コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

世界誕生から一週間後 2 ( No.36 )
日時: 2012/08/06 10:52
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: WcizgKjn)

「よし、これで完璧だな」
サラマンダーは尻尾をふいと揺らしてそう言う。
しかし、そう言っておきながら、準備する前から一歩も動いていない。
「え、ぼーっとつっ立ってただけなのにか?」
思わずパラケルススはそう尋ねてしまう。しかし、ウンディーネはニヤリと笑っているだけだった。
「そんなに疑うぐらいなら、証拠でも見せてやろうか」
サラマンダーはそうさらりと言う。その時に、パラケルススは『準備』の意味に気づいた。
「……成程。お前の準備は『体内温度を上げる』って事なんだな。さっきからお前の周りに陽炎が見えたり、炎の力がひしひしとオレに伝わってきていたのもそのせいか」
「そういう事だ。————さて、早く片付けてしまおう」
サラマンダーはふうっと息を吐き出す。その息は灼熱の炎そのもので、一気に周りの温度が上昇する。
「っと、そういや忘れてたな」
ウンディーネは自分の周りに水のバリアを張る。
「これで暑さも安心だ「なんでオレもいれてくんねーんだよ殺す気か!?」
「大丈夫だ、精霊には暑さとか関係ない」
「そうだけど!! 分かってるけどなんとなく暑さがさ!!」
「そんぐらいの力だったらお前でもできるだろ」
「……あ、そっか」
パラケルススは自分の周りにバリアを張る。一瞬、サラマンダーが呆れ顔でこちらを見たような気がするが、恐らく気のせいだろう。パラケルススはそう思う事にした。
二人が漫才している間に灼熱の炎で描いた魔法陣が完成していた。サラマンダーは中央に立ち、そうして呪文を詠唱し始める。
「闇を照らし、魂を燃やし、世界に輝きをもたらす灼熱よ、」
サラマンダーの周りに一気に炎が噴き出す。
その炎は赤でも青でもなく、鈍色に輝いていた。ゆらゆらと揺れる様は、まるで生き物のようであった。
「ありゃーさっちゃんの武器か。確か『ヘーパイストス』っつー名前だっけ」
「すげー魔力だ。武器が炎そのものでも成立する理由がよくわかるぜ」
二人は目の前の光景に素直に関心していた。
「純粋なる穢れなき力で、」
火の玉が世界中へ散らばるように飛んでいく。火の粉は吹き荒れ、まるで火山が噴火するかのようであった。

「————世界に恵みの力を与えよ!!」

そう叫んだ瞬間、ただの火の塊であったヘーパイストスが、火竜の姿に変化した。
地全体に響きわたるほどの叫び声をあげた後、物凄いスピードで世界全体をぐるぐると飛んでいく。
最終的に、サラマンダーの元へ飛び込み、竜は炎の塊となって、サラマンダーの体内に溶け込んでいった。
「……相変わらずダイナミックだなぁ」
ウンディーネはそう呟いた。


「これで、この世界に炎の力が宿った。まあ、魂だけでは意味が無い。後で『生命の精霊』でも呼ぶがいい」
サラマンダーはパラケルススにそう言った。
「おう、そうさせてもらうよ。今日はありがとうな」
「礼はいらん。久々に力が思い切り使えて楽しかったぐらいだよ」
サラマンダーはそう言ってほほ笑んだ。
「しかし、ここは良いな。『どんな種族でも平等に暮らせる世界』なんてな」
「夢物語みたいだけど、それでもオレは実現させたいって思ってるんだ」
パラケルススは照れくさそうに頭をかいた。
「……実は、お前に頼みがあるんだ」
サラマンダーはパラケルススの顔をじっと見つめる。
「よければなんだが——私はお前たちの理念に賛同した。これからも協力していきたいと思っている。だから、私をこの世界の一員にいれてくれないか?」
「って、おい、さっちゃん——」「私は本気だぞ、ウンダ」
「…………」
ウンディーネはサラマンダーの目を見て、黙りこんでしまう。
「いいのか? 本当に」
「ああ、この世界に力を貸したい」
「なら、喜んで歓迎するよ、宜しくな!」
「ちょ、ちょっと待て」
ウンディーネが慌てて割り込む。
「さっちゃんがそう言うなら、俺もそうする。あの世界は神共がうぜーし」
「それでいいのか?」「いいっつってんだろ。拒否権は無しだ」
ウンディーネはニヤリと笑いながらそう言った。

「よし、それじゃあ、改めて宜しくな、二人とも!」
「ああ、宜しく頼む」「お前とは宜しくはしたくねーけどな」

世界創造から一週間、頼もしい仲間が加わった。