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(2)第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の四 ( No.27 )
日時: 2012/06/29 21:33
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/16/

 しばらく姉さんの手伝いをして、やっとこさ全ての行程を終え。
 居間のテーブルに並べられた朝食を前に各々好きな場所に座る。
 僕はテレビを正面に向える特等席、その右隣りには客人である悠で姉さんは悠の向かい側に座った。

 「えっと……こういう時は、アレよね?」

 姉さんがキャラに似合わず少しドギマギしながら言葉を発し、それに僕たちは小さく頷く。
 そして、僕たちは前に両手を出して合掌すると、

 『——いただきます』

 その挨拶と共に各々好きな物から手を付け始めた。

 「そう言えば、姉さん。今日は結構のんびりしてるけど、仕事は大丈夫なのか?」

 「……折角の食事時に嫌な事を言わないでよ……」

 バツが悪そうな表情を浮かべながら姉さんはそう苦言を呈し、サラダを口に運ぶ。
 隣を見ると黙々と朝食に手を付けている悠が居て少しホッとする。

 口に合わなかったらどうしようかとひやひやしていたが、良かった……。
 まぁ〜そんなに手の込んだ物は並んでいないし、朝食では定番メニューだから口に合わない奴は少ないか。朝食は和食派の人も居るみたいだけど……もしかして、遠慮して合わしてくれているのかな?

 ふむ、表情に出さないから分からん……。

 「……ふぁに?」

 僕が悠の事をまじまじ見つめていると、それに気付いたのか、トーストをくわえながら軽く睨んできた。
 僕はその姿に思わず、クスリと笑ってしまった。
 無表情クールっ子がまさかトーストをくわえている事を忘れて頑張って言葉を発したんだ。
 結局、何を言っているのかあまり聞き取れなかったし、これを笑わずにいられないよ。

 「……何、笑ってるのよ」

 今度はトーストをしっかり口から離して僕の事をさらに鋭い目つきで睨んで来たが、今の僕にはそれは通じない。

 「いやいや、何でもないよ。ククク……」

 「——何々、二人して。お姉さんに内緒で何か楽しい事でもあったのかしら?」

 僕たちの他愛もないやり取りに姉さんが食い付き、しばらくの間この朝食会は和やかな雰囲気に包まれた……。
 朝も朝で、出勤時間が早い姉さんとこうして話ながら朝食を食べる事が少ないから、ホント……昨夜の夕食と同じで何だか新鮮だった……。

 しばらくして、出勤時間が迫った姉さんが慌てて朝食を流し込むように平らげ、僕たちは姉さんを見送りに玄関まで一緒に足を運ぶ事に。


 「——仕事やぁ〜だぁ〜! キ〜く〜ん! どうにかして仕事を休めるように上に掛け合ってよ〜!」

 玄関先でグータラスキルが発動した姉さんは客人の前で駄々をこね始め、僕に泣きついて来る。
 僕は頭を掻きながらも毎度の事で手慣れたように姉さんにヒールを履かせ、玄関の扉を開けると——姉さんを強引に外へ突き出す。

 外に突き出された姉さんは少しよろけたが、すぐに姿勢を正して少し乱れた身嗜みをきっちり整え、髪留めで使用していたシュシュを手首にはめ直し。長髪をなびかせながらこちらを振り向いた姉さんの雰囲気はキリッとした凛々しいモノへと様変わりしていた。


 「——それじゃ、行って来るわね。瑞希、後は宜しく。悠ちゃんもまたね」

 優しく微笑みながらそう言い残して姉さんは何事もなかったように出勤して行く。
 その一瞬の変わりように悠は呆気にとられているように見受けられた……。

 「……アナタのお姉さんって……」
 「……この家で起こった事は全て忘れてくれ。特にアレの存在を重点的にお願いします」
 「……努力はしてみるけれど、たぶん無理だと思うわ……」
 「……そうですか」

 表情には出ていなかったが、アレを見て明らか引いた様子の悠に少し申し訳なく思う。
 姉さんの見送りを終えて、居間に戻った僕たちは残っていた朝食を無言のままゆっくりと平らげ、悠が「洗い物ぐらいはさせなさい」と軽く睨みながら申し出て、断る事も出来ずそのままやらせる事に。

 だが、少し心配になった僕は遠目から彼女が洗う様子を窺っていると、気配を感じ取ったのか鋭い目つきで睨まれてしまい、あえなく退散する羽目になる。

 ——ふむ、心配だなぁ〜。

 僕は居間で胡坐をかきながらも少し貧乏揺すりのような動作を取る。ちょっとした物音がする度に隣の台所の方へ視線を向けたりと、本当に落ち着きがなかった……。

 しばらくして、流水の音が聞こえなくなり台所の方へ視線を向けていると、居間に入って来た悠と目が合い、冷たい視線で軽くあしらわれてしまう。

 「……全く、洗い物ぐらい出来るわよ」

 座り際に僕に苦言を呈して来た悠は少しご立腹の様子だった。
 これに関しては明らかに僕が悪いから反省しないと……。反省、反省と軽く頭を小突いた僕はテレビの上に掛けられた壁掛け時計に目をやった。
 時刻は午前七時三十分を回ろうかとしていた。

 ふむ、そろそろ出る頃かな?
 少し早いかも知れないが余裕を持って行ってもバチは当たらないだろ。

 「——そろそろ、行こうか。悠」
 「……何、気安く名前で呼んでいるのよ」

 名前で呼んだ事が気に食わなかったのか、凄い剣幕で睨まれてしまった。
 はて、これはどういう事なんだろうな。名前で呼ぶのは、あの妹口調キャラ限定って事なのだろうか?
 結局、彼女の呼び方が定まらないまま、僕たちは学校に向かった……。