずむせてしまった。
 急いでテーブルに置いてあるティッシュペーパーを二、三枚手に取って少し飛散した残骸を回収する。
 それにしても無駄に発音が良い……。
 突然、むせた僕を不思議そうに見つめながらもしっかりと次のピザを手に納めて口に運ぶ悠の姿に僕は少し頬が緩んでしまう。

 「——そうかい」

 鼻で笑いながら、僕もピザを手に取って口に運ぶ。

 うん、美味しい……。

 たまにはこうして誰かと夕食を共にするのも悪くないのかも知れないな。唯一食べる相手がいるとすれば、姉さんだが——姉さんは仕事で帰りが遅くなる事が多いため、自ずと食べる時間がずれてしまう。
 しかし、たまにある休日には姉さんの取り決めで、二人で外食をする事が決定事項であり如何なる理由があろうと強制参加である。

 別に美味しい物がタダで食べられるなら何でもいいけどな。
 それに僕の家事労働がその分、少なくなるから悪い事でもなかろう……。

 「ねぇ〜。瑞希ちゃんは呼ぶ時、ピザ派? それとも、ピッツァ派?」
 「何だよ。突然」
 「単なる興味本位だよ〜」
 「そうか……。ふむ、僕はピザ派かな? 『ピッツァ』って呼び方は何だか気取っているような気がして少し気が引ける。それに店によって『ピザ』と表記している所もあれば。『ピッツァ』って表記している所があるだろ? だから、どっちでも良いんじゃないか? まぁ〜大概『ピッツァ』って表記している所は少し高級感がある店か隠れ家的な感じ——所謂『通』が通う店に多いよな〜」

 「へぇ〜」

 僕に変な質問を投げかけといて当の本人はピザを食べながら空返事しか寄こさない……。

 「へぇ〜って、そういう悠はどっちなんだ?」
 「ん〜どっちでも良いかな? だって、呼び方が違うだけでどっちも基本一緒だもん。それに美味しければそれで良いと思う」
 「……まぁ〜そうなんだろうけど、な」

 本質的にはそれが一番理にかなっているとは思う。

 ——美味しければそれでいい。

 だけど、作り手としては少し味気ないような気がするな。
 まっ、腹に入ればどれも同じと言われるよりは幾分かマシか……。
 しかし、急にクールな感じの事を話すな……。
 やはり、そこまでキャラ設定が定まっていないのか?

 「あれだよね。何を勘違いしてか近年のつけめんブームもただただお客さんがつけめんの方がラーメンより食べやすいから注文しているだけだよね、所詮は」
 「そ、そんな事ありません! お客さんはその時、たまたまラーメンよりつけめんが食べたかっただけだ!」

 変な汗がドッと出た。

 この子、何!?
 急に毒舌をぶっ込んで来た!
 お兄さん焦っちゃったよ……。まぁ〜地が地だから、毒舌ぐらい出て当然か?

 ふむ、それはそうと……ピザが残り最後の一ピースとなった訳だが——お互いに譲らず、と言った所だな……。
 僕と悠は互いに残りの一ピースから目を逸らさずに熱い視線を送る。
 目を逸らそうならそれは試合放棄とみなされて負けが決まってしまう。

 つまり、最後の一ピースの権限が相手に渡ってしまうって事だ。
 だが、僕はこんなくだらない争いを大人の権限を行使して終止符を打とうと思う。

 ——だって、争いからは何も生まれない、だろ?

 「……それ以上、食ったら。太るぞ〜」
 「……良いもん、別に……。それよりも瑞希ちゃんはお兄ちゃん何だから我慢するのが妥当だと思うよ」
 「……僕は悠の実兄ではない。だから、その詠唱は無効だ。よって、このトライフォースは僕が貰い受ける」
 「ずるいよ〜」
 「はっはっは、これが大人のルールと言う物だ。悔しがるがいいさ。その悔しがる様を肴に僕が最後のトライフォースを美味しくいただくとするよ」

 悠が指をくわえて悔しがる様を肴にして、僕はこれ見よがしにピザをゆっくりと堪能しながら否が応でもある事に気付いてしまう。

 ——妹口調になった同級生と何をやっとるんだ、僕は……。

 自分の愚かさに気付かされた所で自ずと手に取った最後のピザの味が心なしか、ほろ苦いモノになってしまっており。
 そんな僕にさらなる仕打ちと言わんばかりに玄関の方から、

 【ガチャガチャ】

 と、物音が聞こえ、悠は何事かと小首を傾げた。
 が、この家の住民である僕はグラスを手にしたままフリーズしてしまう。
 それは言うまでも無く、先ほどの物音は残念な姉がご帰還なされた合図なのだから……。