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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 向日葵の破片。 ‐Himawari No Kakera。‐ ( No.150 )
- 日時: 2012/10/20 17:58
- 名前: 透子 (ID: VEcYwvKo)
第七話Ⅵ*君に
「……美湖!」
階段を駆け上がってきたのか、侑は息を切らしていた。
肩で荒々しく息をしながら、「いっちゃんは?」と聞いた。
必死な侑に美湖は微笑み、頷く。
壱知の存在が分かった瞬間に、侑の表情は固まり、息をするのも忘れているようだった。
「いっちゃん……」
侑の瞳が揺れる。
見えない壱知を探し求め、さまよう。
「久しぶりだな、侑」
美湖の背後から壱知が言う。
美湖が思わず振り返ると、偉そうにフェンスに寄りかかった壱知が居た。
その笑顔は、秋の陽だまりに溶けてしまいそうだ。
驚いた顔をした美湖に、壱知は通訳を促した。
「あ、えっと……久しぶりだな、侑……って」
侑の方を見ると、今にも目から雫がこぼれ落ちそうだった。
「いっちゃん、いつ目、覚ますの?」
「……そのうち」
侑の口の端が微かに動いた。
「相変わらず曖昧」
少し風が出てきた屋上に、侑の声が優しく響いた。
「まだ、痛む?」
「……痛みなんか、ね、ねえよ。痛みを感じたのは、少しだけ、だ」
美湖はほっと息をはく。
慣れない口調にうまく舌が回らない。
「……そう」
侑の声で会話は途切れた。
時間だけが流れていく。
壱知も侑も、目線を下げて何か考えているような仕草をとった。
いきなりぱっと侑が顔をあげ、美湖を見据える。
その目には、溢れる寸前の涙が溜まっていた。
「いっちゃん、ごめんね。わた……私が、いっちゃんを……」
くっと言葉を飲み込む。
侑が目を瞑った瞬間に、涙は輝く様子も見せずに流れ落ちていく。
「いっちゃんを……眠らせてしまったの……」
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