コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺の幼馴染みが橋の下に住みついたようです。 ( No.1 )
- 日時: 2012/09/07 19:17
- 名前: なちゅら (ID: d.VkFY9X)
プロローグ ①
世界は広い。当たり前だ。
そんな広い世界の中、俺の幼馴染みは、暑い暑い夏の日に、突然消えてしまった。
まずは、その幼馴染みに何が起こったかを説明させてもらおう。
———*
夏の太陽が、ジリジリと大地を照らしている。
安積東高等学校の2年B組。彼女は、今日もそこで勉強していた。学生なら当たり前であろう。
授業中にだけかける、赤ブチ眼鏡。そろそろ変え時かな。見えづらくなってきた。
セミの声がやけに五月蝿かった。
時計に目をやると12時15分。そろそろ終わりだ。大半の生徒は、同じことを考えているのであろう。
あー、眠い。昨日、遅くまで漫画読んでたせいかなあ……。
彼女、臼杵紅浬(ウスツキ アカリ)はそんな事を考える。
小6の冬、母親が夜逃げ。母がいなくなったときのショックは大きかったが、父が母の分も頑張っているところを見ると、弱音は吐けなかった。父の手伝いや、一人で夕食などを作っていたかいがあってか、家事だけは本当に上手くなった。
父はサラリーマンだが、家計はギリギリ。切り詰めて切り詰めての生活。紅浬は、高校に行かず働くことを提案したが、父は勉強だけはさせておきたい、と進学を勧めた。父のおかげで、今ここにいれる。それだけには感謝したい。
「きりーつ。」
ハッ。いつの間にか終わっていたようだ。ふーっ、やったー。今日は午前で終わりなんだー。
紅浬は脳内で、帰ってからすることを色々考えながら起立した。
「礼。ありがとうございましたー。」
どうにも、やる気がない号令。
それでも誰も気にしない。どうせ、いつものことだ。
「ねぇっ、竜輝! もう帰っていいかなぁ!?」
紅浬は幼馴染みの寺井竜輝(テライ リュウキ)に問いかける。幼稚園の頃から、小学校、中学校、そして高校と、クラスも全て一緒。竜輝本人は、五月蝿い幼馴染みとは離れたいと、密かに思っているのだが……。これがなかなか離れない。おまけに、周りにはありもしない噂が渦巻いていて……。腐れ縁という単語がよく似合う2人。
竜輝は面倒臭そうに、
「あー、……へー、そうだね、帰ればいいじゃん」
と、冷たく返す。しかし、そんな返事に怯む様子もなく、歯を見せて笑いかける。……意味ありげに。
「ちょっと、出かけたいところがあるんだけど、どうせ暇でしょ? いくよ!!」
紅浬は竜輝の返事も聞かずに、竜輝の手を握り走り出した。
「おいやめろ、俺今日パス! 面倒臭ぇ!!」
竜輝は、幼馴染みの手を振りほどいて教室へ逆戻りしようとする。カバンが教室に置きっぱなしだったために。
「拒否権はありません! いいから私に従いなさい!!」
紅浬は竜輝の手を再びつかんだ。
クッソ、握力40kgの馬鹿力女め!!
竜輝は、手首に痺れを感じながらも、教室へ向かおうとする。
「おい、手前はいつから俺の女王様になったんだよ!?」
竜輝が怒声を上げても、紅浬は怯む様子1つも見せずに
「何、言ってるの? 竜輝は、ず————っと前から私の下僕でしょ?」
といらだたしく笑ってみせる。しかし、その笑顔は画像だけで見ると、本当に無垢な笑顔だった。
「なった覚えはねぇよっっ!!!」
竜輝は幼馴染みを引きずりながら教室へ戻る。
教室にはまだ生徒が大半以上いて、皆楽しそうな顔をしている。
自分の机まで行ってカバンと、机の中からPSPの入ったケースを取り出す。
またコイツの買い物に付き合わされたんじゃ暇でしょうがねぇからな……。
そんな事を考えながら、竜輝は幼馴染みを横目で見た。幼馴染みは、拗ねた子供の様な顔で横を向いている。竜輝176cm、紅浬155cm。その身長差、21cm。上から見下ろした紅浬の顔は、竜輝には、よく見えなかったが——……。
……どうせ、家帰ってもなんもねぇしなぁ。コイツ、家帰ってもどうせ1人だから、やっぱ、寂しいのかな。
「……で、何? どこに行くわけ?」
竜輝は渋々、紅浬の用事に付き合うことにした。
「んー、行ってからのお楽しみ」
紅浬は教えるつもりはさらさらないようで、竜輝は溜息をつく。
校門を出てからも、紅浬は竜輝の手首を握っていた。竜輝はそれが相当気になるらしく、
「おい、いい加減、手離せ。」
と冷たく言い放つが、
「えー? だって竜輝、絶対逃げるじゃん」
と相変わらず、離そうとしない。
「逃げねーっての! ここまで来て誰が逃げるか!」
「逃げるね! 嘘つき竜輝!」
紅浬は、離してくれそうもなく、結局、竜輝は紅浬に手首をつかまれたまま歩く。まるで、無理矢理病院に連れて行かれる子供のようだ。
これ、他の奴に見られたらどうすんだ。
ったく、この馬鹿がそこまで考えてるワケもないしな……。どうか、知り合いだけには見られませんように。
紅浬の家の前(と言っても、築30年のボロいアパートだが)に着く。紅浬は、そこで初めて竜輝の手を離した。アパートの、塗装のはがれた壁が、その存在を際立たせている。・・・悪い意味で。霊でも出てくるんじゃないか。そう思えるほど物騒なアパートだった。最近は、近所のガキも怖がって近づかないほど。
「ちょっと待っててね! 逃げたら手首折るから! 」
物騒なことを吐きながら、紅浬は、アパートの階段を上がっていった。
逃げるったって、俺の家はすぐそこだろうがよ。
竜輝の家は、このアパートの前の道路を真っ直ぐに行き、1つめの角を右に曲がったところにある。そんなに新しいわけでもないが、霊などは出ないので、特に問題はない。
ところで、何だ。……すごく、嫌な空気がする。
いや、霊とか、そんな意味ではなく。
事故が起きそうな、そんな気配。
……お願いします神様。どうか今日は平穏な日でありますように。