コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 向日葵の破片。 ‐Himawari No Kakera。‐ ( No.162 )
日時: 2012/11/18 12:20
名前: 透子 (ID: VEcYwvKo)


第八話Ⅰ*愛する人へ


「壱知……メリークリスマス」

侑の声が病室に響く。
愛する人の前髪をそっとさわり,静かにほほ笑んだ。

「今年は,絶対初詣行こうね」

窓の外は一面の雪。
ホワイトクリスマスだった。






「……雪」

美湖は空を見上げた。
京の口から白い息が漏れる。

「……寒ぃ」

京は眠たそうに目を細めている。
完全防寒しているにも関わらず,ポケットに手を入れ,背中を丸めていた。


「目ぇ閉じたら歩けないよ」

美湖が笑う。

「親父のせいだ。歳だからって俺らにお使いなんて」
「あぁ,芳貴さんね」
「何で親父の名前知ってんの」
「前から知ってますよーだ。でも,明苑寺さんの方がしっくりくるから,そう呼んでるだけ」

京はふーんと相槌を打った。


「ホワイトクリスマスだね」

美湖が再び雪に目を戻す。
京も美湖の目線を追った。

「好きか? こういうの」
「まーね」
「似合わねえ」

京が喉でくっくっと笑う。
反論しても意味がないと,あきらめた美湖は少し舌を出してみた。
美湖を向いた京が意外にもやさしくほほ笑む。

「っ……!」

思わず言葉を詰まらせた美湖に,京は気付かないようだった。
何の余韻も残さず,見えかけた家にむかって歩く。

神社の敷地内に入った時だった。

人が居た。
その人は,顔なじみの八百屋さんでもお隣の栄さんでもなく,存在自体に違和感を覚える人だった。

黒をベースとしたニットをかぶり,何かするわけでもなく,ただその場に立っている。
京の足音に気付いたのか,その人物はゆっくりと振り向いた。


美湖の足がすくむ。
そのまま崩れ落ちてしまいそうだった。


「洋平……」