コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- (1)第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の四 ( No.26 )
- 日時: 2012/06/29 21:31
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/16/
——翌日。
なぜかいつも起きる時間より早く目が覚めてしまい。布団に包まれたまましばらくボーっとしていると、どこからともなく「ガサゴソ」と物音が聞こえた。
もう、誰か起きているのだろうか?
そう思った僕は少し気だるそうに上体を起こして、布団から出てみたら思ったより肌寒く身震いしてしまう。
やべ、出たくない……。
息を吐くと少し白い息が出てびっくりしたが、布団から出ない訳には行かないので少し気合を入れ、一気に布団から飛び出ると、敷布団を綺麗に畳んで、物音がする方へ足を運ぶ。
足を進めるごとに「トントントン」と鮮明になって来た物音に少し不安を抱きながらも一歩ずつ進んで行くと、謎の物音はどうやら台所の方から発しているようで。
僕は台所に向かいこっそり覗き込んで見ると——そこにはきちっと着こなした黒のスーツの上にエプロンを身に付け、長髪が邪魔にならないようシュシュで髪留めした姉さんの姿があった。
「おはよう、姉さん」
「あら? ずいぶんと早いお目覚めなのね。もしかして、興奮して眠れなかった?」
「……何に興奮するんだよ」
「ほら、そこは姉の淫らな妄想をしてとかあるでしょ?」
そう言いながら作業を中断して、こちらに振り向いた姉さんは徐にスーツの中に来ている白いブラウスのボタンを一つ、二つ外して前屈みになり。見せつかせなくても十分衣服越しからでも分かる小玉西瓜を強調させながら、恍惚な笑みを浮かべ。艶やかな唇に小指を当てて僕の事を誘惑するように見据えた。
「ねぇ〜よ!」
僕は声を荒上げながらも即答で否定する。
なぜに実姉に欲情せにゃならんのだ。
それにそんなポーズされても見慣れてしまっているから何も思わん。
「……グスン、酷いわ。私なんてキー君の事を思って毎夜毎夜枕を濡らしていると言うのに……」
僕の悪態(?)に突然、嘘泣きだろうけど涙を拭く仕草を取りだした姉さんは乙女の涙で僕の事を泣き落そうと試みるが——当然の事ながら僕には通じない。
全く、何年姉弟やっていると思ってるんだ……。
「……誤解を招く事を言わんでくれ……」
「そうね、キー君の言う通りだわ。そこは『枕』じゃなくて『シーツ』だったわね。私のうっかりさん!」
テヘ、と少し舌を出しながら軽く頭を小突いて、一昔のブリっ子のような仕草をする残念な我が姉……。
「……いや、ホント土下座でも何でもしますからこれ以上しゃべらないでください!」
僕は半泣き状態で姉さんに訴えかける。
だって、そうだろ?
これ以上、馬鹿なやり取り続けていると僕の身が持たない。
「冗談はさておき——そろそろあの子を起こしに行ってあげなさい。もう、朝食が出来るわよ」
「りょうか〜い」
姉さんとの馬鹿なやり取りを終えて、僕は姉さんの言いつけ通り。
僕の自室でまだ眠っているであろう悠を起こしに二階へ足を運ぶ。
扉の前に「ミズキのへや」と彫られた木彫りのネームプレートが掛けられた部屋の前で僕は一旦立ち止まった。
この部屋の向かいに姉さんの部屋があり、僕の部屋の様に「ミズカのへや」と彫られた木彫りのネームプレートが掛けられている。
コンコン、と一応扉をノックして、中から返事があったので部屋に入る僕。
「悠(ゆう)。もう、起きて——ヘブシっ!」
突然、顔に枕を投げられてしまい、僕は思わず昔懐かしリアクション言葉を発してしまう。
なぜに枕をぶつけられなきゃならんのだ。
よくあるお着換え中にうっかり部屋に入ってしまった訳でもないし……。
そう、悠はもうとっくに制服に着替え終わっており、僕のベットの上で腰を掛けてのんびりと座っていたのだ。
それなのにだ……枕を顔に投げられてしまった。
悠は身体を小刻みに震わせながらこちらを凍りつくような鋭い目つきで睨む。
ああ、何か懐かしい視線だな……。
「——ホント、アナタって人は人の名前すら覚えられないの? こんなありふれた名前を間違えるなんてドット未満だわ。もう、無よ。無。今までドットと言う名の地位に甘んじていた事が奇跡だわ。ねぇ〜他のドットたちに失礼だと思わないの? 謝りなさいな。その汚らしい額を床に擦りつけて、その摩擦熱でこの家が全焼するまで謝り続けなさい」
開口一番に流暢な毒舌オンパレードで僕の存在そのものを否定されてしまった……。
僕に毒を吐いてすっきりしたのか、どこか清々しい顔を浮かべる悠。
——ん? ちょっと待て。今し方、名前を間違えるなんてって言わなかったか?
