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Re: 泡沫グレープフルーツ【短編集】〜連載はじめました〜 ( No.68 )
日時: 2013/01/19 17:06
名前: 上総 (ID: SnkfRJLh)

[ しあわせ¥525(税込) ]


「……最悪」

ザーザーと音を立てて降り続ける雨を見ながら、私は溜め息をついた。
20回目の誕生日。
最近出来た恋人も、祝ってくれると、そう言ってくれたのに。
外は、数分前に降り出した雨の所為で暗い。その為か、家に行く、と恋人から電話があってから早10分。
どんよりとした空気の所為か、気持ちまで沈んでくる。
いつもなら一番日が照っているはずの時間なのに、空は灰色の雲に覆われている。

ふいに、インターホンが鳴った。
はい、と画面を見てみれば、待ち侘びていた恋人の顔。
そして数秒経った頃、今度は玄関のチャイムが鳴る。
ガチャリと音を立てて扉を開けると、そこにはずぶ濡れの恋人の姿。

どうやら丁度よく雨に降られてしまったらしく、服は濡れて張り付いているし、髪からは雫が滴っている。

「ごめんごめん、雨宿りしてたら遅れちゃってさ……」

でもこれ、買ってきたからと言いながら見せられたのは、コンビニの袋。
けれど、中はうっすらとしか見えず、何が入っているかまでは特定できない。

「とりあえず、はい」

そう言って、恋人にタオルを渡す。
何故誕生日にこんなことをしなくちゃならないんだ、と思うけれど、雨なのだから仕方がない。

(今まで誕生日に雨降ったことなんてなかったんだけどなぁ……)

ついてないのかもしれない、とそう思った時。

何やらキッチンの方でガサガサと音がした。
振り返ってみれば、どうやらそれは恋人がコンビニ袋を漁っていたようで。

「何、して……」

言いかけた時、恋人が自分の横をすり抜けて電気のスイッチをパチン、と消した。
何が起こるのか全く分からずにキョロキョロしていた、その時。


「ハッピーバースデー、トゥーユー」

突然、恋人が歌い出した。
恋人の手には、ホールケーキとは程遠い、けれど美味しそうなカットケーキ。
多分、コンビニで買ったのだろう。

「ハッピーバースデー、ディア……」

自分の名前を呼ばれ、目の前にコトン、とケーキが置かれる。
ケーキの上には、ろうそくが2本立っている。
数はとても少ないけれど、それがなんだか、とてつもなく嬉しく思えた。

「2本で20歳ってことで」

ダメ?と悪戯っぽく笑う顔を見ていたら、何故だか涙が零れてきた。

「えっ、ちょっ、なんで泣いてんの!?」

いきなり泣かれて驚いたのか、おろおろし始める恋人。
それを見ていたら何だか笑えてきてしまって、笑い泣きの様な状態になってくる。

「なんか、嬉しくて」

そう言えば、嬉しかったのか微笑む恋人。

目線をずらせば、ケーキのパッケージが置かれていた。
そこには、『¥525(税込)』の文字。
何だか嫌に生々しく思えたけれど、少々値を張ったことが分かる。





(人生で一番、ハッピーな誕生日)






しあわせ¥525(税込)