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Re: 【短編】君の名を呼ぶ【恋愛初心者】 ( No.4 )
日時: 2012/07/17 23:51
名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)

*三雫*


「この孤児院という場所で」

きみはこれからくらしていくんだよ。


言葉はわかる。
目も見える耳も聞こえる。

でも。

「なぐも あやはちゃん」

これが私の名前らしい。


「君は記憶喪失障害、前頭葉を酷く損傷していてね。あの事故で奇跡的に助かったんだ。命があるだけでも幸運に思わないと」

なにいってるかわからない。
キオクソウシツショウガイ?
ゼントウヨウ?

アノ
事故?


「ああ、ああああああああああああああああああ」

この話はまだ早かったか。
舌打ちともに誰かがこぼす。


「とにかく、お父さんとお母さんとお腹の妹さんの分まで、幸せに生きるんだよ」


三月十日。
裕福なとある一家を乗せた車がブレーキトラブルを起こし電信柱に追突。妻と五歳の子供を守る為、全身に割れたガラスをかぶった父親は絶命。
しかし、事件はこれでは終わらない。
転倒した一家の車に突っ込んできたのは灯油運搬の軽トラックだった。シートに挟まれ身動きの取れない母親は最後の力を振り絞り、車外に娘を放り投げる。その直後。

エンジンと灯油が誘発。炎天下の日差しの中、妊娠七ヶ月の母親を乗せたまま車は炎上。

事故後、警察は吐血しながらも何とか命を保っていた少女を発見した。


その後三度の手術を施され、少女は孤児院に送られる。




「辛かったね」

「だってなにいってるかぜんぜんわかんないのに」



コハクが頭を撫でてくれた。

私の顔には無数の傷がある。

腕にも足にも頭にも。


「ねぇコハク」

「どうした」

「ここが、いたいの」


物心つく前から
ソイツはいつも私のそばに

いてくれる。