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世界誕生から十日後 1 ( No.56 )
日時: 2012/09/07 18:42
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: B2tgeA34)
参照: パラケルスス⇒パラス シルフ⇒汁蕎麦(?)

水と炎の力がみなぎる生まれたばかりの世界の上空を、その精霊は翔んでいた。
向日葵の花弁のような、美しい金髪が太陽に照らされてキラリと輝く。小麦色に焼けた肌は金髪によく似合っている。
透き通った四つの翅は細かく震え、自由自在に空を飛ぶ脚となっている。
お気に入りの赤のゴーグルをかけ、精霊の少年は嬉しそうに笑った。

「中々いいところだな。神界(あっち)とは違って、活気と希望に満ち溢れている。————でも、」

スピードを弱めてホバリングした後、少年はニッと笑う。


「ここには、風(ボク)の力が足りない」

風の精霊『シルフ』はくるくる回転しながら、目的地へと向かっていった。







「やっぱり、火があるのと無いのとじゃ大違いだなー」
俗に言うヤンキー座りで林檎を焼く上司に呆れつつ、ウンディーネは友であるサラマンダーと話し合っていた。
「次は誰に協力を要請するかねぇ。ノームのジジイはまともに話聞いてくれなさそうだし」
「はは、確かにそうかもな。あいつは色々と気難しい」
「いや、それさっちゃんが言う台詞じゃねーからさ」
——話し合いというよりは、雑談といった和やかな雰囲気の二人をガン無視するように、パラケルススははしゃいだ。
「お、絶妙な焼き加減! やっぱサラマンダーパワーつえーな!」
「お前な——」「まあまあ、落ち着けウンダ。しかし、それぐらいの炎なら万能のお前にも起こせるはずだが」
サラマンダーがそう疑問を投げ掛けると、パラケルススは何故か得意げに答えた。
「専門家ファイアは違うんだよ、専門家ファイアは」

「…………あほらし」
「それは、ただ単に自分の力を使いたくないだけだろうが」

案の定、二人に呆れられたのであった。


「——でー、どうする? 俺仲がいい奴なんてそれなりしかいねーし」
「それなりにはいるんだな」
「まーな。塩の精霊とか、氷とか……。でも、氷は後がいい。あいつは面倒」
「オレは病の精霊とか、感情の精霊とか、とりあえず片っ端からお願いしてるぜ。大抵は賛同してくれたけど、やっぱり神やら天使やらがうるせーみてぇだな」
「全く、普段は権限を根こそぎ奪っていくのにな。都合が悪くなると急に騒がしくなる」
三人はやれやれと溜め息を吐く。
「じゃあどうする……って、ん? あれは——」
パラケルススが上空を指差す。二人も空を見上げると、何かがぐるぐると飛んでいることに気付いた。
「って、ありゃシルフじゃねーか。どうして此処にっ」
ウンディーネの台詞と同時に、シルフは急降下する。
シルフは着地する直前にスピードを弱め、ゆったりと着地した。

「や! パラケルスス久々! サラマンダーも元気そうだな! ——後ウンディーネ」
シルフは明るい表情で(ウンディーネの時はやる気のない表情で)そう言う。
「おぉ!! お前も来てくれたんだな!」
「歓迎するぞ、シルフ」
「久々だな汁蕎麦」「汁蕎麦じゃねーよシルフだよ!!」
「お前は汁蕎麦で十分だ」「黙れ黙れ! ったく、本当にオマエは変わらないな」
「この美貌がか? 全く、褒めるなよ」「ちげーよ!!」
と、賑やかで終わりが見えないやり取りが始まり、パラケルススとサラマンダーはやれやれと言った表情でそのやり取りを聞いていた。


「————で、んで来やがったんだよ此処に」
ウンディーネが棒読みでそう尋ねると、シルフはその言い方を完全にスルーして語り始めた。
「いやー、最近神サマさん達が飛行規制とか始めてさー。用がある時以外は高いとこまで翔んじゃ駄目っていって結界張りやがったんだよね。——全く、風の精霊なのに翔べなきゃ力があんまし使えないっつのに」
「多分使わせない為に規制したんだろうなぁ。だから精霊がこっちに移動してくるってのに……」
パラケルススがやれやれと呟く。
「まあ、力を使わせたくないというのもあるかもしれないが——私としては、出ていかせる為にやっているようにも見えるな」
「まー、精霊がいると自分だけの力だーって威張れねぇからな。所詮雑魚はどっかいっちまえって話だろ」
「それでも精霊が消えちゃうとそれはそれで困るんじゃないの? なんでわざわざそんな事を」
三人が様々な意見を交わしている間、パラケルススは一人黙って考えこんでいた。
————もしかしたら、奴らは二つ同時に奪おうと……って、
パラケルススは急に背後を振り返る。何かを感じたパラケルススは、全身の魔力を瞳に集中させて、世界全体を見渡す。
「……すまん、ちと急用思い出したわ」
「はあ? んだよそれ——」「すぐ行かないとヤバイんだよ。……わりぃ。シルフ、儀式頼んでもいいか?」
「え? ——ああ、いいよ。風が行き渡る素敵な世界にしてやるさ」
「んじゃ、よろしくっ」
パラケルススは早口でそういうと、自分に転移魔法をかけて何処かへと消えてしまった。

「————まあ、とりあえずやるかっ!」
シルフはふるふると翅を振るわせて、準備にとりかかった。