コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ホシゾラ ( No.7 )
- 日時: 2012/08/10 10:30
- 名前: おかき (ID: .LcVZmvG)
そしてやって来た。
最強(恐)の五藤天文部視察の日、当日。
だが、晴陽高校を牛耳るバケモノたちがこの拠点に攻め入るというのに、我が天文部の部員は全く緊張感がない。
天文部へ入部して数週間。だんだんとコイツらの性格が分かってきた。
特に厄介なのは部長・神崎雪路。
おれを天文部へと勧誘(というか脅迫)した時もそうだったが、とにかく傲慢・高飛車・頑固な、一癖も二癖もある重要問題危険人物。
アイツの第一印象は最悪だった。
始業式の翌日。1-Aではひとり一分、自己紹介をする時間が設けられた。
その時のアイツの自己紹介はこうだ。
鋭い眼光で、堂々と仁王立ちをし一言。
「7番・神崎雪路。お前達に話すことなんて何もないわよ、以上。」
その後自己紹介をした8番くんは泣きそうな顔をしていた。
勿論、そんな女王様モード全開な奴を良く思う者などいるはずもなく、アイツに近づく人は現在も誰ひとりいない。
もっというと、アイツはいつも休み時間になると忽然と姿を消してしまう、謎多き人物なのだ。
そんな未確認生物神崎雪路がふいに言葉を発した。
「よし、帰るわよ」
その言葉に続いて、神崎の中学時代からの親友・江野雷來と、宇宙人と話せる(らしい)東雲くらも、そそくさと帰宅の準備を進める。
まさか約束をすっぽかすつもりか?どこまでワガママなんだ。
「おい待てよ、今日ここに生徒会が来るんだろ?」
おれは帰ろうとする神崎に声を掛ける。
「ああそれのこと?それならあなた達で適当に対応しておいて」
振り向きもせず、歩みを止めもせず、神崎はドアへと手をかけた。
そしてドアを開けると同時に、神崎はボソっと呟いた。
「……“アイツ”の相手は面倒だもの…」
「誰の相手が面倒なのかな?」
そこには微笑を浮かべた一匹の大魔王と、大魔王に仕える部下の魔人四匹の姿があった。
—————きた。
「生徒会執行部です。本日は、天文部の活動内容を視察させていただくためにお伺いしました」
晴陽高校のトレードカラーのイエローとオレンジを使った生徒会の腕章が、白いシャツに映える。
「生徒会長の、炎藤京哉です」
「副会長、海藤泉水です」
「書記の知藤優です」
「会計の金藤諭吉です、よろしくっ!!」
「風紀の峰藤麗美と申します、宜しくお願い致します」
…ん?
あの後ろにいるのは誰だ?
と、その後ろにいた人物がひょこっと顔を前に出した。
「あっ、えと、生徒会の皆さんのお仕事のお手伝いをしてる、お世話係の如月弥生です」
そしてぴょこぴょこと頭を下げる。
お世話係…、まさに生徒会様様だな。
「僕たちを気にする必要はありません。皆さんは通常通り、部活動を進めてください」
炎藤が全く変わらない笑みを浮かべながら言った。
すると、神崎が鋭い目をさらに鋭くさせ、炎藤の前に一歩歩み出た。
「ほう?お前、生徒会長となどになっていたのか?偉くなったものだな」
そう言うと神崎は「フンッ」と炎藤を鼻で笑った。
まさかの、突然の口調の変化に、おれはぎょっとした。
おいおい、天下の生徒会長様に向かって、いきなり何て口を聞いてんだアイツは。
そんなおれの不安をよそに、さらに神崎は続ける。
「お前らの噂はよく聞いているぞ。生徒達や教師陣からの信頼も熱いとか‥。あと、『生徒会ファンクラブ』などというものも存在するらしいな」
炎藤は表情を変えない。
「驚いたよ、まさかお前がそんな大層な人間だったとはな。昔のお前とは大違い‥」
すると、一瞬にして炎藤の顔から笑顔が消えた。
だがなおも神崎は続ける。
「うちの中学校は都外だからな、この晴陽高校に在籍する者は少ない‥いや、私と雷來、そしてお前の3人だけだ。だが、それ以前からお前と付き合いがあるのは私だけ。つまり、お前の過去を知る者は私しかいないという訳だ」
「…神崎さん、その話はやめてもらおうかな」
「お前の過去を知ったら、生徒たちは驚くだろうな。この晴陽高校が大きく揺れ動かされるかもしれない」
「…神崎さん」
「なんならいっそ話してあげようか、お前が昔—————」
「やめろって言ってんのが聞こえねえのかじゃじゃ馬が」
沈黙が、部屋全体を包み込んだ。
……これが最恐の五藤の、炎藤京哉か。
「…ついにボロが出たな、その方がお前らしいよ」
そこまで言うと神崎は、すっと後ろへと退いた。
「炎藤ー、あんまムキになんなって♪」
炎藤の隣にいた金藤が、炎藤を宥める。
「…別に、僕はムキになんかなっていないよ」
するとまた炎藤は、軽く微笑を浮かべた。
だがその目は確実に、笑っていなかった。
「ああそうだ、僕吹奏楽部の顧問の先生と話があるから、視察はそっちでお願いするよ」
そう言うと炎藤は、ドアの向こうへと歩みを進めていく。
…が、すぐにぴたっと立ち止まり、
そしてこちらを振り向くと、こう言った。
「……天文部には、もう少し視察が必要かな?」
そう言い残し、天文部部室から炎藤は姿を消した。
再びの沈黙。
「…では、引き続き部活動の続きを、お願いします」
その沈黙を破ったのは、メデューサ様の落ち着いた一言だった。
すると神崎は、どこか達成感に満ちた表情で、
「急用を思い出したわ、先にやっといてくれる?」
とだけいうと、さっさと部室を出て行ってしまった。
…神崎が、炎藤の過去を知っている…?
詳しい話に関しては、おれは茶々を入れるつもりはないので分からんのだが。
ただひとつ分かること。それは、これでおれたちは、このバケモノ共を敵に回してしまったという事だ。
…神崎め、厄介な事に巻き込みやがったな。
「ったく、どこまで自分勝手なんだ、うちの女王様は」
その日部活で何をしたのかは、今でもよく覚えていない。
第2話・終