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Re: 泡沫グレープフルーツ【短編集】〜連載はじめました〜 ( No.66 )
日時: 2012/10/02 22:49
名前: 上総 (ID: SnkfRJLh)

01.オサナナジミとの約束




『大きくなったら、結婚しようね!!』


なんて、子供の頃ならよくある約束。

もちろん、お互い本気じゃないと、そう思っていた。




——————この時までは。



                  *


転入生が来る。

そんな噂が流れたのは、夏休みが明けて2か月も経ったというのにまだまだ暑さが続く、10月のことだった。

どうやらその転入生というのが相当かっこいいらしく、クラスの女子は相当舞い上がっていた。
私と成海は、全然興味が無かったのだけれど。

ふいにガラガラ、と音を立てて教室の扉が開いた。
出て来たのは、先生と、噂の転校生。
確かに外見は噂の通り、かっこいいと言える。普通の女子なら、好きになったりするんだろう。
実際問題、女子はキャーキャー言いながら顔を見合わせている。

うるさいな、とかそんなことを思いながら頬杖をつき、窓の外を見ていた私は、次の瞬間そんなことをしている場合ではなくなった。

転入生の、一言で。


「藤沢 悠です。よろしくお願いします」


フジサワ、ハルカ……?


「ハル!!」

ガタン、と音を立てて椅子が倒れる。
と共に大声を上げて立ち上がった私に、クラスのみんなが視線を向ける。

藤沢 悠。その名前には大いに聞き覚えがあった。

今から7、8年程前————当時小学校1年生だった私の家の隣に、ある日ハルが引っ越してきたのだ。
ハルは、男の癖に気が弱くて、ヘタレな奴だった。
そのうえ虐めても反論できないような奴だったから、面白がってよく虐めていたものだ。
例えば、ハルが私の家に遊びに来た時は靴を隠してみたり、真冬に水をかけてみたり。
今思えば酷いことをしたと、後悔もしている。
でも、4年生の時にハルが転校して以来、全く会っていなかった。
最初に見た時に分からなかったのは、それだけでは無い。
今のハルは、私が知っているハルとはどこか違っていた。
あの見るからに弱そうな雰囲気は消え、凜としていて、まるで別人のようにも感じられた。

「ちょっと、どうしたの?」

後ろの席に座る成海に小声で背中を突きながら言われて、我に返る。

「い、いや…なんでもない」

そう言って静かに座ると、ハルがにやりと笑った気がした。