コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 世界誕生から十日後 3 ( No.96 )
- 日時: 2012/11/03 22:49
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: lyYROhnH)
- 参照: シルフの技披露&パラスVSゾフィー
風の塊が巨大化していく。恐らく、あれに巻き込まれたら地の彼方まで吹き飛ばされてしまうであろう。
シルフは左手をぶんと勢いよく振ると、風は一本の線となり、天を貫く勢いで右腕を掲げると、風は『アーラ』の中に吸い込まれていく。
すると、シルフの翅が虹色に輝き、小刻みに震わせていた翅のスピードが更に速まった。
『テンペスタ』が本物のエメラルドのような輝きを放ち始めた瞬間に、ふううううう、と空気を吸い込み(余談だが、精霊は別に酸素が無くても平然と過ごせる)、大きく口を開いた。
「翔べ————ッッ!!」
その言葉と共に、アーラがテンペスタから解き放たれ、疾風の如く翔んでいく。
アーラは世界をぐるぐると囲むように翔び回り、そうしてシルフの元へ戻っていく。——減速するどころか、更に加速して。
そうして、アーラはシルフの身体に溶けるように突き刺さる。その刹那、シルフは鉄砲弾のように翔び始めた。
「はは、風が世界に行き渡っていくのを肌で感じるのは初めてだ! こんなに楽しいことだっただなんて! なんだか流れ星になった気分だよ!」
シルフは心底嬉しそうにそう叫ぶ。
それとは対照的に、ウンディーネは顔をしかめていた。
「まさかここまで風が入ってきやがるとは……外はもっとすげーんだろうけど、でもなぁ」
うんざりした表情で髪とスカートを押さえるウンディーネ(意外と女の子らしい部分もあるんですね、という台詞を言うと彼女に瞬殺されるので気を付けよう)だが、親友であるサラマンダーは心地良さそうな表情をしていた。
「風は私の力を高めるものだからな。更に強くなったような気がする」
「髪が、スカートが……っ」
後で一発ぶん殴ろうとウンディーネは心に誓う。
風の精霊は、そんな事はお構い無しに翔んでいた。————そう、戦闘中の万能の精霊と密偵の天使の事も。
◆
「っあー、お前の喋り方のお陰ですっかり忘れてたわ」
パラケルススが魔力で精製した防御壁を保ちながら、そう苦々しく呟く。
「んー? どーしたの?」
三叉の槍で防御壁を貫こうとしながら、そうのんびりと聞き返すゾフィエル。
しかし、その表情は柔らかなものとは言えなかった——何を考えているかわからない、不気味な表情であった。
「いや、『最速』の天使だったんだよねー、って」
「あは。忘れるだなんてひーどーいー」
常人の目では到底捉えられない程のスピードで突き続けるゾフィエル。片腕を高速で動かしつつ、片方の手は天使術なのだろうか。壁を溶かしている。ここまで高度な事が出来る者はそうそういない(そもそも天使術を使いこなせていない天使だって数多くいるぐらいだ)。
「でもパラちょりんの壁も堅いよ。溶けてる感じがしないし貫かれる感じもしない」
「初めて言われたなそのあだ名は。……まあ、世界一個作れるぐらいには力があるんでね、手加減するのに精一杯さ」
そう言って、パラケルススは笑う。
そう、言葉通り、二人とも汗ひとつかかないぐらいに手加減していた。だからこんなに呑気に会話をしているのだ。
「でもお前はオレの首がいるんじゃあないのか?」
「いやまぁ、そーなんだけど。優先順位低いから。視察メインだから」
「ははん、成る程」
「まあ、……でも」
そういうと、ゾフィエルは無表情を少し崩して、妖しい笑みを浮かべた。
「パラちょりんのお首貰えたらお菓子沢山くれるらしいんだよー。だから、お菓子の為に死んで」
「————ッ!!」
そう言った途端、ゾフィエルは一突きで防御壁を粉砕した。
「死因:お菓子になってたまるか」
パラケルススは魔力の球を一本の槍に変化させた。
「おんなじ武器なんて粋な計らいだねぇ。……でも、そーいうトコが甘いんだよ」
思いきり地面を蹴って、パラケルススの首めがけて槍を突き刺す。
パラケルススはそれを凪ぎ払おうと構える。
しかし、そんな時程邪魔がはいるもので。
「「!!」」
突然、疾風が二人に直撃した。
咄嗟に防御したものの、風の勢いをひしひしと体感した。
「まさか、シルフの力がこんな形で体感することになるとは思わなかったな」
「すごーい、こんな大技見るの初めてだー。神界だと精霊の力はセーブされちゃうから、どんな物なのかは興味あったけど、こんなに大迫力なんだねー」
ゾフィエルはそう言いながら、槍をひょいと投げ捨てた。槍は地面に落ちる寸前に光を放って消えていった。
「ん、あんな事言ってたのに、もう戦闘放棄か?」
