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- Re: 【短編】君の名を呼ぶ【恋愛初心者】 ( No.10 )
- 日時: 2012/07/19 16:08
- 名前: 茜崎あんず ◆JkKZp2OUVk (ID: 92VmeC1z)
*五雫*
ぐしゃぐしゃに握りつぶされた青いプリントを。
「ねぇ、コハク」
白い手が俺に向かってそよいだ。
人間らしい温かみと重さ。
『私には分からない。何故人はこうも憎しみ争うの?』
『教えてよ!』
俺だけに見せる君の弱さを、包み込んであげることは出来ないのかな。
「辛くなったら、泣いてもいいんだよ」
六十七年前のあの日から、俺たちの時は止まったままで動かない。
そして君は。すべてを忘れてしまったんだ。
「わかんないの。私、どうしたらいいか」
「言ってご覧、助けてあげるから」
一点のくすみも無い黒い瞳は今も昔もそれから過去も、全てを映し、反射する。
話してご覧。君が俺のことを失うまで、ずっとずっと護ってあげる。どんな災難も災厄も全部とっぱらって。
君を、まもるよ。
「構わないでほしいのに。なんか、嬉しいんだ」
ああ。君はこれから大人になっていくんだね。
改めて別れの時が近づいていることを認識し、俺はなんだか寂しくなった。
「こんな軟弱なココロなんて要らないのに」
ああ。泣かないで。
この気持ちは君が成長していくひとつの証さ。
「だから恥じることなんてないんだよ彩刃」
「……そうなのか?」
「勿論。俺は嘘を言わないよ。昔から知ってるだろ?」
「…………うん、そうだね」
やっと笑顔が見れた。
晴れ渡った青空のような、澄み切った深海のような。
「肝だめし、行ってみなよ! 彩刃は幽霊見えるんだからさ。俺の友達かなんか連れ帰って来てよね! あ、出来れば可愛い女の子がいい……」
べちん。
頬に止まった羽虫を潰すほどの緩やかなスピードで、俺の頭にビンタがやってきた。
「そんな都合よく見つかるわけないでしょばーか」
「ごめんなさい」
ああ。良かった。
南雲彩刃、完全復活。
ちょっと電話をかけてくるからと言って、彼女は自分の部屋を出る。
「もしもし、大葉くん?」
電話の相手は大葉瑪瑙くんだった。
幼い頃から彩刃につきまとってる俺は、彼女の友達ならほとんど記憶している。
それに。
『お前が月村? ひょっろいなぁ~』
『うるせー』
俺はアイツを知っている。
もう何年も昔から。