コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 向日葵の破片。 ‐Himawari No Kakera。‐ ( No.157 )
- 日時: 2012/11/17 19:08
- 名前: 透子 (ID: VEcYwvKo)
第七話Ⅷ*君に
キイーッ……キイーッ……
古くさびたような金属音が鳴る。
子供用のブランコは侑には小さすぎた。
それでも、自分をなだめるように上体を揺らすのを止めることができなかった。
ゆっくりと目を閉じ、壱知の姿を描く。
日々暴行に悩む侑を壱ちは励まし続けた。
何度もその笑顔に救われた。
壱知のおかげで生きてこれた、と言っても過言ではなかった。
「いっちゃん……」
そのまま、夢を見た。
壱知の笑顔。温かい家庭。ありふれた日常が、侑とは程遠かった。
……しかし。
いきなり漂ってきた煙草のにおい。
気が付くと壱知は、酒にまみれ、煙草を手にしていた。
「……あぁっ……」
思わず両手で目をふさぐ。
と、同時に今まで見ていたものを夢だと認識した。
よかった、と胸をなでおろしたのもつかの間、煙草のにおいは現実の世界をも占領していた。
「君、風邪ひいちゃうよ?」
周りには成人していそうな3人の男が居た。
そのうちの一人が、例の悪臭を放つものを持っている。
「そうだなー、お兄さんたち今まで君を見ていたからなー。お礼もらわなきゃ」
そう言って、体格のいい男が侑の肩に手を回し、顔を寄せる。
気持ち悪かった。
「……持ってません」
「じゃあ、強制連行か、連れ呼ぶかだな。君、連れは?」
煙草を持った男が聞いた。
「連れ……」
「男だよ」
ふと壱知の顔が浮かんだ。
と同時に、一瞬ゆがんだ思いをかき消した。
いっちゃんを巻き込むのだけは、絶対————。
「いません」
「そうかー、じゃあいっぱい着信入っている心配性の『いっちゃん』にかけようかな」
奇妙な笑い声のする方を見ると、キャップを深くかぶった男が侑の携帯を見ていた。
「返してっ……!」
力ずくで奪い取る。
男は、侑を探して何度も電話しているいっちゃんに目をつけた。
キャップの男を睨みつけると、ふいに口を手で塞がれた。
酒臭い顔が侑に近づく。
「……おい、もっと柔らかにいこうよ」
震える侑から携帯を奪い取り、男は着信音を鳴らし、侑の耳に押し当てた。
コールは2回もしないうちに鳴りやむ。
「……おい、侑か!? 今どこに居るんだ! 俺、今駅に居————」
「いっちゃん」
壱知の息遣いが止んだ。
侑の声の震えに気が付いたのか、静かに繰り返す。
「どこだ」
「……公園っ……」
それだけで電話は切れた。