どういう事だ?
僕の目の前にいるこの少女は時雨悠(しぐれゆう)じゃなく——時雨悠(しぐれはるか)って事か?
それはつまり、今現在あの変な妹口調のキャラを演じていないって事、か……?
全く、分かりづらいな。でも、この方が彼女らしいか……。
ホント、ここまでキャラを使い分け出来るなんて将来名女優になれるような気がするよ。
「まぁ〜いいわ。で、何の用?」
「ああ、姉さんが朝食出来るから来いってさ」
「——そう。なら行きましょうか」
ゆっくりとした物腰で立ち上がり「スタスタ」と歩き出した彼女の姿をまじまじ見ていると鋭い目つきで睨まれてしまい、僕は思わず顔を強張らせてしまう。
ふむ、本当に元に戻っているようだ。
僕たちは姉さんが朝食の準備をしてくれているであろう居間に二人揃って出向く。
しかし、テーブルにはサラダしか並べられておらず、僕は悠(はるか)を居間に座らせると姉さんの手伝いに隣の台所へ向かう。
「姉さん。手伝おうか?」
「ありがとう。そうね……それ運んでくれる?」
「了解」
ハムエッグでも焼いているのだろうかフライパンを睨みながらトースターがある方を指さした姉さんに対して、何を言わんとしていたのか理解した僕は食器棚からトースト用の皿を人数分取り出す。
「あっ、姉さん。一つ、伝えなきゃならない事がある」
トーストを取り分けながら僕は思い出したかのように口ずさんだ。
——いや、これを伝えるために台所に再び出向いたと言っても過言じゃないな。
「プロポーズならロマンティックな場所が良かったけど……この際、台所でも良いわよ。気持ちが大切だものね」
そう言いながらハムエッグが出来上がったのか、フライ返しを手に取って、予め用意していたお皿にハムエッグを盛り付けた。しかも、豪勢に卵二個使用の星人バージョンである。
「違うわい。アイツの事なんだけど……」
「アイツ? ああ、悠(ゆう)ちゃんの事ね」
再び、ハムエッグ作りに取りかかった姉さんは油をひいて熱していたフライパンにハム、卵の順に投入して焼き始める。
「今のアイツは『ユウ』じゃなくて『ハルカ』なんだ。だから、呼ぶ時は悠(はるか)で頼む。それと口調も昨日とは全然違うから」
「……ふむ、乙女には色々秘密があると言った所ね。分かったわ」
フライパンを睨みながら特に追及する事無く了承してくれた姉さんは、少量の水をフライパンに注ぎ入れて「ジュ〜」と言う音と共に手際よく蓋をして蒸し焼き状態にした。
「じゃ〜宜しく頼む」
そう言い残して僕はトーストを盛り付けた皿を居間に運んでテーブルに並べていると、悠が少し照れた様子で「手伝おうか?」と申し出てくれたが、客人なので丁重にお断りした。
断った際に彼女が少しムスっとした表情を浮かべていたのは何だか印象的で、少し打ち解けたのかなって勘違いしそうにもなった。