コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 世界誕生から5日後 1 ( No.10 )
- 日時: 2012/08/03 18:50
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: WcizgKjn)
「……はあ」
やけに重い溜め息。『ぐったり』という表現がやたらと似合う表情の青年は、ふとじりじりと己の体を照らす太陽を細目で眺めた。
180cm以上はあると思われる身長とどんな刃でもはねかえしそうな強靭な肉体から威圧感を感じさせられるが、まるで澄んだ小川のように透き通った水色の髪と、人懐っこそうな柔らかな顔立ちは、すぐに彼の威圧感は和らいでしまう、そんな不思議な魅力があった。
そんな彼の正体は、『最強』とまで呼ばれる万能を司る精霊であり、世界『ディヴェルティメント』を彼の親友と造り上げた、世界の創造主であった。
その名も『パラケルスス』。圧倒的な存在感を放つ彼は今、あることと格闘していた。
「あ——、まさかこんなに世界創造がかったるいとはなぁ」
まず、何故彼が世界創造を行ったのかについて説明しよう。
彼は元々神が統治する世界の住民であった。彼は万能を司る精霊のため、位は高い方であったが、神ほどではなかった。
ある日、彼の親友である魔族の青年が、『どんな種族も平等に暮らせるような世界を創りたい』と彼に夢を語り、それをパラケルススは快く受け入れ、二人で協力して世界を創造したのである。
勿論、そう簡単にホイホイと創れるものではない。二人には魔力が多く、それ故に創りだせたのである。
「うー、ここはこうして、あーでもアレか、そうすると生物が生き延びられる環境にはならないか……。だーっ! めんどくせぇ!」
パラケルススはそう叫んで地面に突っ伏した。
彼の目の前には青色がかった半透明の四角……なにか数字や独特の言語が書かれているものが浮かび上がっていた。
それこそが、パラケルススが格闘していたものであり、『世界の細かな数値を操る』画面である。
元々、パラケルススは豪快で大雑把な性格のために、こういう作業はあまり向かない。しかし、彼の親友は他の作業に追われていて、パラケルススの手伝いなどできる状況ではなかった。
「まあ、大体は完成したからいいけどよ、まだ大事なものがたりないんだよなぁ」
パラケルススはぐへーっとわざとらしく溜め息を吐き出す。
「なんつーか、土台はできたけど、肝心の中身がないんだよなぁ」
そう言った直後、パラケルススは荒れた地面しかない景色をビシッと指差して言った。
「まず、水が無い!」
「——うえーと、聖水は撒いたし、魔方陣は書いたし、準備はOKだな。うっし、やるか!」
パラケルススはそう言うと、ふうっと深呼吸をして両手を空へと上げた。
すると、彼の周りに様々な色の光の球のようなものが次々と浮かび上がった。パラケルススは数ある球の中から、淡い青色に輝く球を手に取り、ふうっと息を吹きかけた。すると、球はやがて水の塊へと変化し、ぽちゃりと地面へと落ちる。そうして、それは大地全体へと行きわたり——、
————頼む、成功してくれ!
パラケルススはそう祈りながら、呪文を詠唱し始める。
「———生命(いのち)の恵みたる潤いよ、今ここに聖なる祝福を!」
そう叫ぶと、大きな地響きがしばらく続き、そうして。
「うおっ、水が! ……って」
喜んだのもつかの間、湧き出た水はほんの少量だった。
「……やっぱり駄目か。万能の精霊っつっても、大規模な事はやっぱりその専門家しか使えねーからなぁ」
頭をぼりぼり掻きながら、目の前の結果にうんざりするパラケルスス。
「やっぱり、あいつにヘコヘコお願いするしかないのかねえ……とほほ」
◆
「相変わらず馬鹿みたいにでかいうえに綺麗だな、此処は」
パラケルススは半ば呆れながらその場所を訪れていた。
そこは海の底にある、神社のような外観の神殿であった。煌びやかな装飾は、まるで絵画の世界に入ったような気になる程の美しさであった。
「失礼しまーっす。パラケルスス様でぇーっす」
と適当に挨拶してズカズカと入っていくと、数人の使用人の精霊(全員女)が慌てて駆けつけてきた。
「あの、パラケルスス様。いくらパラケルスス様とは言っても、事前に連絡していただかないと——」
「大丈夫だ、問題ない」
「いや、問題しかありませんよ」
などと暫く揉めていると、遠くから段々足音が聞こえてきた。
「根拠はないけど多分大丈夫だろう。アイツだし」
「ですから————」
「あー、ったく、何でお前がんなとこに来てんだよ」
「「「!!」」」
透き通った硝子玉のような声が屋敷中に響くと、途端に使用人たちが黙った。
「ウンディーネ様! どうして此処に!」
使用人の一人がそう叫ぶ。現れたのは、ウンディーネと呼ばれた美しい女性であった。
「そりゃうぜえのが来たからに決まってんだろ。なんだ、俺なんかに用があんのか」
「そりゃあ、用がなけりゃお前の所になんかこねーよ」
そうパラケルススがへらへら言い返すと、ウンディーネはキッと睨みつけてから、使用人の方を向いた。
「茶室に案内してやれ。一応俺よりも立場は上だからな」
「「「かしこまりました」」」
使用人たちは声をそろえて言った後、先ほどの対応とはうって変わって、やたらと丁重に案内していった。