コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 俺の幼馴染みが橋の下に住みついたようです。 ( No.2 )
日時: 2012/08/22 19:16
名前: なちゅら (ID: Fhb4zUz0)

プロローグ ②

 赤いペンキがはげた古ぼけたドアを開けると、1つの大きなダンボールがあった。
 ダンボールの上には、手紙。彼女はそれを手に取る。

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紅浬へ

母さんの居場所が分かった。
すまない、俺はやはり朝実アケミのことが諦められないらしい。
絶対にこの場所へ戻ってくる。本当だ。
この約束を破るつもりはない。
……もし、破ったとしたら、その時は俺を殺してくれ。許そう。
1年以内には、絶対に母さんと、この場所に戻ってくる。
そして、昔みたいに仲良く暮らそう。
今やらないとダメなような気がするんだ。

本当に自分勝手な都合でもうしわけない。
1年間、青森のおじさんの家で預かってもらうよう頼んだから、そのへんは心配することはない。
今日中に青森へ行ってくれ。交通費はダンボールの中に入ってる。
それと、このマンションも今日中に出て行ってくれ。
ダンボールの中身は、全てお前の荷物だ。重いかもしれないが、頑張ってくれ。
本当に申し訳ない。すまない。

絶対に俺は朝実を連れ戻す。
俺のわがままを許してくれ。

母さんと戻ったら、おじさんの家に電話する。
竜輝君や友達にもちゃんと別れの挨拶はするように。高校での転校手続きは済んだから。
青森でも、ちゃんと高校に行くんだぞ!!

父より
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 紅浬は、急いでダンボールを開けた。
 大きなダンボールの中には、服、本、漫画、写真、ヌイグルミ。どうやって運べって言うのよ。重くて持てないよ。
 そんなごちゃごちゃした箱の中で、一番最初に目が入ったのは、茶封筒。やけに分厚い。何が入っているのか。
 紅浬は、そっと中を見る。そして、驚愕した。
 諭吉———……、いや、一万円札がわんさかと入っている。
 こんなお金、どこから……!?
 冷や汗がどんどんどんどん流れてくる。
 そんなの、知らないよ。私、ずっとこの場所にいたいよ。青森? 遠すぎるよ、そんなの。この場所から離れるなんて、絶対に嫌。竜輝も、友達も、この場所からも、みんなとさよならするの? 生まれてから16年。ずっと育ってきたこの場所。愛着がわかないほうがおかしい。

 紅浬は階段を駆け下りる。 
 塀にもたれて携帯をいじってる竜輝に、申し訳なさそうにに言う。
「ごめん、竜輝! 今日、ちょっと用事あるんだった!!!」
だらだらと冷や汗が流れてくる。
「はぁ!? 手前、ふざけんのもいい加減にしろよ!!」
竜輝はいらつきながら返す。本気で怒っているわけではないが。
 しかし、紅浬が反発する様子はない。俯いて、黙って、そして、肩を震わせていた。その様子に気付いた竜輝は訊く。
「……お前なんか顔青いぞ……? なんかあっただろ、話せって。」
紅浬は俯いたまま言う。
「何も、ないって………………」
疲れきったような、冷たい声で。
「嘘。嘘つきはお前だろ、嘘つき紅浬。やけに明るかったのに、こんなに暗いとか、ありえねーよ。絶対何かあ


 「うるさい!!!!!!!!!」 


 紅浬は、竜輝の言葉を遮り怒鳴る。脅すように、それ以上何も言うなとでも言うように。
 そして、ハッと気付く。見上げると、竜輝はいつも通り、つまらなそうな顔でそこに立っていた。
「あ……、ごめん、その……
「ほら、やっぱりお前おかしいよ。何があったんだよ?」
竜輝は、紅浬の瞳を見つめながら言う。それでも紅浬は話そうとしない。
「ごめん……。でも、何でもないから……。あはは……。ほんと、ごめん」
紅浬はもうしわけなさそうに言う。
「ごめんはもういい。聞きたくねぇ、そんなん。……まぁ、困ったときはすぐ言えよ。いいな?」
そう言うと、竜輝は踵を返し、帰路についた。
 竜輝の背中を見つめ、紅浬は呟く。

 「竜輝……。言えないよ……、言ったら竜輝に迷惑かかるじゃん……。……でも———


 私、どうすればいいのかなぁ……? 」

 紅浬は空を見上げる。清々しいほどに青い。
 なんで、こうなっちゃうんだろう?
 私が、わがままばっかり言っていたからかなぁ——……? 
 ねぇ、どうすればいい?

 誰か、教えてよ—————……。

 彼女はうずくまる。そして、汗と涙が混じった液体をぽたぽたと地面に落とした。