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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 向日葵の破片。 ‐Himawari No Kakera。‐ ( No.108 )
- 日時: 2012/11/18 11:37
- 名前: 透子 (ID: VEcYwvKo)
第六話Ⅷ*ライバルは突然に
「お前……い,壱知か……?」
居てはいけない人物————壱知は軽く頷いた。
「京。始めに言っておくが,俺は死んでないからな! 眠っている間に,霊になってしまったんだ……」
「……」
京が目を伏せる。
壱知も口を閉じた。
重い沈黙を破ったのは,かすれた壱知の声だった。
「本当は,お前に心配かけたくないから,霊になった事,隠そうと思った」
黙りこくる京に,壱知の言葉は降りかかる。
「……俺,美湖ちゃんと居たから」
京の顔が上がり,その目は見開かれた。
「……やっぱり,来てたんだ」
壱知は頷く。
「言わなくても,美湖ちゃんがどんな反応したか分かるだろうけど……いいのか」
壱知は京の目を見た。
京が好きだった透明な壱知の目が,今は怖い。
壱知に見つめられ,京は壱知の肩くらいまで視線をそらした。
「……良い訳,ないだろ」
息を漏らすだけの声を出し,京はそのまま真っすぐ歩き始めた。
「あのな,」
歩き続ける京に壱知が言う。
「俺なら美湖ちゃんを救える。幸せにできる。……お前はどうだ。何なら,美湖ちゃんを俺に預けてもいいぜ」
フッという壱知の笑い声が聞こえた。
京は振り返り,壱知を睨んで,低く問う。
「どういう意味?」
「そのままさ。美湖ちゃんを今の苦しみから救えるのは俺だから」
「苦しみ……?」
京が髪を揺らすと,壱知は呆れた,とつぶやいて軽く息をはいた。
「ほんと,なーんにも分かってねーのな。美湖ちゃんの苦しみは……自分が霊であること。言い換えると,大好きなお前に触れられないことだ」
「……っ」
見えない何かに押されたように,京はよろめいた。
そのまま方向転換をして,出口に向かう。
壱知はそんな京を見ながら,なにも言わずに立っていた。
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