コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 世界誕生から十日後 2 ( No.73 )
- 日時: 2012/09/20 18:31
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: W0tUp9iA)
- 参照: とうとう天使登場
目を細めて、深緑の瞳を覆い隠すように紅のゴーグルを装着する。
数回ぴょんぴょんと跳ね、それと同時に翅を軽く振るわせた。
「よし、おっけ。バリア張っておいた方がいいよ」
赤ゴーグルの少年、シルフが近くにいる水と火の精霊に忠告すると、火の精霊——サラマンダーが尾を軽く振り、二人を囲むようにして球状の半透明のバリアを張った。
「あやつの技は直球すぎるからな」
「髪がボサボサになるからほんと迷惑だぜ」
観客席(球)から散々な台詞が発せられているが、それに気づいているのかいないのか、シルフは開始の合図をした。
「イニーツィオ!」
シルフの周りに緑の風がぐるぐると吹き始める。それらはやがてひとつの塊と化して、彼の右腕に巻き付いた。
風の塊がひとつのモノへとなっていき、最終的にクロスボウのようなものへと変化した。
「久々に使うな、『テンペスタ』」
腕に装着するタイプの、クロスボウに似た形状の武器、『テンペスタ』。
エメラルド色のその武器は、風の魔力の集合体であり、彼が長年の間に蓄積していった魔力で精製したモノであるために、彼にしか使えない特別な武器である。
シルフはその後、左手で何かを引っ張って拾い上げるような動作をする。すると、純白の矢が何処からともなく出てきて、それをぎゅっと掴み、満足そうにそれを見つめた。
「そうして『アーラ』か。大技使うことなんて滅多にないからなあ。しばらく出番がなくてごめんよ」
『アーラ』と呼ばれた純白の矢をそっとなで、そうしてそれをテンペスタにセットした。
「さーて、もうすぐこの世界(ばしょ)に風が暴れまわっちゃう事になるよっ」
シルフは弾んだ声でそう言う。バリア越しにウンディーネは迷惑そうな表情をしていたが、隣の友人は興味深そうな表情でそれを眺めていた。
「シルフの技を見るのはこれで初めてだ。一度どんなものなのか見てみたかったんだ」
「俺は別にどーでもいいけどな。……まあ、見ておいてやるけど」
ウンディーネは口元を押さえて軽く欠伸をする。サラマンダーはそれを咎めようとしたが、シルフの動きが変化し始め、後でしようと心の奥底で呟いた。
「あは、風が嬉しそうだ。ボクも嬉しくなっちゃうな」
シルフの周りにふわふわとそよ風が吹き始める。まるで、彼と戯れるかのように。
「——っと、そろそろ暴れたいのかな? なら、思いっきりやらなくちゃだね」
そう言うと、翅を振るわせて何メートルか上昇した後、ホバリングをした。
「————それじゃあ、いっちゃいますか!」
叫びと共に、そよ風が暴風となり、彼にぐるりと囲んだ。
◆
——一方、パラケルススはというと、超高速で空中を移動していた(シルフのような翅がないため飛ぶというよりは
浮いている)。
『高速移動』。彼の能力である『万能』のうちのひとつの能力で、これにはよくお世話になっている。
パラケルススは先程の会話の途中、本来ここに入ることのできない存在を『感知』し、『索敵』して所在地を確認、その後、彼らと別れて『気配を消して』、『空中浮遊』し、『高速移動』している。
『瞬間移動』も可能ではあるが、気づかれてしまうかもしれないため高速移動を選んだ。
「……ほんとこういう時には便利だよなぁ、万能」
パラケルスス思わずそう声を漏らした。
————さて、この辺に潜んでいるはずだ。
パラケルススは着く直前に『透明化』し、少しでも気付かれないようにしせいた。相手が誰なのかはおおよそ予想がつく。念には念をおさないと、逆に返り討ちにされてしまうほどの実力者だ。
パラケルススは右手を前に付きだし、ひとつの球体を精製する。それは『暴露』と『捕縛』のふたつの力が混ざった、彼にしか創れない魔力の塊であった。
それを投げつけるようにして放つと、なにもなかった部分に人型が浮かび上がった。
「————!」
そいつはギリギリでそれを避けたため、『捕縛』の効果はでなかったが、『暴露』は出来た。それだけでも十分であった。
「うわー、ひっどーい。いきなり現れて攻撃なんて、きみには道徳とやらがないのかーい?」
「やっぱりお前か、密偵。——いや、『ゾフィエル』」
漆黒のマントを身に纏い、虚ろな目をした、純白の翼を持つ青年——智天使ゾフィエルは、うんざりとした表情でパラケルススを見た。
「毎度毎度いってんじゃん。ゾフィエルって堅苦しいからやなんだよーゾフィーって呼んでよー」
棒読みで(常に棒読み口調である)そうパラケルススに抗議したが、パラケルススはそれを悠々と聞いているような心の余裕がなかった。
「なんで天使がこの場所にいるんだ。天使と神が入れないようにバリアが張ってある筈なんだが」
「えー? 答えんのめんどくさいんだけど「いいから答えろ!」
ゾフィエルの胸ぐらを掴んで怒鳴るパラケルススの様子を見て、ゾフィエルはやれやれといった表情をした。
「きみに非協力的なやつが精霊にもいることぐらい、きみもわかっていることだろう? 君が必要としている『かれ』とかねー」
「————ッ、ノームの事か……」
「そ。かれに開いてもらったんだよ。精霊とかなら開けられるっぽかったからー」
「それなら、もう少し強化しておかないとだな」
「わははははー。……ところで、離してくんない? くるしい」
「——あー、わりぃ」
パラケルススが手を離す。解放されたゾフィエルはこほこほとわざとらしく咳をした。
「ところでさ、一応ぼくにも任務があるから、それやらしてくんないかなー」
ゾフィエルは無気力な表情でへらへらと笑いながら、深い蒼の、十字架をモチーフとした槍を何処からか取り出した。
「——ちょーだい。お首」
「断る!」
パラケルススは周囲に大量の魔力の塊を張りめぐらせ、そう叫んだ。
「いくら智天使様相手でも、生憎負ける気がしないんでねッッ!!」