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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 向日葵の破片。 ‐Himawari No Kakera。‐ ( No.137 )
- 日時: 2012/10/14 13:10
- 名前: 透子 (ID: VEcYwvKo)
第七話Ⅳ*君に
侑は必死だった。
美湖は,その深い漆黒の瞳に誘われるかのように,自然に頷いた。
屋上を駆け抜ける風が何秒かの沈黙を運んだ後,侑の表情は次第に明るくなっていった。
「ありがとっ! また明日ね!」
何も取り決めずに,侑は軽いステップを踏みながら,屋上を後にした。
「……何できょんちに言わないんだろ……」
一人残された美湖は思わず口から声を漏らした。
「京はあんな仏頂面してっから,頼みにくいんだよ」
振り返ると壱知が居た。
「あー,納得————」
美湖が苦笑する。
「————って,聞いてたの? そういう登場ばかり……趣味悪い……」
「悪かったな」
呆れる美湖に,壱知はフンと膨れて見せたが,またすぐに,いつもの笑顔に戻った。
しばらく屋上の時間は自然の風に任された。
思い出したかのように,美湖が言う。
「何で,壱知君だけ見えないんだろうね?」
「……京と同じ理由で,心配かけたくないし……それから……」
壱知は言いかけた言葉を飲み込んで,顔を背けた。
珍しく,笑顔ではないようだった。
「侑……って可愛いね」
「……」
「まだ眠りから覚めないなら,気持ち伝えたがいいよ」
壱知は美湖の言葉を静かに聞いていた。
そして,吹き渡る風にまぎれそうな声で,分かってるよ,と呟いた。
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