「うん。まあ、本当の目的は伝令だし」
「……ああ、そう」
それを早く言えよ! とパラケルススはツッコみたくなったが、なんとかそれを抑えて、その内容を訊ねる。
「はは、そう簡単には教えないよー。パラちょりりんがイイ情報教えてくれたらそれに合った情報を話そう」
「——こういうのって、普通お前から話すもんじゃないのか?」
「気にしなーい、きにしない。……で、どうなの?」
ゾフィエルは整った美しい顔(ただしポーカーフェイス)をぐいっとパラケルススに近付け、彼の瞳をじっと見つめる。
「……なら、話してやるよ。まあ、これは宣言みたいなもんだがな」
パラケルススは軽く咳払いをして、すっと息を吸った。
「おーい、ノーム! お前がそこにいるのは分かってる。オレはお前のこと、ぜってー仲間にしてやんからな!! お前が誰よりも自由が欲しいって事は知ってるさ、だからオレはこの世界をもっともっと自由にして、必ずお前を連れ出してみせるッッ!!」
凛とした声が響く。
パラケルススは拳を握って誇らしげな表情をしていた。——まるで、その宣言を必ず実行できるという自信に満ち溢れているようだった。
一方、ゾフィエルはやれやれといったポーズをする。しかし、その瞳は冷酷にパラケルススを捉えていた——そんな事は絶対にあえりえない、といった目をしていた。
「で、それだけ?」
「いや、それだけじゃねえよ。——というか、本当はこっちのほうを先にするつもりなんだがな。まず、オレは牢獄に捕らわれの身である光、闇の精霊の二人を救いに神界に行くぜ」
そういうと、ゾフィエルは珍しく本気で驚いた表情になった。
「————! きみは分かっているだろう、そこの門番——『ウリエル』の強さと恐ろしさが」
「ああ、分かってる。でもな、オレ達にはあいつらの力が必要なんだよ。……さて、オレが話せるのはここまで。で、お前からは?」
パラケルススが挑戦的な笑みを浮かべる。ゾフィエルは表情一つ崩さずにぼそりとつぶやいた。
「……今から約100年後、ぼくたち天使がここに攻め入る。そうして、1000年後には——『この世界すべて』を奪いに、四大天使含めた殆どの天使が此処に来るよ」
「はっ、そんなの上等。受けて立ってやんよ」
パラケルススはニンマリと笑みを浮かべた。
◆
「フィーネ! っと。いやあ、楽しくってついついはしゃいじゃったよ。やっぱり風は最高だぬおっっ」
ウンディーネの軽やかな回し蹴りが見事にシルフにヒットする。
ウンディーネはわなわなと燃える怒りを堪えていた——すっかりボサボサになった髪を、水の櫛で解かしながら。
「手前のせいでこうなったんだ謝罪しろ謝罪」
「んなんするか! これがボクの技なんだよ! 嫌なら神界とかに避難してればあいでで」
「でも翔ぶ必要はねーだろ! ったく、この俺が読者サービスするような事があったらたまったもんじゃねえぜ」
ウンディーネはギロリとシルフを睨んだ後、ひょいと櫛を投げ捨てた。櫛は水の塊に戻った途端、風に飛ばされてどこかへ消えてしまった。
それと入れ替わりに、傷まみれの精霊王パラケルススが現れる。
「ただいまっ。シルフ、あんがとな」
「いえいえ、どーいたしまして。……ってどーしたんだい? はっちゃけるにしては随分激しいけど」
シルフがそう訊ねると、パラケルススは頭を掻きながら軽く答えた。
「あー、天使とボコった」
「へぇ……ってどういう事だよオイ」
「天使だと? 何故天使がここに」
「まさか、ノームとかが」
「ご名答。——しかし、困った事になったんだ」
パラケルススはゾフィエルとの会話を簡潔に述べた。
「……あのな、パラケルスス」
「なんだよサラマンダー」
「わからないようなら教える。そんな重大な事を速答で承諾するな! 本気で潰されるぞ、ここがっ」
サラマンダーは体中から火を噴出して叫ぶ。
「うわぁ、さっちゃんが本気で怒ってら」
「だってさー、そう、言うしか、ないじゃんっ」
「これだから……全く…………」
サラマンダーは怒りを通り越して呆れてしまったらしく、炎がゆらゆらと消えていった。
「まあ、そんな訳だから、しばらくは各自で呼びかけて、仲間を増やしてもらえると助かる。オレは『あいつ』にその事について話した後、しばらくは神界にいってるから」
「って、まさか一人で光と闇の精霊を助けに行くつもりなのかい? 流石のパラケルススでもそれは「出来る。てか、一人じゃないと意味が無いからな。まあ、オレに任せておけ」
「てめーが一番不安なんだよ……」
ウンディーネの呟きを軽く無視して、パラケルススはニッと笑った。
「まあでも、今日の活動はここまでにすっか。久々に酒でも飲んじゃおっかなー!」
そう言った途端、パラケルススは何処かに消えてしまった。
無論、三人を放置して。
「「「…………はぁ」」」
三人はどっと溜め息をついた。