コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【短編】君の名を呼ぶ【恋愛初心者】 ( No.7 )
- 日時: 2012/07/18 13:32
- 名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
*四雫*
「きもだめし」
はい、と手渡された紙には、小学生男子特有の汚ない平仮名で様々な予定が書き込まれていた。
「解読不能なんですけど」
「またまたぁ。行ったら絶対楽しいってば」
普通、肝だめしと言ったら夏だろう。わざわざ十月に実施する必要性が皆無すぎる。
「な、行こうぜ南雲さん」
無理に着てみたのだろう大人もののTシャツから、日に焼けた健康的な肌が覗く。
彼、大葉瑪瑙(おおば めのう)は私と最もかけ離れた人種だ。
明るく爽やか。皆が彼に集まりそこから輪ができていくような正反対のタイプ。
実のところ出来るだけ関わりたくない。
死ぬ程話も合わなそうだし。
友達も多い、先生にも信頼されてるし、女の子からの人気だって高い大葉くん。
何故私をこんなにも構うのか。
「なんで私を誘ったの?」
言ってしまってから後悔した。この言葉はきっと彼を傷つける。
覆水盆に返らずという諺があるように、命と発言は還らないから。
私を見つめ、大きな瞳を見開いた大葉くん。
何を言われるかわからなくて、私はひゅうと息を飲んだ。
「そりゃぁ……いっぱいいた方が楽しーじゃん」
「え」
予想外。全く斜め上の珍解答である。
でも本人にその自覚は無いようで、いつもの人の良さそうな笑みを浮かべて私の返事を待っていた。
「私なんか居たって、暗いし、ひねてるし。心から行事を楽しむなんて無理だし」
正直に話す。
こんなに真っ直ぐな目に嘘をつくなんてできない。
「ていうかいない方が絶対…………」
「でもさ、南雲さんだって六年一組なんだよ」
褐色の指が青いプリントの一部分を指差した。
「ほら、全員参加」
「…………!」
なんだ、私だけ特別に言ってたのかと思った。自意識過剰も甚だしい。
紅潮した頬を悟られぬようにと、私は急いで下を向く。
「俺は南雲さんにきて欲しい。気が向いたら電話して」
髪で隠した私の顔を覗き込み、大葉くんは自分の電話番号を書いたメモを手渡した。
何だこいつ。わけわかんない。
「あ、あとスカートはいてきてよ! 君いっつも黒いズボンだからさ」
「どういうこと?」
「南雲さんの可愛いカッコ、見てみたい」
それだけ言い残し、走り去ってゆく大葉くん。
本当にわけがわからない。
彼のことも、自分のことも。