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Re: 【恋愛とか】 嘘つきミルフィーユ 【短編集】 ( No.89 )
日時: 2013/01/19 16:51
名前: 甘月 (ID: SnkfRJLh)
参照: なにより大切なのは、きみだから

[ ポケットの中の微熱 ]



「……はあ」

外は思った以上に冷たくて、吐き出した息は白くなって消えてしまった。
約束の時間からもう、1時間ほど経っただろうか。
イルミネーションを見に行こう、とはしゃいでいた彼女はまだやって来ない。
もしかして、すっぽかされたんだろうか。
それとも、彼女に何か、あったのか。
前者ならばそれはとても悲しいけれど、後者ならばこうしている場合ではない。
けれど連絡もつかないし、動くに動けない状態である。
大きいし目立つからここにしよう、と待ち合わせ場所に選んだツリーには、たくさんの人がいた。
待っていた彼氏あるいは彼女の恋人がやってきて、去っていく。
それが目の前で繰り返されていって、ここを選ばなければ良かったと密かに思う。

「ごめん!!」

後ろから、声がした。
振り返って見てみたけれど、声を掛けられたのは自分ではなく、自分の横にいた人間。
おっせーよ、と呟きながら男は彼女らしき女の子と去っていく。
小さくなっていく二人を見守りながら、もう一度息を吐き出す。
同じように白くなって消える息が、なんだた儚く見えた。


「ご、めん……!!」

後ろから肩を叩かれて振り向けば、そこにいたのは待ち侘びていた彼女だった。
息を切らしながら謝るその姿に、色んなものが吹っ飛んでいく。

「よかった……」

小さく呟きながら、少し力を加えれば壊れてしまいそうなくらい細いその身体を抱き締める。
怒りよりも何よりも、彼女が無事だったことへの安堵の方が勝っていた。

「とりあえず、はい」

彼女の冷たくなっている手を取って、自分のポケットに招き入れる。
自分の手も冷たくなっているからあまり意味は無いけれど、外気に触れさせているよりはマシだと思う。


(きみの体温が伝わって、)
(じわじわ熱が広がっていくんだ、心にも)