コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ホシゾラ ( No.11 )
- 日時: 2012/10/06 14:45
- 名前: 伊織 (ID: 31IKLfxT)
母方の祖母の家は、一般的に田舎と呼ばれるところにあった。
ものごころついたときから、夏休みには必ず一週間以上泊まりに行っていた。
そして、あの時も
八泊九日のお泊り計画を立てていて、そのため宿題を終わらせるのに躍起になっていたと思う。
だから
車で二時間かかる祖母の家にやっと着いたとき、言ったはずだ。
母さんの言葉の後に続いて。
「ばーちゃん、来たー」なんてことを。
それなりに都会で暮らしていたおれにとって、田舎は楽園といっても過言ではないほどに楽しんでいた。
畑仕事を手伝うのも、楽しい。
家で出たら残しそうなものもすべて平らげた。
虫の種類が多くて、一日中アミを片手に駆け回り。
蝉の声に癒され、カブト対クワガタでバトルさせ。
汗を掻いたら、冷たいスイカ。
夜になったら
花火を振り回し。
虫を捕らえるため、祖父と仕掛けを作りに行った。
確かあの夜は、村の花火大会だった。
神社の模擬店で、食べたいもの・遊びたいことをやりきったおれは、どこが一番花火が見やすいかを探すために神社を走り回っていた。
いい場所見つけた、と立ち止まったそこは、敷地内にある裏庭っぽい(曖昧だが何せ幼いのだ)所で、大きな池があった。
優越感に浸る馬鹿なおれは、そのとき初めて気付いたのだ。
一人の少女がいたことに。
当時おれと同年代っぽそうなその少女はぽつりと呟いた。
「花火なんかいらない」
「どうして?」
思わずおれは訊いていた。
「だって…星が見えないもの」
その子は、おれに色々なことを話してくれた。
星が好きなこと、なのに自分は都会に住んでるから星が見れないこと、田舎が好きなこと…。
話していて、聞いていて、分かった。
この子は優しいってことが。
「ねえ、星を見て、わいわいするところ、どこかにあるかな?おんなじ年ぐらいの子が集まってね、みんなで星のことしゃべれる場所、あるかな?」
花火も終わりに近づいたころ、唐突にその子は言った。
「ある、と思う。なかったら、作る。おれも、星、好きだから」
なんてことを夢の中のおれは言っていた。
花火が完全に終わったころ、「太陽〜」とおれを呼んでいる声が聞こえた。
「太陽って名前なの?」
問われ、おれは頷く。
「そっか。わたしはね……」
どっかーん、と花火の音がして、その子の声はかき消された。
花火の音に続いて、打ち上げるのを忘れていた、というアナウンスが聞こえる。
「太陽くん。いつかまた、こうやって、星のこと、いっぱい話そ?」
「うん、約束。」
「じゃあ…」
またね、と声が聞こえたのは空耳だったのだろうか。
朝になって、祖母にその子のことを聞いてみると、祖母は微笑みながら教えてくれた。
「この辺りに、太陽ちゃんと同じ年ぐらいの子はいないからねー。でも確か、佐々木さんのお孫さんは、太陽ちゃんと同い年の女の子だったはずよ?それに…曖昧なんだけど、太陽ちゃんの住んでる東京都とお隣さんの県に住んでたと思うの。何なら、おばあちゃん、電話しよっか」
そう言って佐々木さんに電話してくれたのだが、佐々木さんは留守だったらしい。
佐々木という苗字だけでも知れた、と喜んだのだが、佐々木さんの娘さんがあの子の母親で、姓は現在違うため、結局これといったことは分からなかった。
そのうち、そのこともあやふやになっていき、おれも訊きづらくなったので、情報はあの頃とまったく変わらず何の手がかりもなかった。
そして、今。
おれは活動内容不明(星の話が出るのも少ない。わいわいはしていると思うが…)の天文部に入り、
風斗とたわいもない話をしながら
あの子を探している。
あの子を。
☆第三話☆
★END★